2026年8月8日土曜日

法人税法132条の2の適用の可否が争われた2つの事案(大地判令和8年5月21日と東地判令和8年6月18日)

 

1.本年(2026年)728日、熊本県を震源とする最大震度7の大きな地震が発生しました。その後も、余震と厳しい暑さが続いています。被災された地域の方々、被害者の方々に、心よりお見舞い申し上げます。

 2. 法人税法132条の2の適用の可否が争われた2つの事案(大地判令和8521日と東地判令和8618日)

(1) 事業の承継先と欠損金の引継ぎ先が分かれる完全支配関係の合併について法人税法132条の2の適用の可否が争われた2つの事案で、同条の適用を認める大地判令和8521日と、同条の適用を否定する東地判令和8618日という対照的な判断がでました。

(2) 法人税法132条の2については、ヤフー事件について、私のブログでユニバーサル事件(こちらは法人税法132条の事案です)についてとりあげた際に触れたことがあったと思います。
 どちらの規定においても、「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるとき」には、「税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる」とされています。つまり、単に法人税の負担を減少させるのは「節税」ですから問題がないはずですが、「不当に」法人税の負担を減少させたと判断されると、税務署長に「伝家の宝刀」ともよばれる極めて強力な否認権限を認めることになるのです。この点、誰しも法が認める範囲内で税金を減らしたいと思うのは当然であり、それ自体は経済的に合理的で、責められることではないはずですが、どうしたら、「不当に」税金を減らしたものと判断されて否認されることになるのでしょうか。「不当に」というのは明らかに評価を含むわけですから(いくら減らしたら不当といわれるかはっきりしない)、そもそも、このような不確定概念をもって課税要件とすることについて、憲法84条の定める租税法律主義の一内容である課税要件明確主義に反しないかが問題となるところです。しかし、金子宏教授は、「租税行政庁に自由裁量を認めるものではな」く、裁判所の審査に服することなどから、「その必要性と合理性が認められる限り…略…課税要件明確主義に反するものではない」としています。
 このように、究極的には、「不当」かという要件(不当性要件)の有無は、裁判所が判断することになるわけですが、不当性要件は、要件事実論におけるいわゆる規範的要件であり、立法時点において事後審査する裁判所の法規拘束がある意味緩和される一方、結局、裁判所は、積み重ねられた事実を総合的に判断して規範的に評価するために、自ら判断枠組みを示す必要に迫られることが多いといえるのではないでしょうか。

(3) それでは、ヤフー事件上告審判決(最判平成28229日民集702242頁)は、「不当」性要件該当性の判断枠組みどのように示したのでしょうか。同判決は、「同条にいう『法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの』とは,法人の行為又は計算が組織再編成に関する税制(以下『組織再編税制』という。)に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべきであり、その濫用の有無の判断に当たっては、①当該法人の行為又は計算が,通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情考慮した上で、当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって,組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当である。」と判示しました(制度濫用基準と称されています。)。
 実は、ヤフー事件上告審判決の最高裁判所判例解説を執筆した最高裁判所調査官の一人が、今回、大地判令和8521日の裁判長をつとめた徳地淳判事です。ヤフー事件の最高裁判所判例解説では、上記のとおり、「事情」や「観点」がでてくる複雑な判断枠組みである制度濫用基準について解説されており、経済合理性基準をとる132条の枝番である132条の2について、「経済合理性基準をそのまま用いることは、組織再編成という事柄の性質上、必ずしも適切ではない」としつつ、①、②の2つの要素について、「特に重要な考慮事情」とし、その実質において経済合理性基準に係る通説的見解の考え方を取り込んだものと評価できるなどとしています。

(4) 132条の2については、ヤフー事件(及びIDCF事件)の後、TPR事件(東地判令和元年627日訟月665521頁が原告納税者の請求棄却、東高判令和元年1211日訟月665593頁も控訴棄却、最決令和3115日税資271号順号13508で上告不受理・棄却により確定)、PGM事件(東地判令和6927日金判17159頁が原告納税者の請求認容、東高判令和7723日判例秘書L08020497は控訴棄却)に続いて、今般、大地判令和8521東地判令和8618がでたことになります。
 この2つの判決の比較については、佐藤修二教授らが執筆されたT&Amaster1131号(2026720日)4頁以下の記事が大変参考になります。
 ちなみに、ヤフー事件は、5年超の特定資本関係がない適格合併の事案でしたが、その後の事例は、いずれも特定資本関係5年超の適格合併の事案であることから、「欠損金の引継ぎを認める法572項の趣旨・目的と、その逸脱の有無が、より直接的に問われる」と指摘されています。

(5) 大地判令和8521の判決文については、柳谷憲司税理士が情報公開請求の上、インターネット上で公開されているので、ざっと拝見しました。同判決については、日経新聞が、某メガバンクがスキームを助言し、訴訟にも補助参加したと報道されています(なお、SNSにおいて、元裁判官による「銀行が助言通りしたのに、『脱税』と認定いされる」とのメッセージを目にしましたが、大きな誤解ですね。)。
 同判決の争点は、法人税法371項の寄付金該当性などもありますが、「本件合併による本件未処理欠損金額の引継ぎについて、法人税法132条の2の適用による否認をすることができるか否か」という争点に関する判断において、ヤフー事件(及びIDCF事件)を参照引用しつつ、不当性要件判断枠組について、制度濫用基準を採用しています。その上で、「支配関係5年超要件を満たしている適格合併に法人税法132条の2を適用することができるか否かについて」を検討し、「法人税法132条の2の文言や趣旨を踏まえれば、支配関係5年超要件を満たすため同法573項が適用されない場合においても、個別事案の具体的事情の下において、同条2項の規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税法の負担を減少させていると認められる場合には、税務署長は、同法132条の2を適用し、未処理欠損金の引継ぎを否認することができる」としました。そして、「例えば、①多額の未処理欠損金額を有する子会社をいったん親会社に適格合併し、その後直ちに当該子会社の事業を分割して切り出し、未処理欠損金額だけを親会社に残すような事例…②上記のような子会社の事業を新会社に分割して切り出し、未処理欠損金額だけが残された旧会社を親会社に適格合併するような事例…については、子会社の未処理欠損金額を事業から切り離して親会社に付け替えるための組織再編成であり、子会社の事業が親会社に移転して継続するものとはいえないから、法人税法572項の趣旨及び目的に反することになるものと解される」と判示します。そして、あてはめをして、「以上を総合すると、法人税法572項の適格合併における未処理欠損金額の引継ぎは、事業年度間の所得金額と損失金額を平準化するという欠損金の繰越控除制度の趣旨及び目的に照らし、被合併法人の事業が適格合併による合併法人に移転し、合併法人において引き続き営まれること(合併による事業の移転及び継続)を想定しているものと解されるところ、本件組織再編成は、形式的には同項の未処理欠損金額御引継ぎの要件を満たすものの、同項において想定されている事業の移転及び継続という実質を備えているとはいえず、実態とは乖離した不自然なものと言うべきであり、また、本件組織再編成は、本件事業の利益では控除しきれない本件未処理欠損金額を本件事業から切り離し、これを原告に付け替えることにより、現行の營負担を減少させることを主たる目的とするものであって、税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在したとはいえない。そうすると、本件組織再編成は、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、法人税法572項を租税回避の手段としてその適用を受けるものであると認められる。したがって、本件組織再編成は、組織再編成に係る法人税法572項を租税回避の手段として濫用することにより法人税法の負担を減少させるものといえ、同法132条の2にいう『法人税税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの』に当たる。」と結論づけました。

(6) 東地判令和8618の判決文は、残念ながら、まだ入手できていません。
 ただ、上述のT&A masterの記事において佐藤修二教授が「事業と欠損金を結びつけ、完全支配関係の内部での欠損金の付け替えを問題視する根拠はどこにあるのでしょうか」と指摘し、安田雄飛弁護士が「企業グループ一体性にかんがみれば、たとえば、100%の資本関係で結ばれた企業グループの中で、グループ外から欠損金を有する法人を買ってきたというような『欠損金の売買』の事例はともかく、グループ内で生じた欠損金を、そのグループ内で使用することには、問題はないように思うのです。」と述べていることに、強い関心を覚えてます。
 そもそも、冒頭にも触れましたが、不当性要件の判断においては、積み重ねられた事実を総合的に判断して規範的に評価するために、裁判官の価値観が反映されやすいとも思えます。
 東地判令和8618日は、事案が異なるとはいえ、大地判令和8521日と異なる判断をしているようであり、入手できたらもう少しきちんと検討したいところです。

3. 最後に…

 メ~テレ(名古屋テレビ放送株式会社)さんより取材を受け、以下の2つのオンラインニュースが配信されました。
2026523日付「金銭で解決する『遺留分侵害額請求』様々な感情が交錯 財産調査に手間取り時効期間を過ぎることも」(記事保持期間は13カ月)。
2026628日付「土地の境界(筆界) 特定する必要はなぜ出てくる? 歴史をひもとくと明らかに」(記事保持期間は13カ月)。