2026年8月31日月曜日

租税訴訟学会の令和8年度研修・研究大会における宇賀克也名誉教授の講演

 

1. 今月(8月)は今日で終わりですが、千葉豪雨に続いて、富山、石川、福井でも豪雨が発生しました。被災された地域の方々、被害者の方々に、心よりお見舞い申し上げます。

2. 一昨日(2026829日)、租税訴訟学会の令和8年度研修・研究大会における、元最高裁判所判事の宇賀克也名誉教授の講演を、オンラインで拝聴する機会がありました。
 宇賀克也名誉教授は、最高裁判所判事として、このブログでもとりあげたことのあるマンション評価事件の上告審判決(最判令和4419日民集764411頁)にも関与されており、また、先日出版された『管見最高裁判所』も話題になっていたので、ご講演をとても楽しみにしておりました。

(1)  第1部は、「最高裁で考えたこと(その1) 最高裁で審理した行政事件」と題され、マンション評価事件のほか、タキゲン事件(最判令和2324集民26363)などの事案の概要や判決文の紹介を中心に進み、休憩後には、小法廷の壁、大法廷の壁などにも言及されました。「小法廷の壁」を超えられなかった例として、法人税青色申告承認取消事件などをあげられ、立法論として、小法廷で、2名以上または1名でも、大法廷回付に賛成すれば、これを可能としてもよいのではないかという提案をされていました。

(2) 第2部は、「行政における適正手続保障」と題され、特に、反対意見を書かれた法人税青色申告承認取消事件(最判令和657日判タ152366頁)を掘り下げて説明してくださいました。
 まず、多数意見は、「このことは、最高裁昭和61年(行ツ)第11号平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁(筆者注:成田新法事件)の趣旨に徴して明らかである」と判示するのみで、ほとんど全く理由を述べていないに等しい、ということで、自らの反対意見は、原審の判断への批判となったと説明された上で、原審が、適用除外が認められている理由がいずれの点も合理的理由たり得ないことについて、説明されました。たとえば、国税不服審判所の審査請求があるから事前手続はおよそ不要ということにはならない、青色申告承認取消処分が大量反復的に行われるという理解は、我が国の実際の税務行政の姿から乖離している、聴聞に相当する手続は、地方自治体のそれをみてもだいたい1回で終わるなど、迅速性の要請に照らして無理を生じさせるとまでは思えない、むしろ、我が国の税務行政を過小評価することになるなどと指摘されていました。また、成田新法事件は、新東京国際空港の開港を実力で阻止することを試みる集団が設置した工作物使用禁止命令に係る事前手続の要否が問題になった事案で、青色信仰の承認の取り消しが問題となった本件とは全く事案を異にするとおっしゃっていたことも印象に残りました。
 更に、同事件は、「上告理由のうち憲法31条違反をいう部分」のみ上告受理されており、その余は、これに先立つ最決令和6327日で、「裁判官宇賀克也の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する」として、不受理決定となっています。
 これについて、宇賀克也名誉教授は、最高裁判事に就任した当時、上告不受理決定に反対する判事がいても、多数決で不受理決定となった場合、「全員一致で」と記載される運用となっていたところ、これを変更するように事務局?とかけあって、20215月か6月頃から、反対意見がある場合にその旨記載されるようになったのだと説明されていました。もっとも、反対意見を書くことはできない運用を変更することはできなかったそうです。
 ということで、宇賀克也名誉教授は、上告不受理決定に反対した理由、すなわち、本件処分が理由付記の不備により違法であるかという争点についても上告受理決定をすべきであると考える理由について、説明してくださいました。それは、青色申告承認取消については、事務運営指針があり、本件は、事務運営指針「4」記載の「2事業年度連続してその提出期限内に法第74条第1項の規定による申告書の提出がない場合」にあたるのですが、事務運営指針「5」では、「4に該当する場合においても、役員その他相当の権限を有する地位に就いている者が知り得なかったこともやむを得ないと認められるなどその事実の発生について特別な事情があり、かつ、再発防止のための監査体制を強化する等今後の適正な記帳及び申告が期待できるなど、取消しをしないことが相当と認められるもの」には「所轄国税局長と協議の上その事案に応じた処理を行うものとする」とされているから、これにあたらないという理由も付記すべきであるのに、これが付記されていなかったので、不受理決定に反対したとのことです。

(3)  質疑応答では、マンション評価事件上告審判決が「租税法上の一般原則としての平等原則は、租税法の適用に関し、同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求するものと解される。」と判示したことについて、①憲法14条には言及されていないが、「租税法上の一般原則としての平等原則」というのは、租税法に内在する条理のようなものか?②行政法ではなく、「租税法上の」としているのは、租税法に固有の考慮、たとえば、租税法律主義の考慮もこめられているのか?という質問が宇賀名誉教授に対しありました。
 宇賀名誉教授は、①行政法上の一般原則には、比例原則や平等原則があるが、比例原則は一般的に憲法13条、平等原則は憲法14条から導くことができ、憲法上の原義を排除するものではない。あえて憲法に言及しなくても、憲法から導かれることを前提とした判示である、②行政法の原則と言っても、租税法律主義の適用はあるので問題ないが、租税法については、憲法で租税法律主義が明記されており、これが問題になることもあるので、それを念頭において、ああいう表現になった、と回答されていました。
 ここは個人的に関心があるところだったので、大変興味深く拝聴しました。というのも、同判決の判解では、「ここにいう『租税法上の一般原則としての平等原則』は行政法の一般原則…の1つとされる平等原則と同義であろう。本件においては、立法の内容ではなく法令の適用における公平…が問題となっており、憲法論に立ち入る必要がないことから、本判決は、法律レベルの平等原則を問題としているものと思われる。」と記載されており、その意味するところが、必ずしも、判然としないからです。判解は、脚注で宇賀名誉教授の『行政法概説Ⅰ(第8版)』6771頁を参照引用しており、同67頁には、「行政機関が合理的理由なく国民を不平等に取り扱ってはならないことは当然であり、平等原則は日本国憲法14条により基礎づけることも可能であるが…、法律による行政の原理と平等原則とが抵触する場合にいずれを優先させるかは困難な解釈問題である。」とし、「この点が問題になった」裁判例として、スコッチライト事件(東高判昭和44930日高民集225682頁)があげられています。
 この点については、とても気になるところなので、また、とりあげたいと思います。