1. 一昨日(3月10日)から昨日(3月11日)にかけて、名古屋では、雪が降りました。
特に、一昨日の夕刻から夜にかけては、3月だというのに、結構、横殴りの降り方で、正直、びっくりしました。
特に、一昨日の夕刻から夜にかけては、3月だというのに、結構、横殴りの降り方で、正直、びっくりしました。
昨日(3月11日)は、東日本大震災から4年目でもありました。
当時、三の丸の庁舎の7階にいたのですが、長く続く横揺れに嫌な予感を覚え、その後、テレビに映し出された光景には、戦慄いたしました。不運にもお亡くなりになられた多くの方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
当時、三の丸の庁舎の7階にいたのですが、長く続く横揺れに嫌な予感を覚え、その後、テレビに映し出された光景には、戦慄いたしました。不運にもお亡くなりになられた多くの方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
2.(1) ところで、一昨日、外れ馬券の購入代金は所得税法上の「必要経費」にあたる等とする最高裁判決(最判平成27年3月10日)がでました。
(2) 事案は、以下の通り。
Ⅹは、当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を上げていたにもかかわらず、その所得につき正当な理由なく確定申告書を期限までに提出せず、所得税法違反で起訴されました。
この事案の特徴は、Ⅹの馬券の購入方法にあります。Ⅹは、JRAの提供するA-PATというサービス、および、競馬予想ソフトを使用していたのですが、その際、インターネット上の競馬情報配信サービス等から得られたデータを分析した結果に基づき、同ソフトに条件を設定してこれに合致する馬券を抽出させ、自らが作成した計算式によって購入額を自動的に算出する…という方法により、中央競馬のすべての競馬場のほとんどのレースについて、数年以上にわたって大量かつ網羅的に、一日当たり数百万から数千万円、一年あたり10億円前後の馬券を購入していたというのです。
最高裁は、このような購入の態様をとることにより、Ⅹは、当り馬券の発生に関する偶発的要素を可能な限り減殺しようとするとともに、購入した個々の馬券を的中させて払戻金を得ようとするのではなく、長期的に見て、当たり馬券の払戻金の合計額と外れ馬券を含む全ての馬券の購入代金の合計額との差額を利益とすることを意図していた…と認定しています。
すごい話ですね(笑)。しかも、第一審判決によれば、Ⅹは平成16年に100万円をPAT口座に入金してから、追加の入金を一切していないと言います。
第一審および控訴審では、平成19年から平成21年分の馬券購入代金(当たり馬券と外れ馬券の購入代金の合計額)と当たり馬券の払戻金額を、以下の通りとしています(1万円未満は切り捨て)。
Ⅹは、当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を上げていたにもかかわらず、その所得につき正当な理由なく確定申告書を期限までに提出せず、所得税法違反で起訴されました。
この事案の特徴は、Ⅹの馬券の購入方法にあります。Ⅹは、JRAの提供するA-PATというサービス、および、競馬予想ソフトを使用していたのですが、その際、インターネット上の競馬情報配信サービス等から得られたデータを分析した結果に基づき、同ソフトに条件を設定してこれに合致する馬券を抽出させ、自らが作成した計算式によって購入額を自動的に算出する…という方法により、中央競馬のすべての競馬場のほとんどのレースについて、数年以上にわたって大量かつ網羅的に、一日当たり数百万から数千万円、一年あたり10億円前後の馬券を購入していたというのです。
最高裁は、このような購入の態様をとることにより、Ⅹは、当り馬券の発生に関する偶発的要素を可能な限り減殺しようとするとともに、購入した個々の馬券を的中させて払戻金を得ようとするのではなく、長期的に見て、当たり馬券の払戻金の合計額と外れ馬券を含む全ての馬券の購入代金の合計額との差額を利益とすることを意図していた…と認定しています。
すごい話ですね(笑)。しかも、第一審判決によれば、Ⅹは平成16年に100万円をPAT口座に入金してから、追加の入金を一切していないと言います。
第一審および控訴審では、平成19年から平成21年分の馬券購入代金(当たり馬券と外れ馬券の購入代金の合計額)と当たり馬券の払戻金額を、以下の通りとしています(1万円未満は切り捨て)。
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払戻金合計額
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馬券購入代金の合計額(全馬券)
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当たり馬券の購入代金
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外れ馬券の購入代金
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平成19年分
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7億6778万円
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6億6735万円
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3276万円
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6億3458万円
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平成20年分
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14億4683万円
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14億2039万円
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6491万円
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13億5548万円
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平成21年分
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7億9517万円
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7億8176万円
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3174万円
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7億5001万円
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合計
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30億0979万円
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28億6951万円
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1億2942万円
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27億4008万円
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(3) 争点は、以下の二点。
① Ⅹの馬券購入行為から生じた所得(当たり馬券の払戻金)は一時所得にあたるか、それとも、雑所得にあたるか。
② 外れ馬券の購入代金も、所得税法上の「必要経費」(所得計算上控除されます。)に当たるか。
検察官は、
① 馬券購入による払戻金は、一時所得(所得税法34条1項)に該当し、
② 当たり馬券の購入費用だけが、所得計算上控除される(同条2項の「その収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額)」に当たる。)。
という解釈に基づいて、Ⅹを所得税法違反で起訴しました。
(4) これに対し、第一審(大地判平成25年5月23日)、控訴審(大高判平成26年5月9日)、最高裁とも、
① Ⅹの馬券購入行為から生じた所得(当たり馬券の払戻金)は、雑所得にあたる。
② 外れ馬券の購入代金も所得税法上「必要経費」に当たる。
と判示しました。
(5) この訴訟で最も問題となったのは、外れ馬券の購入代金が所得計算上控除できるかです。
検察官のように①、②の争点を解すると、外れ馬券の購入代金は所得計算上控除できませんので、平成19年から平成21年の総所得金額は、14億5951万円、所得税額は5億7174万円になってしまいます。
これに対し、裁判所は、①、②の争点につき、上記のように判断し、外れ馬券の購入代金等の費用を所得計算上控除した上で、総所得金額1億6016万円、所得税額5200万円と認定したのです。
所得税額にして、一桁異なりますから、Ⅹにとって、あまりにも大きな違いでしょう。無申告加算税や延滞税もかかってきますし…。ちなみに、ご高承の通り、「租税等の請求権」は、Ⅹがたとえ破産手続を申し立てても、免責され得ません(破産法253条1項1号)。
検察官のように①、②の争点を解すると、外れ馬券の購入代金は所得計算上控除できませんので、平成19年から平成21年の総所得金額は、14億5951万円、所得税額は5億7174万円になってしまいます。
これに対し、裁判所は、①、②の争点につき、上記のように判断し、外れ馬券の購入代金等の費用を所得計算上控除した上で、総所得金額1億6016万円、所得税額5200万円と認定したのです。
所得税額にして、一桁異なりますから、Ⅹにとって、あまりにも大きな違いでしょう。無申告加算税や延滞税もかかってきますし…。ちなみに、ご高承の通り、「租税等の請求権」は、Ⅹがたとえ破産手続を申し立てても、免責され得ません(破産法253条1項1号)。
(6) 所得税基本通達34-1は、一時所得の例示として「競馬の馬券の払戻金」をあげていました。租税行政は、行政解釈たる通達の下、画一的に運用されがちです。納税者の多くも、課税庁から「通達はこうなっています。」といわれると、到底、抗いようもないように感じるのではないでしょうか。
しかしながら、本件では、行政解釈に従って画一的に処理すると、その結果が、妥当性を欠くものとなってしまうことから、裁判所は、一貫して、行政解釈とは異なる司法解釈を示した…とも思われます。大谷剛彦判事は、最高裁判決に付された「意見」において、「巨額に累積した脱税額を被告人に負担させることの当否には検討の余地があり」等と述べておられます。つまり、Ⅹは、外れ馬券も含めて、大量かつ網羅的に、馬券を購入しているからこそ、偶発的要素を一定程度減殺でき、購入した馬券に含まれる当たり馬券の払戻金によって、全馬券の購入費用を上回る利益をあげることができたのです。それにもかかわらず、外れ馬券の購入代金を必要経費と認めず、当たり馬券の購入代金のみを控除して所得を計算すると、所得が巨額にのぼり、Ⅹの担税力を無視した課税になってしまいます。
Ⅹの購入方法からは、「一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有する」といえ、払戻金は「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」として所得税法上の一時所得ではなく雑所得に当たるという法文の解釈もさることながら(所得税法34条1項は、一時所得について、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時所得」と規定しています。)、法適用の結果の妥当性について、改めて意識させられた最高裁判決でした。
(7) 日本経済新聞によれば、国税庁の担当者は、今回のケースは極端な事例であり、「大半のケースは、今後も従来の課税方針が維持される可能性が高い」としているとのこと。
確かに、本訴訟で検察官が主張しているように、当たり馬券の払戻金は、本来、一時的、偶発的な所得という性質を有しているといえるでしょう。つまり、外れ馬券の購入費用が「必要経費」に含まれるか否かは、馬券の購入態様等を勘案して判断しなければならない…ということです。
最高裁判決は、「画一的な課税事務の便宜等をもって一時所得にあたるか雑所得にあたるかを決するのは相当でない。」とも判示 しています。
しかしながら、本件では、行政解釈に従って画一的に処理すると、その結果が、妥当性を欠くものとなってしまうことから、裁判所は、一貫して、行政解釈とは異なる司法解釈を示した…とも思われます。大谷剛彦判事は、最高裁判決に付された「意見」において、「巨額に累積した脱税額を被告人に負担させることの当否には検討の余地があり」等と述べておられます。つまり、Ⅹは、外れ馬券も含めて、大量かつ網羅的に、馬券を購入しているからこそ、偶発的要素を一定程度減殺でき、購入した馬券に含まれる当たり馬券の払戻金によって、全馬券の購入費用を上回る利益をあげることができたのです。それにもかかわらず、外れ馬券の購入代金を必要経費と認めず、当たり馬券の購入代金のみを控除して所得を計算すると、所得が巨額にのぼり、Ⅹの担税力を無視した課税になってしまいます。
Ⅹの購入方法からは、「一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有する」といえ、払戻金は「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」として所得税法上の一時所得ではなく雑所得に当たるという法文の解釈もさることながら(所得税法34条1項は、一時所得について、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時所得」と規定しています。)、法適用の結果の妥当性について、改めて意識させられた最高裁判決でした。
確かに、本訴訟で検察官が主張しているように、当たり馬券の払戻金は、本来、一時的、偶発的な所得という性質を有しているといえるでしょう。つまり、外れ馬券の購入費用が「必要経費」に含まれるか否かは、馬券の購入態様等を勘案して判断しなければならない…ということです。
最高裁判決は、「画一的な課税事務の便宜等をもって一時所得にあたるか雑所得にあたるかを決するのは相当でない。」とも判示
<後記>
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高松事案(東地判令和元年10月30日、東高判令和2年11月4日)について