2015年12月31日木曜日

今年読んだ本、今年みた映画

 
1.  ついに、大晦日。
 大掃除は、あきらめモード。我が家にお正月はやってくるかと、毎年、焦りますが、一応、来るんですよねえ(笑)。
 

2.  今年を振り返るといっても、大変なので、今年読んだ本の中から、印象的だったものを上げると…。
 山口昌子さんの「フランス流テロとの戦い方 全仏370万人『私はシャルリ』デモの理由」かな。
 今年11月に、フランスのパリで同時多発テロがあったのは、記憶に新しいですが、実は、「シャルリ・エブド」への襲撃事件が起きたのも、今年だったのです(今年1月)。
 本書は、長年パリに住んで活動しているジャーナリストの方により、「シャルリ・エブド」襲撃事件とその背景、そして、「フランスの『国のかたち』」等について書かれたものです。
 パリ同時多発テロの報道において、「犯人はカラシニコフをもっていた」という趣旨の証言をしている市民がいるのをみて、日本人で銃の種類を言い分けられる人がどのくらいいるだろう…と、びっくりしたのを覚えています。
 フランスというと、日本人にとっては、比較的馴染み深い国ですが、この本を読んで、「フランスの『国のかたち』」について極めて基本的な理解を欠いていた部分もあるなと思いました。
 「自由、博愛、平等」はフランス革命に由来しますが、その「自由」につらなる「表現の自由」がフランスにおいてどのような位置づけにあるのか、フランスが「非宗教」の国であることの意味、移民大国と郊外問題など…。ニュースをみていて頭のどこかにひっかかっていたものが、解消されたり、新たに、疑問が広がったり…。
 様々な文化的背景や歴史をもつ国が国境を接して存する大陸諸国での動向に関心が向きにくいと言っていられない今日この頃、考えさせられることの多い本書でした。
 

3. 今年みた映画で印象に残っているといえば、今年読んだ本と趣があまりにも変わりますが、「スターウォーズ フォースの覚醒」です。
 みたばかり…。みるのを楽しみにしていました!
 シリーズで最初にみたのは、「帝国の逆襲」。初めての外国、カナダにホームステイした中学生の夏休み。カナダで知り合った日本人の高校生(女性です!)に「絶対、話がわかるから!」と誘われてみにいき、本当に、大体の筋がわかって、感動(笑)。
 久しぶりに、7話からシリーズが再開。思いもよらず、オリジナルキャストが出演していて、「うわ~」と驚き、思った通りの展開もあって、きたきたきた!…等。とにかく、やってくれるのが嬉しい!続きが楽しみです。

2015年12月29日火曜日

FORTRANを習った学生時代や審査部時代の思い出


1.  今年も、残すところ、今日を入れて、3日。
 年末押し詰まって、久しぶりに、事務所通信をホームページに載せました。
  http://www.hisaya-ave.com/jimushotsushin6/jimushotsushin6.pdf
 今回は、「忘れられる権利」特集号としております。
 「忘れられる権利」とは、今のところ一義的に用いられているとまではいえないかもしれませんが、一般的には、「インターネット上の個人情報について、検索事業者に対し検索結果の削除を求めること」とされています。
 私は、愛知県弁護士会の情報法関連チームに所属しているのですが、先日、チーム会で、「忘れられる権利」について、発表する機会がありました。
 最近、なかなか事務所通信をだせていなかったので、その発表資料を元に…という魂胆だったなのですが(笑)、いざ、まとめはじめると、思ったよりも、時間がかかりましたし、「わかりやすくご紹介」になっていないなあと、反省しきりです(汗)。
→ <後記>
     平成29年1月31日、最高裁が、検索事業者に対する削除請求が認められる判断基準を示しました。
http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2017/02/blog-post.html

 
2. そもそも、私が、「忘れられる権利」についてご紹介…というのも、気後れがないわけではないです(汗)。
 情報法関連チーム内には、弁護士の前職等から、情報処理技術にお詳しい方もいらっしゃいます。
 私は、そういう前職はなく、まだまだ、勉強することばかりです。
 ただ、まったく縁がなかったというと、そうでもない…という感じ…です(苦笑)。

 最初に、プログラミングに触れたのは、なぜか、大学の授業。法学部だったのですが、一般教養科目(自然科学)として「コンピュータ」(?科目名は忘れました…)をとったところ、工学部の先生と研究室の学生が手伝いに来られて、FORTRANを習うことに…。最後は、積分を解くプログラムを作った記憶です。成績は、よくありませんでしたが、これが、後に、少々、役に立ったのです。
 というのも、銀行に就職した後、思いもよらず、審査業務をシステム化する部署に配属されたのです。私がプログラムを書くわけではないのですが、全く知らないと困るだろうと、入行後、「MS-DOS」や「C言語」の研修を受けることになりました。
 当時、パソコンはPC9800シリーズ、OSMS-DOS、表計算ソフトはLOTUS 1-2-3といった頃。ホストコンピューター向けのシステムと、パソコン向けのシステムを開発したのですが、実は、極めて簡単な業務過程をシステム化していたりして、自分で、パソコンでも、マクロをつくって、簡単な検証をしたりしていました。そして、システム設計の打ち合わせや、簡単な検証の際などに、大学の授業での経験が、少しですけれど、役に立ったと思います。どこで、何が役立つかは、わからないものです…。
 とはいえ、情報処理の分野は、まさに、日進月歩。私の経験程度では、現在の情報法の分野を取り扱っていくのに役に立つとは、とてもいえません。
 今年、情報法関連チームで、前職がおありの方等を除いて、ITパスポート試験を受験しよう、という取り組みがありました。私も、今年の9月、若い方にまじって、受験しました。この種の試験は、基礎知識の習得に役立ちますが、やはり、継続して勉強することが肝要です。今後も、情報法やその関連知識の習得に、つとめていきたいと思っています。
パソコンに向かって回答を入力し、
試験終了後、すぐに、結果がわかるのですが
やはり、送られてきた合格証書をみたときの方が嬉しかったです(笑)。

2015年12月21日月曜日

2つの平成27年12月16日付最高裁判決について


1. 夫婦同氏(夫婦同姓)および女性の再婚禁止期間を定める民法の規定(それぞれ、民法750条、同7731項)が憲法に違反していることを主張し、法改正を怠った立法不作為の違法を理由に、国家賠償法に基づく損害賠償を求めた事案で、先日(平成271216日)、2つの最高裁判所大法廷判決がだされ、新聞やテレビで大きく報道されていました。
 本日は、その話題を…。
 

2. 「補足意見」「意見」「反対意見」と2つの判決について

(1) 判決に入る前に、今回の報道に接して少々驚いたのは…。
 夫婦同姓に係る判決で、女性3人を含む5人の反対意見があったと報道されていたことです。  

(2) 最高裁に付される意見には、「補足意見」「意見」「反対意見」があり、違いがあります。「補足意見」は多数意見の理由に賛同するけど補足したい場合、「意見」は多数意見の理由とは違う理由で判決には賛同する場合、「反対意見」は、判決に反対する場合に付されます。
 なので、5人の反対意見があったと聞くと、判決は、105だったのだなと思ってしまいます。

(3) 実は、どちらの事案でも、反対意見山浦善樹裁判官のみが述べていて、あとは全員一致で、上告棄却と判決しています。
 夫婦同氏制の事案では、民法の規定は違憲ではなく、国賠請求も認められないというのが多数意見による判決だったところ、女性3人を含む4人の裁判官から、民法の規定は違憲だけど、国賠請求は認められないとの意見が付されました。
 他方、再婚禁止期間の事案では、100日を越えて再婚禁止期間を設ける部分は違憲だが、国賠請求は認められないというのが多数意見による判決であり、再婚禁止期間を設ける規定全部が違憲であるとする鬼丸かおり裁判官による意見が付されています。
 そして、先ほど述べたように、どちらにも、規定は違憲だし、国賠請求も認められるとする山浦裁判官の反対意見が付されています。
 

3.夫婦同氏制事案(平成26年(オ)第1023号)の判決について

(1) 民法750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定めています(以下、「本件規定」といいます。)。
 “氏”があって、“名”があって、はじめて“氏名”として、自他識別機能(自分が他人から識別され、自分として特定される機能)が生じます。夫婦同氏制を定める本件規定により、婚姻を機会に、夫婦の一方は氏を改めなければならず、そのことにより、アイデンティティの喪失を感じたり、自他識別機能が阻害され不利益を被ったりする方がおられることは、何ら、特別なことであるとは思えません。
 ただ、本件規定が憲法違反といえるかといえば、また、別の話です。

  まず、多数意見からご紹介していきます。

(2)憲法13条違反であるとの主張について
 まず、上告人らは、「氏の変更を強制されない自由」が、憲法13条により保障される人格権の一内容を構成しており、本件規定は、これを不当に侵害するものであるから、憲法13条に違反すると主張しました。
 
多数意見は、氏名について、「社会的にみれば、個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが、同時に、その個人からみれば、人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容構成する」と、先例(最判63.2.26)をひいて、氏名が人格権を構成することは認めています。
 ただ、多数意見は、氏が婚姻を含めた身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは、その性質上予定されており、そのような現行法制度の下における氏の性質等に鑑みると、「氏の変更を強制されない自由」は人格権の内容とは言えないとして、本件規定は憲法13条に違反しない等と判示しました。

(3)憲法141項違反であるとの主張について
 現状、96%以上の夫婦において、夫の氏を選択しています
 上告人らは、かかる現状に鑑み、本件規定が性差別を発生させ、ほとんどの女性のみに不利益を負わせる効果を有するから、憲法141項に違反すると主張しました。
 これに対して、多数意見は、憲法141項について、「事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものである」と先例(最判昭和39.5.27等)をひいた上で、本件規定はその文言上性別に基づく法的な性別的取り扱いを定めているわけではなく、本件規定自体に形式的不平等が存在するわけではない等として、本件規定は、憲法141項に違反しないとしています。

(4)憲法241項及び2項に違反するとの主張について
 上告人らは、夫婦となろうとする者の一方が氏を改めることを婚姻届出の要件とすることで、実質的に婚姻の自由を侵害するものであり、憲法24条に違反する等と主張しました。
 これに対して、多数意見は、夫婦同氏制は、旧民法の施行された明治31年に我が国の法制度として採用され、我が国の社会に定着してきたものであり、氏は、家族の呼称としての意義があるところ、その呼称を一つに定めることには合理性が認められ、特に婚姻の重要な効果として、夫婦間の子が夫婦の共同親権に服する嫡出子となるということがあるところ、嫡出子であることを示すために子が両親双方と同氏である仕組みを確保するにも一定の意義があり、氏の選択に関し、夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めている現状からすると、妻となる女性が不利益を受ける場合が多い状況が生じるとしても、このような不利益は、婚姻前の氏の通称使用が広まることにより、一定程度緩和され得る等として、夫婦同氏制は、個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であるとは認められず、本件規定は憲法24条に違反するものではないとしています。

(5) 以上の通り、多数意見は、本件規定は違憲ではないと判断した上で、本件規定を改廃する立法措置をとらない立法不作為は、国家賠償法11項の適用上、違法の評価を受けないとして、上告人らの上告を棄却しています。

(6) 寺田逸郎裁判長補足意見
 法律関係のメニューに望ましい選択肢が用意されていない現行制度の不備を強調するような本事案の主張について、憲法適合性審査の中で裁判所が積極的な評価を与えることには、本質的な難しさがあるとし、民主主義的プロセスに委ねる(国会に任せる)ことがふさわしいと述べられています。
 国会で…という点については、多数意見も、なお書きで、上告人らは、夫婦同氏制を規定と捉えた上で、これよりも規制の小さい氏に係る制度、例えば、選択的夫婦別氏制をとる余地がある点について指摘するけれど、この種の制度の在り方は、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄に他ならない等と判示しています。

(7)岡部喜代子裁判官意見櫻井龍子裁判官鬼丸かおる裁判官同調)
 岡部裁判官は、近年女性の社会進出は著しく進んでおり、婚姻前後を通じて稼働する女性も増加し、婚姻による氏の変更により、識別困難となることは、単に不便であるというだけではなく、業績、実績などの法的利益に影響を与えかねず、しかも、社会のグローバル化やインタネット等で氏名が検索されることがあるなどの氏名自体が世界的な広がりを有するようになった社会では、氏による個人識別性の重要性はより大きい等といった現状に触れています。
 そして、96%を超える夫婦が夫の氏を称することは、その意思決定の過程に現実の不平等と力関係が作用しており、その点の配慮をしないまま夫婦同氏に例外を設けないことは、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した制度とはいえない等とし、現時点では、本件規定は、憲法24条に違反すると述べておられます。
 もっとも、憲法24条に違反することが明白であるということは困難であるとして、本件規定を改廃しない立法不作為は、国賠法上の違法の評価を受けないと、結論において、多数意見と同じとなっています。

(8)木内道祥裁判官の意見
 木内裁判官も、夫婦同氏制は憲法24条にいう個人の尊厳と両性の本質的平等に違反するとしています。
 すなわち、本件規定の憲法24条適合性で問題となる合理性は、夫婦が同氏であることの合理性はなく、夫婦同氏に例外を許さないことの合理性であるとした上で、同氏に例外を許さないことに合理性があるということはできないとします。
 そして、多数意見が、夫婦同氏により嫡出子であることが示されること、両親と氏を同じくすることが子の利益であるとしている点について、夫婦にも別れがあり、離婚した父母が婚氏続称を選択しなければ氏を異にすることになるのだから、夫婦同氏によって育成に当たる父母が同氏であることが保障されるのは初婚が維持されている夫婦間の子だけであり、未成熟子育成の責任を担うのは夫婦であることもあれば、離婚した父母であることもあり、事実婚ないし未婚の父母であることもあるのであり、実質的に子の育成を十分に行うための仕組みを整えることが必要であるとされているのが今の時代であって、夫婦同氏であることが未成熟子の育成にとって支えとなるものではない等と述べられています。

4.感想

(1) 夫婦同氏制事案の判決のご紹介だけで、うんと長くなってしまったので、今回は、再婚禁止期間事案の判決については、パスします。

(2) 夫婦同氏事案に係る最高裁判決に対する感想ですが…。
 今回の判決は、報道で大きく取り上げられたこともあり、その反響もそれなりに耳に入ってきます。本当に、様々な意見があり、賛成派と反対派の溝は思ったよりも深く、意外な方の意外な意見にびっくりすることも…。

(3) 私は、寺田逸郎裁判長の補足意見を読ませていただくと、なるほどなるほど…とは思うのですが、ただ、この件については、民主主義的プロセスに委ねていてもあまり変わりそうな気がしないなあ…とも思わずにはいられません。
 女性裁判官3名の意見は、働く女性の視点から本件規定の現時点での憲法24条適合性について的確に論じられているとは思います。
 もっとも、今回の最高裁判決を読んで、私が一番ハッとさせられたのは、木内裁判官の意見だったかもしれません。それは、子供の視点にも配慮されているように思ったからです。確かに、法律婚を尊重することは大切ですし、家族が同氏でまとまることは大変素晴らしいことであるとは思いますが、実際には、子供は色々な家庭で育てられているのであり、両親と子供が同じ氏でまとまることをあまり強調すると、一定の価値観を社会に醸成することになり、それが子供にとって酷な場合もあり得るのでは…と思うのです。

 現在の夫婦同氏制は確かに社会に定着していますが、今回の最高裁判決に伴う報道で、明治維新後(正確には、明治9年以降)、夫婦同氏制が導入された明治31年までは、夫婦別氏制だったことを知りましたし、それ以前も(江戸時代は苗字帯刀が制限されていましたが…)、中国や韓国のように、夫婦別氏が原則だったともききます。
 世の中の常識は、時代とともに、変化するのですから、あまり現時点での常識に軸足を深く突っ込みすぎるのも危険がないとはいえません。夫婦同氏制が違憲か否かはともかく、家族の形を定める法律自体が、もう少し多様性を許容することにより、社会全体の認識も変わっていく…という未来も、一考に値するのかな…と思ったりもしました。


5. 久しぶりのブログ更新で、また、だらだらと長く書いてしまいました。
 最後に、話題をがらりとかえて、今年のクリスマスツリーをアップしてみます。
 北欧風のつもり…?です(笑)。

ストロー素材のオーナメントを中心に
北欧風(?)にまとめてみました。
何年か前に、イオンでお得にまとめ買いしてます。
雪の結晶がついているレーステープがお気に入りです。
赤い帽子と赤い服の妖精は、
フィンランドではトントゥ(tonttu)、
スウエーデンではトムテ(tomtar)、
デンマークとノルウェーではニッセ(nisse)と
国によって呼び名は違うみたいですが、
サンタクロースのお手伝いをするらしいです。

 ちなみに、去年のクリスマスツリーは、こちら(↓)。
http://www.hisaya-avenue.blogspot.jp/2014/12/stap.html

2015年11月30日月曜日

古都奈良の秋、春日大社の式年造替と文化財の保護制度


1.  11月も今日で終わり、明日から、師も走る12月。
 時の流れが速く、焦ります。

 
2.(1)  芸術のも過ぎ行こうとしていますが、今日は古都奈良の秋と文化財の話題を

 
(2)   先日、秋たけなわの古都奈良春日大社を訪れる機会がありました。
 春日大社は、1300年前、平城京遷都の頃に創設された藤原(中臣)氏の氏神さまを祀る神社で、現在、60次式年造替が行われています。 

銀杏の黄葉がきれいな春日大社の回廊
 
(3)   春日大社の御本殿(国宝)は、4棟が軒を接するように並んでいます。
 各殿は、「春日造」という、奈良・和歌山を中心に全国に流布している形式で造られています。重要文化財に指定されている全国の本殿建築の約
2割が「春日造」で、「流造」についで多いといいます(田中泉「平成27年度修理建物国宝春日大社御本殿」『春日』第94)。
 各殿に祀られているのは 東側より、武甕槌命(たけみかづちのみこと。常陸の国、鹿島神宮よりお迎えしたといいます。)、経津主命(ふつぬしのみこと。下総の国、香取神宮よりお迎え。)、そして、藤原氏の祖神である天児屋根命(あめのこやねのみこと。河内の国、枚岡神社よりお迎え。)と比売神(ひめがみ。天児屋根命の妻。)の4柱です。
 ちなみに、藤原氏の氏寺は、興福寺だそうで、そのため、春日大社と興福寺の関係は深く、神仏習合思想により、一体となっていたこともあったとか…。今でも、興福寺のお坊さんが春日大社で読経することがあるといいます。
 

(4)   春日大社では、古くから定期的に本殿を新たに建て替える式年造替が行われてきたところ、慶長18年(1613)年には江戸幕府の支援により造替が行われ、以後20年毎の本殿造替の制が定まり、明治16年(1883年)からは修理をもって造替代えられたといいます(前掲・田中)。
 ということで、御本殿では、現在、檜皮葺屋根の葺替え等がおこなわれており、その様子を、特別に拝見させていただきました。
 式年造替を行う主たる理由は、社殿の清浄さを尊ぶことなのでしょうが(前掲・田中)、現代では、文化技術継承していく重要な機会になっているといいます(学芸員の先生談)
     
檜皮葺屋根の葺替の様子。
修理工事中、神様は、お引越しなさっています。

 
3.(1)   ところで、国宝重要文化財は、どういう法律にどのような規定があるのかご存知でしょうか。
 平成25年に制定された文化財保護法という法律が、規律しています。
 

(2)  明治維新により、一旦は、廃仏毀釈等により、仏像、建造物、美術品などの大量破壊や海外流出が生じましたが、明治政府は、明治4、「古器旧物保存方」という太政官布告を発しました。更に、日清戦争後の国家意識の勃興を背景にして、明治30、「古社寺保存法」が公布され、歴史的・美術的に価値の高い建造物や宝物類を「国宝」等に指定し、保存のための補助金を支出するようになりました。古社寺保存法は対象を社寺に限っていたところ、昭和4、古社寺保存法を廃止して、「国宝保存法」が公布され、社寺のみならず、「建造物、宝物其ノ他ノ物件ニシテ特ニ歴史ノ証徴又ハ美術ノ模範ト為ルベキモノ」については、国宝に指定されると、輸出・移出が禁じられ、現状変更も内務大臣の許可が必要となりました。昭和8年には、「重要美術品等ノ保存ニ関スル法律」が公布され、従来の国宝の他に重要美術品等の指定がなされ、国宝同様に輸出・移出に制約を課すこととされました。
 戦後、昭和24法隆寺金堂炎上を機に、文化財保存のための抜本的施策を講ずるよう世論が高まり、昭和25、文化財保護のための総合立法である「文化財保護法」が成立しました。これにより、国宝保存法、史跡名勝天然記念物保存法、重要美術品等ノ保存ニ、関スル法律の三法廃止され、建造物、美術工芸品、史跡、名勝天然記念物の保護が一体的に処理されることとなったほか、新たに無形文化財民俗資料、埋蔵文化財も保護対象となりました(文部科学省のHP「学制百二十年史」より)。
 

(3) 文化財保護法は、
建造物、絵画、彫刻、工芸品、書跡、典籍、古文書その他の有形の文化的所産で我が国にとつて歴史上又は芸術上価値の高いもの(これらのものと一体をなしてその価値を形成している土地その他の物件を含む。)並びに考古資料及びその他の学術上価値の高い歴史資料
を「有形文化財」と定義し(同法211号)、
文部科学大臣は、
有形文化財のうち重要なもの
を「重要文化財」に、
重要文化財のうち世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるもの
を「国宝」に指定できます(同法2712項)。
 

(4) 重要文化財や国宝の指定を文部科学大臣から受けると、都道府県教育委員会を通じて、重要文化財指定書または国宝指定書が交付されます。
 国宝、重要文化財の指定を受けた場合、指定文化財の所有者には、以下のような義務等が生じます。

・公共のために保存し、文化財保護法等に従った管理をすること(同法42項、311項)。

・可能な限り、公開するよう努めること(同法42項。47条の2以下参照。)。

・原則として、海外への輸出禁止(同法44条)。

現状変更しようとするときは、文化庁長官の許可を得なければならず(同法431項)、修理しようとする際には、文化庁長官に事前届出なければならないこと(同法43条の21項)。

有償譲渡の際には、譲渡の相手方予定対価の額等を記載した書面をもって、まず、文化庁長官に国に対する売渡の申出をしなければならないこと(同法461項)。
⇒この売渡申出の制度は、優先買取権を認めているものです。
 売渡の申出があった場合、文化庁は
30日以内に買取るかどうかを決定し、買い取る場合は、申出のあった予定対価に相当する額で契約が成立したものとみなされ(同条4項)、買い取らない場合は、その旨を申出者に通知します(同条3項)。
 

(5) そんな機会に恵まれることは滅多にないかもしれませんが、相続、寄贈等により、指定文化財取得した場合、新所有者は、指定文化財の取得後20日以内指定書を添えて、所有者の変更の届出提出する必要があります(文化財保護法321項、国宝、重要文化財又は重要有形民俗文化財の管理に関する届出書等に関する規則3条参照)
 所有者変更の届出を怠ると、5万円以下の過料に処せられることがあるので、ご注意ください(同法2032号)。
 また、有償譲渡の際の売渡申出を怠ると、10万円以下の過料に処せられることがあります。(同法2022項)。
 

(6) 昨年11月、文化庁は、所在不明国指定文化財がある旨発表し、世間に衝撃を与えました(全10,524件のうち、所在不明が109件、追加で確認必要な件数が238件。)。
 今年の1月には、新たに国宝2件を含む72件が所在不明になっているとの第2次調査結果を発表しています。その結果、所在不明と判明した文化財180にのぼりました。うち、国宝3で、すべて刀剣だそうです(短刀<銘国光>、太刀<銘吉平>、刀<名物稲葉江>の3振り)。
http://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/pdf/2015012101.pdf#search='%E9%87%8D%E8%A6%81%E6%96%87%E5%8C%96%E8%B2%A1+%E6%89%80%E5%9C%A8%E4%B8%8D%E6%98%8E'
 まさに国の宝ですから、なんとか、対策をとってほしいですね。