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2022年6月9日木曜日

素朴な質問 あれこれ

 日々に気づく素朴な疑問が物事の本質にかかわっていたり、難問への入口だったりすることって、あるような気がします。そして、そういう素朴な疑問は、多くの場合、大変優秀な先人達が疑問を解消してくださっていたり、深く取り組んでいてくださることが多いです。

思い出すと、幼稚園のお便りに、「『なぜ』がいっぱいですね」と書かれ(先生を困らせていたのでしょうか…震)、長じても、色々な疑問が浮かんでは消えていきます(笑)。

 

1.慣性の法則(なぜ電車の中でジャンプしても後ろに飛ばされないの?)

 小学生の頃、電車に乗っていて、どうして走っている電車の中でジャンプしても後ろに飛ばされないのだろうと、急に不思議に思うようになりました。

 そこで、思いきって、小学校の担任の先生に質問すると、「地面でジャンプして同じ位置に着地するのは普通だと思っているかもしれないが、地球はものすごいスピードで自転しているんだぞ。動いている物にのっている人は、その動いている物と同じスピードで動こうとするから、ジャンプしたからといって、急にその場に留まったりしないのだ。」と教えてくださいました。地球は自転していると知識では知っていましたが、地面がそんなすごいスピードで動いているとは想像できなかったので、ビックリしたものです。中学校に入ると、これは慣性の法則という、ニュートンの運動3法則の第一法則の話なのだと知りました。

 2.国税徴収法に基づく差押(なぜ滞納処分の差押では令状がいらないの?)

  山口県阿武町で4630万円が誤って振り込まれた問題では、当初のなぜ仮差押を迅速に行わなかったのかという批判が、国税徴収法を用いた代理人弁護士の豪腕への賞賛に変わっていったように思えます。

 (誤振込について、似たような?経験があったことについては、以前のブログで触れました…苦笑)。

 国または地方公共団体は、履行の催告として督促を行いそれでも租税が完納されないときは、納税者の財産から租税債権の強制的満足を図ることができます。このような納税者の財産から租税債権の強制的実現を図る手続を滞納処分又は強制徴収といいます(金子宏『租税法24版』1037頁)。

 国税の滞納処分に関する一般法として、国税徴収法があり、関税及び地方税の滞納処分については国税滞納処分の例によることとされています。

 私は、以前、何度か、地方公共団体で債権回収の研修をしたことがありますが、それは、滞納処分という簡易かつ強力な債権確保の方途を与えられていない私債権と非強制徴収公債権に関するものです。やはり、滞納処分ができない債権については、地方公共団体は債権回収に苦労するようですね。

 滞納処分は、狭義の滞納処分と交付要求にわかれます(後者の交付要求は、現に進行中の強制換価手続の執行機関に換価代金の交付を求め、それによって租税債権の満足を図る手続で、弁護士としては、破産管財人をしているときにでてきます。)。

 前者の狭義の滞納処分においては、国税徴収法47条が、「次の各号の一に該当するときは、徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならない。(以下略)」と規定しています。

 私が国税局で任期付職員をしていた頃、何かのきっかけで、滞納処分による差押の話になり、憲法35条は捜索差押について令状主義をとっており、いわゆるマルサ(国税局査察部)の犯則調査であっても、「地方裁判所又は簡易裁判所の裁判官があらかじめ発する許可状により」(国税通則法132条1項)捜索差押する必要があるのに、滞納処分による差押で令状がいらないのはおかしいのではないかと疑問に思ったことがありました。その際、自分が所有する憲法の基本書などを含め、色々と調べてみてみましたが、満足いく回答は得られませんでした。

 しかし、今回の報道に接し、ふと、単純なことに気がつきました…。債務者が任意に債務を履行しないとき、近代国家では債権者が自力救済をはかることは禁止されており、勝訴判決など債務名義という国のお墨付きを得て、裁判所の強制執行を利用することにより、はじめて権利実現が可能となるところ、滞納処分の場合、国のお墨付きや強制執行が不要なだけなのではと…。

 金子先生の『租税法』を改めて読むと、「私法上の債権については、原則として、その存否および金額について裁判所の判断を経たうえ、司法機関にその履行の強制を求めなければならない。これに対し、租税については、その存否および金額を確定する権限(確定権)と任意の履行がない場合に自らの手で強制的実現を図る権限(強制徴収権・自力執行権)とが租税債権者たる国および地方団体に与えられているわけであるが、これは、租税の確実かつ能率的な徴収を図るためである。」と記載されています。

 阿武町では、昨日(6月8日)付けで取立権が発生し、約4290万円の回収が完了したと報道されています。全額回収まではいっていませんが、ひとまず、よかったですね。

 3.売買契約において目的物を受領したことによる収入金額の有無(なぜ、売買契約において、売主は代金を受領すると収入金額とされるけど、買主は目的物を受領しても「経済的利益」とならないの?)

  先月、税法学会中部地区で、「ふるさと納税制度において地方公共団体から返礼品を受領した場合の課税関係」という題で、審査請求において請求人の代理人をつとめた案件の報告をする機会がありました。

 主要な争点は、

①審査請求人に本件各返礼品の受領による経済的利益があり、これを一時所得の金額の計算上総収入金額に算入すべきか否か

②本件各返礼品の受領による経済的利益があり、これを一時所得の金額の計算上総収入金額に算入すべきである場合、本件各評価額が過大であるか否か

 です。

  このうち、①の争点は、現在のように、多くの地方公共団体が、ふるさと納税を仲介する民間のウエブサイト(よく宣伝されているあれです…)を用いて、「所定の寄附をしてくれれば返礼品を提供する」と約して寄附を募集している実態に鑑みれば、返礼品は寄附の対価となっているという事実があり、それを前提としています。

 ふるさと納税の返礼品の受領については、国税庁が一時所得にあたるとの見解(質疑応答事例「『ふるさと納税』を支出した者が地方公共団体から返礼を受けた場合の課税関係」)をだしていますが、この見解がだされたのは、ふるさと納税制度が導入された直後の平成22年であり、一部報道で「官製ネット通販」と揶揄されるほどふるさと納税を仲介するウエブサイトが整備される以前のことです(平成27年度以降、ふるさと納税制度の利用が大幅に増加し、いわゆる返礼品競争が生じたといわれています。)。

 一時所得にあたるというためには、所得税法34条1項の規定から非対価性要件を充たす必要であるところ、返礼品は寄附の対価となっている事実を前提とすれば、非対価性要件を充たすことはないと考えられます。

  それでは、雑所得になるのか。そのような学説もありますが、私は、そもそも、「経済的利益」(所得税法36条1項)がないのではないかと考えています。

 というのも、売買契約において、目的物を受け取った側が課税されるというのは聞いたことがありません。これは対価を支払っているからではないかと考えたのです。

 調べてみると、岡村忠生他『ベーシック税法第7版』(有斐閣・2013年)にAがBに物を売って代金(金銭)を得る売買契約において、Aが受け取る代金は「収入金額」となるが、Bが受け取る物は「収入金額」とならないことについて、記載がありました。ただし、「金銭を出せば収入金額はなく、物を出せばある。収入金額があるかどうかは、入ってきた方ではなく、出て行った方で決まる」という説明で、恥ずかしながら、いまひとつ、しっくりきませんでした。

 税法学会の報告では、出席されていた先生(教授)から、「収入金額に関する一考察」(岡村忠生、法学論叢158巻第5・6号192頁)に、「所得税法を学びはじめた学生がしばしば陥る難問に、資産を購入したとき、収入金額はどうなるか」がとりあげられていると教えていただきました。

 拝読すると、確かに、初学者が気がつきやすいかもしれない…、しかも…、難問だなあ…と思った次第です。

 

2020年11月8日日曜日

外れ馬券事件 ~高松事案控訴審判決の報に接して~

1. 11月に入りましたが、名古屋は、本日、小春日和です。

久屋大通公園の木々が色づき
芝生には落ち葉がいっぱいです。

 

2.外れ馬券事件 ~高松事案の控訴審判決の報に接して~

(1) 数日前、大量に馬券を購入していた高松市の男性が、(当たり馬券だけでなく)外れ馬券の購入費用も必要経費として所得を計算するよう求めていた訴訟の控訴審で、東京高裁が、令和2年11月4日、(通常馬券分について)外れ馬券の購入費用を必要経費と認め課税処分の一部を取消していた第一審判決(東京地判令和元年10月30日)を取り消し、課税処分は適法であるとして国の逆転勝訴となったというインターネットの新聞記事を目にしました。

(2) 外れ馬券事件については、このブログでも何回かとりあげたことがあります。
<大阪事案>
<札幌事案>
 このブログではとりあげていませんが、他にも、東京事案(東高判平成28年9月29日)や横浜事案(東高判平成29年9月28日)などがあります。
 一昨日には、租税判例研究会があったのですが、たまたま、上記記事の高松事案控訴審判決の原審である東京地判令和元年
11月4日が題材でした。
 また、昨日、大学院で2年生がいくつかのグループにわかれて中間発表会があったのですが、私のグループには、外れ馬券事件をテーマにした方が複数いらっしゃいました。

  それにしても、同様の争点でこうも判決が続くのは、世にいかに競馬愛好家が多いかを反映しているのでしょうか。

(3)  リーディングケースとなるのは、やはり、大阪事案の上告審判決(最判平成27年3月10日、以下、「平成27年判決」。)となります。大阪事案は、馬券を自動的に購入できるソフトを使用してインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に網羅的な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を上げていたXが正当な理由なく確定申告書を期限までに提出しなかったという所得税法違反の事案(刑事事件)です。
 争点は、①当たり馬券の払戻金が所得税法上の一時所得に当たるか雑所得に当たるか、②外れ馬券の購入費用を含めた全馬券の購入費用を控除できるかです(ここでは詳しく述べませんが、①において「一時所得」でなく「雑所得」となった方が、②で外れ馬券の購入費用まで「必要経費」として控除を認められやすいことになります。)。
 平成27年判決では、最高裁が、はじめて、所得税法34条1項「営利を目的とする継続的行為」をどのように判断するかを示しました。すなわち、「所得税法上,営利を目的とする継続的行為から生じた所得は,一時所得ではなく雑所得に区分されるところ,営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは,文理に照らし,行為の期間,回数,頻度その他の態様,利益発生の規模,期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当である」と判示したのです(ここが、前回10月のブログで触れた規範を定立している部分ですね。)。
 この規範部分をみると、「営利を目的とする」(営利目的該当性)と「継続的行為」(継続的行為該当性)をわけることなく、総合考慮の考慮要素として、行為の態様(期間、回数、頻度等)と利益発生状況(規模、期間等)を挙げています。この点、最高裁判例解説(楡井英夫)は、「継続的行為」という文言に照らせば、行為の態様(期間、回数、頻度等)が考慮要素になるのは当然のことと思われる一方で、「営利を目的とする(行為)」については、主観的動機を有するだけでは足りず、かといって、客観的にみて利益が上がる行為に限定すると過度の限定となるから、客観的にみて利益が上がると期待し得る行為であればよい、としています。
 そして、平成
27年判決のあてはめ部分は、継続的行為該当性と営利目的該当性をわけずになされています。

(4)  次の札幌事案では、同種の争点で争われた民事事件ですが、X(納税者)は、大阪事案と異なり、馬券を自動的に購入できるソフトは使用していませんでした。一審判決は、Y(国)勝訴(一時所得に区分。外れ馬券の購入代金は控除不可。)、控訴審はX勝訴(雑所得に区分、外れ馬券も控除可。)。そして、最高裁がYの上告を棄却する判決をしたのが、最判平成29年12月15日(「平成29年判決」)です。平成29年判決には、理由もついていて、最高裁判例解説(三宅知三郎)もあります。
 規範部分をみると、平成29年判決では、平成27年判決を引用し、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは,文理に照らし,行為の期間,回数,頻度その他の態様,利益発生の規模,期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当である」と判示しています。このように、平成27年判決と平成29年判決の規範部分は、まったく一緒です。
 もっとも、そのあてはめ部分は、平成27年判決と異なり、「継続的行為といえる」かと、「客観的にみて営利を目的とする」かを、はっきりとわけて検討しています。この点について、最高裁判例解説は、「このような検討ができることについては平成27年最判の調査官解説においても既に示唆されていたところであり、本判決が平成27年最判と異なる判断枠組みを用いたものとは解されない。」と記しています。
 ところで、平成29年判決の営利目的該当性で具体的に検討されているのは、利益発生の規模、期間であり(「上記のような馬券購入の態様に加え」という文言は入っています)、しかも、「客観的にみて営利を目的とするものであった」という結論をだすのに、「Xは回収率が総体として100%を超えるように馬券を選別して購入し続けてきたといえる」という評価が入っています。この点について、最高裁判例解説は、「回収率が総体として100%を超えるようにXが選別して馬券を購入し続けたと評価できる以上、そのような行為は客観的にみて利益が上がるものと期待することができる」とし、また、「本判決は、回収率が100%を超えるようにXが馬券を選別して購入し続けてきたと評価するに当たって、Xの馬券購入態様を根拠の一つとしている」とも記されています。
 この回収率が100%を超えるという評価部分は、平成30年6月29日付で一部改正された所得税基本通達34-1(2)の注1にしっかりと取り入れられています。
 さて、ここで問題となるのが、そうはいっても、回収率が100%を超えるという評価は、事後的にしかできないのではないかということ。平成29年判決や最高裁判例解説をみると行為態様も勘案しているとあり、実際、そうでしょうが、考慮要素の「行為態様」にも「利益発生状況」にも、「期間」が入っていて、そのような行為が相当期間において回収率100%を超えてはじめて、「客観的にみて利益が上がるもの期待」できるといえるのであれば、営利目的該当性は、事後的、しかも、相当期間経過後(平成29年判決では6年間)にしか判断できなくなってしまうようにもみえます。もしそうだとすると、申告時には所得分類がはっきりしないケースがでてくるのではないかという危惧をぬぐいきれないように思います。
 また、次に述べる高松事案のように、複数年のうち、1年でも回収率が100%を下回ると、営利目的該当性は否定されてしまうのだろうかという疑問が生じます。

(5)  冒頭の高松事案の控訴審判決(東高判令和2年11月4日)の判決文は入手できていません。
 原審の東地判令和元年10月30日についてみてみると、規範部分は、平成27年判決、平成29年判決を引用していて、まったく同じです。
 原審で特徴的だったのは、通常馬券的中による払戻金とWIN5に係る馬券の的中による払戻にわけて検討し、前者は雑所得(Y(国)の一部敗訴)、後者は一時所得と判示した点でしょう(このように馬券の種類によりわけて検討する手法も、議論の対象になるところでしょう。)。
 そして、控訴審では、おそらく、通常馬券に係るY敗訴部分が取消されたものと思われます。というのも、この事案で処分の対象となったのは、平成24年から平成26までの所得なのですが、通常馬券購入に係る損益は、平成24年には約790万円の損失がでていたのです。原審は、営利目的該当性のあてはめ部分で、「Xは,平成22年以降の5年間のうち4年間で,年間を通して利益を上げており,その金額は約516万円(平成25年)から約1376万円(平成23年)に及ぶのであり,平成24年に約790万円の損失が生じているものの同年の回収率は中央競馬の平成24事業年度の払戻率(馬券の発売金額に対する払戻金額の割合。約75%)を相当程度超える86.4%を維持しているのであるから,上記のような馬券の購入行為の態様,利益発生の規模,期間その他の状況等によれば,Xは回収率が総体として100%を超えることが期待し得る独自のノウハウに基づき馬券を選別して購入を続けていたということができ,そのような原告の上記の一連の行為は,客観的にみて営利を目的とするものであったといえる」と判示しました。4年間のうち1年くらい100%を下回っても(その年度の平均払戻率は超えているし)、総体としては100%を超えることが期待し得る購入だったといえるよ、というわけです。この点が、控訴審で変更されたようで、インターネットの新聞記事によれば、件の24年は約790万円の損失を計上しており、「恒常的に利益を上げていたとまでは認められない」として営利目的該当性を否定したようです。
 こうしてみてくると、平成29年判決は、平成27年判決と異ならない判断枠組みであるとしながら、営利目的該当性について、客観的にみて利益が上がると期待し得ると評価するには回収率が100%を超える必要があると示したようにみえるため、これでは、「客観的にみて利益が上がる行為に限定」したようなものであり、租税法規の行為規範性や予測可能性、法的安定性などの観点から、問題が生じているように思われます。

2018年5月29日火曜日

大阪地判平成30年5月9日と横目調査について


1. 久しぶりに、法律の話題を…。
 

2.(1)  今月初旬に、日経新聞で、「競馬脱税の市職員有罪 国税調査、違法性残る」と題する記事をみました。
 

(2) 今回のケースの被告人Xは、有名な外れ馬券のケース(最判平成27年3月10日など)の被告人ように、長期間にわたり数回かつ頻繁に網羅的な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を上げていたというわけではないようです。
 インターネットの新聞記事の情報も総合すると、X(市職員で、なんと、税務担当の部署に所属していたようです。)は、日本中央競馬会(JRA)が指定する5レースで1着馬を全て当てる「WIN5」で、2回にわたり予想を的中させ、平成24と平成26年に、それぞれ、約5600万円、約2億3200万円の払戻金を得たにもかかわらず、これらを所得として申告していなかったようです。 

(3)  ということで、今回のケースで特に問題となったのは、いわゆる「横目調査」の違法性です。
 競馬で予想を的中させて払戻しを得た人のほとんどは、必要な申告をしておらず、税務当局もこのような無申告のすべてを把握し、反則調査をしているわけではない実態があるといいます。なのに、税務当局は、どうして、Xについて、当たり馬券による多額の払戻金を得ながら申告していないと、知ることができたのでしょうか。
 日経の記事によれば、Xは、「国税局が別事件の調査にかこつけて網羅的に口座を調べた結果、発覚した」とし、調査の必要のない口座を調べる「横目」と呼ばれる手法はプライバシーを侵害し違法だと主張したようです。

(4) 残念ながら、判決文は入手できていないのですが、日経の記事によると、大阪地裁(大地判平成30年5月9日)は、「調査対象の範囲の絞り込みが不十分だった疑いは否定できない」としつつも、「銀行側の了解、協力を得ており、違法の程度は重大とまでは言えない」としてXの主張を退けました。

(5)  Xは起訴内容を認めているとのことですので、「脱税したのは事実なのに、捜査の端緒に難癖をつけるなんて、お門違いの文句だ!税務調査ないし犯則調査の際に多額の入金がある預金口座を網羅的にチェックするのは当り前じゃないか。」と思われる方は少なくないかもしれません。ですが、この問題は意外に奥が深いようにも思います。
 刑事手続においては、証拠裁判主義(刑事訴訟法317条)がとられているところ、明文はありませんが、違法収集証拠排除法則、すなわち、司法の廉潔性ないし違法捜査の抑制の見地から、手続違反の程度・状況等や証拠や事件の重大性等を勘案した上で、違法に収集された証拠の証拠能力を否定すべきとする法則が、一般に採用されています。日本国憲法をみてみると、その人権カタログにおいて、刑事手続に関連するものの多さに驚かされます。刑事手続においては、手続の違法性について、極めて厳格にこれを考える傾向にあるといえます。判例も、「令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その証拠能力は否定される。」と判示しています。
 この点、税務当局が行う調査には、税務調査のほか犯則調査がありますが、犯則調査については、犯罪事実が認められれば検察庁に告発して刑事手続に移行するのですから、刑事手続と同様の手続の厳格さが認められてしかるべきです。また、税務調査で得られた資料や情報を犯則調査において利用することを安易に認めれば、憲法や刑事訴訟法が要請するところの潜脱になりかねません。
 国税局の査察部(いわゆるマルサ)のフロアには、「関係者以外立入禁止」の立て札がたっていますが、これは、税務調査で得られた情報が犯則調査の端緒に用いられることのないように…という配慮からたっているのでしょうか。それとも、犯則調査の内偵を他部署に知られることなく隠密裏にすすめることができるように…という配慮からでしょうか。もしや、前者の配慮はまったくなされていないのではないか…、これは杞憂でしょうか。

(6)  なお、横目調査については、反則調査ではなく、税務調査において、その違法性が争われたことはあります。
 たとえば、京都地判昭54年2月23日は、「税務署長が更正処分をなす場合には税務調査が必要である(略)が、右調査の端緒となるべき資料の収集方法自体を規制する規定は存在せず、調査の必要性があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量により社会通念上相当な限度において権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられていると解すべきである。従つて、仮に税務調査の端緒が他の税務機関の入手した資料によつたとしても、そのために法定された税務調査を全くなさなかつたり、右調査を回避するために当該資料を入手したと認めうる等の特別の事情がない限り、これを違法というべきではない。」と判示しています。

2017年12月24日日曜日

いわゆる外れ馬券事件 北海道事案の最高裁平成29年12月15日判決について


1.外れ馬券の購入代金が必要経費として認められるかが争われた北海道事案の最高裁平成29年12月15日判決について

(1) 以前このブログで、外れ馬券の購入代金が必要経費として認められるかが争われた大阪事案(刑事事件:最判平成27.3.10)と北海道事案(民事事件:東京地判平成27年5月14日、東高判平成28年4月21日)について触れたことがあります。
http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2015/03/blog-post.html
http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2015/05/blog-post_20.html
https://hisaya-avenue.blogspot.jp/2016/04/28421.html

 先日(平成29年12月15日)、北海道事案の最高裁判決がでました。

(2) 北海道事案の概要は、最高裁判決によれば、以下のとおりです。
 X(納税者)は、平成17年から平成22年までの6年間で、中央競馬のレースで、1節当たり、数百万から数千万、1年当たり合計3億円から21億円程度、馬券を購入し続けました。日本中央競馬会に記録が残る平成21年度においては、中央競馬の全レースのうちの約70.8%のレースで馬券を購入しています。
 その購入方法は、日本中央競馬会に登録されたすべての競走馬や騎手の特徴、競走場のコースごとのレース傾向等に関する情報を継続的に収集・蓄積・分析し、レースごとに、競走馬の能力、騎手(技術)、コース適性、枠順(ゲート番号)、馬場状態への適正、レース展開、競走馬のコンディション等の考慮要素を評価、比較することにより着順を予想し、予想の適度の高低と予想が的中した際の配当率の大小との組合せにより、購入する馬券の金額、種類及び種類ごとの購入割合等を異にする複数の購入パターンを定め、これに従い、当該レースにおいて購入する馬券を決定するというものでした。
 Xは、このような馬券の購入方法(大阪事案のようなソフトウエアは利用していない。)により、なんと、1年当たり約1800万円から約2億円の利益を得ていたというから驚きです。
 そして、Xは、平成17年分から21年分までの期限後確定申告と22年分の期限内確定申告を行い、その際、当たり馬券の払戻金に係る所得(「本件所得」)は雑所得に該当し、外れ馬券の購入代金は所得税法37条1項の「必要経費」に当たるとして税額を計算したところ、所轄税務署長は、本件所得は一時所得に該当し、外れ馬券の購入代金は一時所得に係る総収入金額から控除することはできないとして、本件更正処分等を行ったので、Xはその取消しを求めて本訴提起に至りました。

(3)  北海道事案の第一審(東京地判平成27年5月14日)は、「Xによる馬券の購入は、…一般的な競馬愛好家による馬券の購入の態様と質的に大きな差があるものとは認められ」ない等として、本件所得は一時所得であり、外れ馬券の購入代金は控除されないとして、Xの請求を棄却しました(X敗訴)。
 ところが、
控訴審(東高判平成
28年4月21日)は、本件所得は雑所得に当たるとし、外れ馬券の購入代金は「必要経費」に当たるとして、第一審の東京地裁判決を取消しました(国の逆転敗訴)。
 これに対し、国が上告していたところ、最判平成29年12月15日は、国の上告を棄却し、控訴審判決を維持したのです(国の敗訴確定)。

(4) 最高裁は、まず、本件所得が一時所得、雑所得のいずれであるかについては、大阪事案の最判平成27.3.10が定立した規範(利子所得…以外の所得で、営利を目的とする継続的行為から生じた所得は、一時所得ではなく雑所得に区分されるところ、営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは、文理に照らし、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を相当考慮して判断するのが相当である)をあげた上で、「(2)」に書いた事実をあてはめました。すなわち、「Xの馬券購入の期間、回数、頻度その他の態様に照らせば、Xの上記の一連の行為は、継続的行為といえるものである。そして、Xは、上記6年間のいずれの年についても年間を通じての収支で利益を得ていた上、その金額も、…というのであるから、上記のような馬券購入の態様に加え、このような利益発生の規模、期間その他の状況等に鑑みると、Xは回収率が総体として100%を超えるように馬券を選別して購入し続けてきたという得るのであって、そのようなXの上記の一連の行為は、客観的にみて営利を目的とするものであったということができる。以上によれば、本件所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として、所得税法35条1項にいう雑所得に当たると解するのが相当である。」と判示しました。
 その上で、外れ馬券の購入代金が必要経費にあたるかについては、「そのような一連の馬券の購入により利益を得るためには、外れ馬券の購入は不可避であったといわざるを得ない。したがって、本件における外れ馬券の購入代金は、雑所得である当り馬券の払戻金を得るために直接に要した費用として、同法37条1項にいう必要経費に当たると解するのが相当である。」と判示しました。


(5) そもそも、通常、2分の1課税により一時所得の方がお得と思われるのに、なぜ、大阪事案や北海道事案の納税者は、一時所得ではなく、雑所得であると主張したのでしょうか。
 これは、一時所得においては、総収入金額から控除できる「収入を得るために支出した金額」は「その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた行為をするため、又はその生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る」とされているところ(所得税法34条2項かっこ書)、公的年金に係るものを除く雑所得において、総収入金額から控除できる「必要経費」(同35条2項2号)は、「直接に要した費用の額」のほかに、「販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」(同37条)も含まれるとされているからです。つまり、当たり馬券の払戻金を得るためにかかった経費として、当たり馬券の購入費のみならず、外れ馬券の購入費をも含めたいと思えば、雑所得と主張した方が有利だと思われるわけです。外れ馬券も含め、大量かつ網羅的に馬券購入に資金を投下したからこそ、当たり馬券の払戻金を得ることができたというわけですね。

 第一審が結論を異にした背景には、北海道事案のXは大阪事案のようなソフトウエアを用いていなかったことのほか(Xはインターネットを介して馬券を購入するA-PATは利用していました。)、第一審が指摘する「馬券の購入履歴や収支に関する資料が何等保存されていないため、Xが網羅的に馬券を購入していたのかどうかを含めてXの馬券購入の態様は客観的には明らかでない」という事情があったように思います。
 一時所得に関する所得税基本通達については、前のブログでふれました。普通は、競馬で馬券をあてたことによるもうけは、一時所得ですよね。第一審も、「競馬は公営賭博であり、馬券の的中による払戻金の発生は、本来的に偶然性を排除することができない…そもそも競馬における馬券購入は営利を目的とする行為とはなり難い性質のものである」といっています。
 とはいえ、記録のある平成21年では、全レースの約7割で馬券を購入しているそうですし、6年連続で極めて巨額の利益をあげているのですから、やはり、大阪事案の最高裁の規範を素直にあてはめると、北海道事案の控訴審判決及び上告審判決の結論になるのではないかと思います。
 大阪事案では、100万円の元手で追加の資金投入はせずに多額の利益をあげていたそうですが、北海道事案のXは、どうだったのでしょうか。Xは、1節(競馬開催日又はこれが連続する場合における当該連続する競馬開催日を併せたもの等)当たり数百万円から数千万円の馬券を購入していたという認定ですし、大量かつ網羅的に馬券を購入しないと偶発的要素を減殺できるとは思えません。そもそも、情報を収集・蓄積・分析し、着順を予想するという部分が、それなりの労力を要するのではないかと想像します(具体的な想像はまったくできませんが…)。報道等によれば、Xには、別の定職があったようですが、どのくらいの労力を費やしていたのでしょうか。投下すべき資本がそれなりに必要だったり、情報収集・蓄積・分析にかなりの労力を要するとしても、大阪事案や北海道事案の納税者がそのノウハウを公開すると、公営賭博たる競馬の存立に影響を与えたりしないのでしょうか。また、そのノウハウは、他の分野に活かせたりしないのでしょうか。
 やはり、訴訟の争点とは違うところに興味が行ってしまいます(笑)。

3.クリスマスイブ

(1) 今日はクリスマスイブですね。
 今年のクリスマスツリーは、我が家にある4種類の飾りつけのうち、一番初めに揃えはじめたもので、赤、金、ガラス(含透明なプラスチック、クリスタルなど)を基調にしています。



 
    今年はツリーには、ちょっと地味なLEDライトをつけてみました(↑)

昼間は、日の光で
オーナメントがキラキラします。

   
長年、買いためた
クリスタルのトーナメント。
でも、意外に、ツリーに飾ると
普通のガラスのオーナメントの方が
きれいだったりします。

   
クリスマスイブの食卓。


(2) I wish you a Merry Chiristmas!

なお、過去3年のクリスマスツリーはこちら(↓)
ちょっとやばいですね(笑)。
押入れの一角をオーナメント類が占拠しています。
これ以上増やさないように気をつけています!
昨年
http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2016/12/blog-post.html
一昨年
http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2015/12/750-773-1-27-12-17-2-1-3-5-2-5-10-5-3-3.html
一昨々年
http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2014/12/stap.html