ラベル ハーグ条約 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル ハーグ条約 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2017年5月28日日曜日

MiKKによる国境を越えた家族の紛争(含ハーグ条約)に係るメディエーションのセミナー The Training Course on Cross-Border Family Mediation organized by MiKK


512日から14日まで、大阪大学中の島センターで行われたMiKKによる国際家事メディエータートレーニング講座に参加しました。
 MiKKは、国境を越えた子の連れ去り等の事案(いわゆるハーグ条約事案)等を扱うメディエーションを支援するドイツの非営利機関です(調停機関ではありません)。MiKK主催の国境を越えた家族の紛争に係るメディエーションのセミナーに参加するのは、一昨年の9以来であり、また、メディエーションのロールプレイを経験するのは3回目。日本では、メディエーターとしてのトレーニングをしてもらえるセミナー等は少ないので、貴重な機会であり、大変勉強になりました。
 
I took part in a training course on cross-border family mediation organized by MiKK , held in Osaka from November 25 until November 27.  MiKK is a non-profit organization which is active in the fields of mediation in cases of cross-border child abduction, and so on.
As there are not so many opportunities for mediators to be trained in Japan, the seminar was quite a valuable experience to me.

2016年11月30日水曜日

国際家事調停人研修 Mediator Training in English


1. 1125日から27日の日程で、大阪で開催された「ハーグ条約セミナー 英語による国際家事調停人研修」(日本仲裁人協会主催)に参加しました。

 日本の家事裁判所や簡易裁判所で行われている調停は、原則、別席調停です。
 これに対し、今回の研修で学んだのは、「対話促進型同席調停」です。

 まず、講師のレビン小林久子先生(元九州大学大学院教授)より、米国でADRの利用が盛んになった経緯や紛争解決の中心理論(交換理論、統合理論、トランスフォーマティブ理論、ナラティブ理論)について解説がありました。米国の調停理論には、心理学の成果のみならず、平和運動や反体制運動が影響を与えているというのは、大変、興味深いと思いました。また、同一のもの(例えば親権)を争った際の紛争解決の困難性(ゼロサム状態)について、その対処方法を理論的に構築しようとするアプローチ自体が(実際にいつも理論通りにいくかは別にして)慧眼だなあと感服しました。

 技法については、傾聴(Active-listening)、パラフレイジング、リフレイミング、サマライジング、ノートの取り方などを習いました。これらを実践すべくロールプレイが3回行われ、運よく(笑)、2回も調停人役がまわってきました。何事も一朝一夕にはまいりませんが、場数を踏むことの大切さを実感しました。

 昨年参加した「ハーグ条約に関する日豪合同あっせん人研修」や今年ロンドンで訪問したリユナイト等で見聞したところによると、オーストラリアやイギリスでは、Mediatorは何十時間ものトレーニングを受けているようです。
 日本では、少なくとも、弁護士が、裁判所の調停官・調停委員になったり、ADRのあっせん人になったりするために、特段のトレーニングプログラムは用意されてはいないことが多いように思います。それは、法曹としての養成プログラム(司法修習)を経た後、紛争解決の場で多様な経験を積んでいるからではないかと思われます。なので、特段のトレーニングプログラムが必要であるとまでは言い難いように思います。とはいえ、今回の研修のように、調停の理論や技法を学ぶことは、極めて有益なことだと思いました。

   
日本仲裁人協会の
受講証明書

I took part in a Hague Convention Related Seminar, “Mediator Training in 2016 in English”, organized by Japan Arbitration Association.  It was held in Osaka from November 25 until November 27. 
At the begining of
the seminar, Ms. Hisako Kobayashi-Levin (former professor of Kyushu University) explained about a social background of ADR procedures in the USA, some theories related to conflict resolution, and so on.  I was surprised to hear that a peace movement and an anti-establishment movement affected theories related to conflict resolution.
After we learned mediation skills such as "Active-listening", "Paraphrasing", "Reframing", "Summarizing" and "Note-taking", we challenged roll playing sessions to practice those skills. 

I found the training program quite practical and useful.
 

2. ところで、大阪では天王寺に宿をとっていたので、早朝、天王寺公園を散歩することができました。
 天王寺公園には、茶臼山があります。茶臼山は、今放映中の大河ドラマ「真田丸」の舞台の一つであり、大坂冬の陣(1614年)では徳川家康の本陣、大阪夏の陣(1615年)では、真田幸村の本陣となったとところです。茶臼山の横に広がる池にかかる橋には、六文銭の旗がはためいていました。
 また、研修3日目の会場は、大阪城の近くだったので、昼休みを利用して、大阪城まで足をのばしました。以前訪れたのは小学生か中学生の頃だったように思います。掘も石垣も、記憶よりも大きくて、びっくりしました。
 今度、ゆっくりと訪問し、真田丸の位置等も確認してみたいものです。
  
早朝冷え込みました。
茶臼山が河底池の湖面に
きれいに映っています。
"Chausuyama" hill
and a pond in Tennoji Park
 
河底池にかかる橋。
欄干には、六文銭の旗がはためいていました。
奥に見えるビルは、あべのハルカスです。
A brige in the park 
 
大阪城
Osaka Castle
 
  As I stayed at the hotel in Tennoji, I walked in the Tennoji Park early in the morning.  There is "Chausuyama" in Tennoji Park, which is famous for the Siege of Osaka in 1614 and 1615. 
I also visited Osaka Castle during a lunch break of the seminar. 

2016年7月19日火曜日

ロンドンで開催された国際家族法会議("Culture, Dispute Resolution and the Modernized Family” by International Centre for Family Law, Policy and Practice)


 国際家族法会議76日から8日まで開催)に出席するため、73日から1週間ほど、ロンドンに行ってきました。世界各国の家族法研究者、裁判官、弁護士、ソーシャルワーカーなどが出席しており、国際家族法分野における現代の潮流について、肌で感じることができる貴重な機会だったと思います。
 ロンドンでは、国際家族法会議に出席したほか、
王立裁判所Royal Courts of Justice)、
ロンドン中央家庭裁判所Central Family Court)、
ロンドンの法律事務所International Family Law Group LLP)、
リユナイトreunite International Child Abduction Centre)の事務所
(ハーグ案件を含む国際家事事件を対象とする慈善団体)
などを訪問することができました。
 ロンドン訪問については、また、このブログか、事務所通信などの形で、もう少し詳しくお伝えしたいと思っています。

→ <後記>
        事務所通信第7号に載せました。
    http://www.hisaya-ave.com/jimushotsushin7/jimushotsushin7.pdf

I attended the conference on "Culture, Dispute Resolution and the Modernized Family” held by International Centre for Family Law, Policy and Practice, on July 6 - 8, 2016, in London.
During my stay in London, I could visit Royal Courts of Justice, Central Family Court, International Family Law Group LLP, reunite International Child Abduction Centre, and so on.
I am thinking of doing a more detailed report on my London visit later with this blog or other tools.

2016年7月1日金曜日

ハーグ条約に係るアジア太平洋シンポジウム“Asia Pacific Symposium on the 1980 Hague Convention” & 在名古屋ブラジル総領事館Consulate General of Brazil in Nagoya


1. 昨日行われた、外務省、ハーグ国際私法会議(HCCH)事務局、早稲田大学が共催する「ハーグ条約に係るアジア太平洋シンポジウム」に、午後の部だけですが、出席することができました

新幹線が遅延したため少々遅刻してしまいましたが、特に、ハーグ条約の子の返還案件にかかるADRと家事調停のデモンストレーションは、とても、興味深く、また、勉強になりました。
 
デモンストレーションは、ADRについては、大阪のADR機関の方が、家事調停については、東京家裁の方がやっておられたようです。
 
質疑応答で、家事調停における裁判官の役割や別席調停について、質問や感想が述べられたのは、印象的でした。日本の弁護士にとっては慣れ親しんでいる家事調停のスタイルですが、理解が難しい参加者もいるようです。以前参加したハーグ条約に係る共同調停(あっせん人)研修でも、オーストラリア側参加者から、質問が集中したことを思い出しました。

→ <後記>
        「ハーグ条約の基礎」事務所通信第7号に載せました。
   http://www.hisaya-ave.com/tsushin7-7.html
   PDF版はこちら。
   http://www.hisaya-ave.com/jimushotsushin7/jimushotsushin7.pdf
 

I attended the “Asia Pacific Symposium on the 1980 Hague Convention” yesterday.  The symposium was jointly organized by the Ministry of Foreign Affairs of Japan, the Hague Conference on Private International Law and Waseda University.
I was most impressed with a demonstration of mediation and conciliation.  Questions regarding conciliation (e.g. a shuttle mediation, a role of judge who is a member of a conciliation committee), made me consider that a style of conciliation, which is familiar to Japanese lawyers, could be hard to understand for participants from some countries. 
 
    
久しぶりの母校。
大学周辺の変貌にはびっくりですが
この景色は変わりません。


シンポジウムは
早稲田大学の大隈小講堂で開催されました。
(初めて入ったかも…)


2. 今日の午後は、国際委員会の企画で、在名古屋ブラジル総領事館を訪問しました。
 以前、このブログで触れたことがありますが、愛知県は、日本の都道府県で、在留ブラジル人の数がトップです。これが、市町村となると、浜松市がトップだとのこと。そこで、在名古屋ブラジル総領事館は、愛知県以西をまとめて管轄としますが、静岡県は、在浜松ブラジル総領事館が管轄としています。
 ブラジルでは、18歳以上の男性に兵役義務があり、また、18歳以上の国民全員に選挙の義務があるとのこと。これらの義務の履行の有無はパスポート・トラブルに発展することもあるそうで、ブラジル総領事館には、兵役課と選挙課があります。多くの日本人にとっては耳新しいことかもしれません。
 なお、ブラジルも認証不要条約に加入したため(日本は1970年に批准・発効)、今年8月14日より、日本の外務省の認証(Apostille)がそのままブラジルで利用できるようになるとのことでした。
 

I, as an international committee member of Aichi Bar Association, visited Consulate General of Brazil in Nagoya, whose jurisdiction is a western region of Japan.
As voting is compulsory for persons over the age of eighteen, and military service is compulsory for males over eighteen in Brazil, there are both voting section and military service section in Consulate General, which may be new to many Japanese.
After August 14th 2016, public documents issued in Japan with the “Apostille” (Certification from Ministry of Foreign Affairs) will be valid in Brazil because Brazil joined the Hague Convention (the Apostille Convention)

2016年4月5日火曜日

ハーグ条約に係る意見交換会、千葉家裁松戸支部判決平成28年3月29日


1. (1) 日付が変わってしまったので、昨日になりますが、アメリカ大使館のアメリカ市民サービス課が主催するハーグ条約に係る意見交換会(Hague Convention Discussion)にいってきました。

(2) ハーグ条約が発効してほぼ2年が経ち、日本の実務もそこそこ集積してきています。
 本会合では、アメリカのみならず、カナダ、イギリス、オーストラリア等の関係者や、日本の外務省の方も参加されていました。
 ハーグ事案の判決文は公表されていないので、特に、日本の弁護士の経験談は参考になりました。


⇒ <後記>
     「ハーグ条約の基礎」事務所通信第7号に載せました。
   http://www.hisaya-ave.com/tsushin7-7.html
   PDF版はこちら。
   http://www.hisaya-ave.com/jimushotsushin7/jimushotsushin7.pdf

 
2. (1) 1カ月近く前になってしまいましたが、今年311日には、愛知県弁護士会紛争解決センター運営委員会が企画した「国際的な子の奪取に関するハーグ条約研修会」が催され、私は、昨年9月に参加した「ハーグ条約に関する日豪合同あっせん人研修」について、報告しました。
 私の報告のみならず、研修で話題に上がったのが、日本における離婚後の単独親権制度。民法819条1項は、「父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。」と定め、また、同条2項は、「裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。」等と定めています
 これに対し、諸外国で比較的多くみられる法制がいわゆる共同親権制度
 例えば、オーストラリア連邦家族法(The Family Law Act 1975)は、「
parental responsibility」についての規定があり、18歳未満の子供の父母は、各々、子供に関するparental responsibilityを有する、そして、これは、子供の父母の関係性のいかなる変化にもかかわらない等(第 61条C)と規定されています。つまり、オーストラリアでは、離婚後でも(あるいは、事実婚でも)、共同親権が原則であるといえます。
 日本では、離婚に際し約80%の母親が親権を取得している現状があり、離婚後、親権を有しない父親と子との面会交流が円滑に行われるとは限りません。仮に、父親が面会交流を求め、(調停もうまくいかず)これを認める審判を取得したとしても、母親がこれに従わない場合、面会交流の実現は困難な道のりとなるでしょう。
 そもそも、親権・監護権の争いや子の引渡請求において、裁判所の判断に影響するとされる「乳幼児母性優先の原則」や「監護の継続性の原則」(*)は、共同親権に慣れ親しんだ外国人の父親から見ると、脅威そのものなのかもしれません(国際的な子の奪取に関するハーグ条約があるとはいえ…)。
*ただし、監護者の監護の開始が無断連出しなど違法性を帯びる場合でないことを重視する裁判例も相当数あります。

(2)  そんな中、つい先日(329日)、千葉家裁松戸支部で、5年以上別居している夫婦が、離婚と長女(8歳)の親権を争った訴訟で、離婚を認めた上で、夫に長女の親権を認め、妻に同居の長女を引き渡すよう命じる判決を言い渡したとの報道がありました。
 妻は、夫婦関係がうまくいかなくなった後、夫に無断で長女を連れて実家に戻り、夫からの面会希望を拒絶し、夫は子に会えない状況が続いていたといいます。
 夫は、年間100日程度の面会交流を提案し、判決も、夫に対し、妻と長女の面会交流の機会を十分確保すべく詳細な条件を定めているようですが、この判決、今までの判例・裁判例の流れを大きくかえるものになるのか、それとも…。
 今後が注目されます。
    
⇒ <後記>
     平成29年1月26日、控訴審判決がでました
   http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2017/01/29126.html
   関連のブログ。
   http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2017/02/tokyo-district-courts-decision.html

2016年2月8日月曜日

カール独元裁判官によるハーグ条約に係る講演会


1. (1) 23木曜日に、外務省(東京・霞が関)で行われたエバーハルト・カール独元裁判官Mr.Eberhard Carl)による講演会ドイツでのハーグ事案に関する執行手続における子の福祉」を聴いてまいりました。

(2) 日本において、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」、いわゆる「ハーグ条約」が発効したのは、平成264月。
 外務省では、これまでに166(関係国は32か国)の申請を受け付け外国への子の返還12日本への返還6、実現したそうです(今回の講演会に係る外務省の案内による)。
 なお、ハーグ条約については、このブログでも、以下のように、3度、とりあげています。



○「ハーグ条約に関する日豪合同あっせん人研修 ~Mediation-Training for Japanese-Australian family disputes」(2015914日記)

⇒ <後記>
     「ハーグ条約の基礎」事務所通信第7号に載せました。
   http://www.hisaya-ave.com/tsushin7-7.html
   PDF版はこちら。
   http://www.hisaya-ave.com/jimushotsushin7/jimushotsushin7.pdf

(3) 今回の講演のタイトルにあるハーグ事案に関する執行手続ですが、まず、日本における執行手続を概観してみます。
 子の返還命令が確定しても、任意に子が返還されない場合、強制執行を申立てることになるわけですが、日本におけるハーグ事案に関する執行手続は、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(以下、「実施法」)といいます。」に規定されています(実施法の「第四章 子の返還の執行手続に関する民事執行法 の特則」参照。ちなみに、ハーグ事案以外については、明文の規定はなく、判例等に基づいて、実際の運用がつみあげられてきています)。
 以前のブログでも軽く触れましたが、強制執行には、間接強制代替執行(代替執行をベースとしつつアレンジした手続)があり、実施法は、代替執行を申立てる前に、間接強制を試みなければならないとしています(間接強制前置。実施法136条。)。なので、間接強制を試みても、なお、子が返還されない場合に、代替執行に進むことになります。
 代替執行には、子の解放を行う段階(解放実施)と、解放した子を常居所地国へ返還する段階(返還実施)があります。実施法では、子の監護を解くために必要な行為を実施する解放実施者執行官限定する(実施法138条)一方、返還実施者についてはそのような制約はなく、LBPLeft Behind Parent,子を連れ去られた親)が想定されています。
 解放実施者(執行官)は、債務者(通常、TP Taking Parent子を連れ去った親))の説得のほか、債務者の住居等への立ち入り、子を捜索したりします(実施法14011号。必要があれば戸の開錠もできます。)。また、債務者が抵抗すれば、これを排除するために威力を用いたり、警察上の援助を求めることができます(同条4項)。ただし、子に対して、威力を用いることはできません(同条5項)。
 解放実施は、債務者の住居その他債務者の占有する場所で行うことを原則としていますが、その他の場所でも例外的に実施することができます(実施法14012項)。ただし、いずれの場合においても、子の監護を解くために必要な行為は、子が債務者と共にいる場合に限りすることができるとされています(同条3項)。

(4) カール元裁判官の講演では、まず、ドイツにおけるハーグ条約の手続で、子供の福祉がいかにはかられているかが、強調されていたと思います。
 子の奪取事案では、多くのTPが奪取の事実を子に伝えていないという研究があるそうで、このように子が適切な情報を与えられていない状況は、子にとって、悲劇であるとおっしゃいます。ドイツでは、親と子供の間で利益が相反する可能性がある場合、裁判所は、子のために、guardian ad litem (GAL、訴訟後見人)を任命しなければなりません(ドイツ家事事件及び非訟事件手続法(Act on Proceedings in Family Matters and in Matters of Non-contentious Jurisdiction, APFM158条)。GALは、とても重要な役割を担っており、特別な訓練が必要とされています。GALは、まず、何が起きているのかを、子に適切に説明する必要がありますし、子の意見や希望等を聴いて判事に伝え、また、親とコンタクトをとり、子の利益を思い起こさせ、友好的な解決に導いたりします。なお、判事は子に直接審問する必要もあります(APFM159条)。
 ご高承の通り、ハーグ条約では、子の任意の返還、友好的な解決が望ましいと考えられているところ、ドイツでも、中央当局及び裁判所により、mediationが推奨されています。
 このように、子の利益が最優先であること、友好的な解決が十分に試みられる必要があること等が強調される一方で、カール元裁判官は、国が本気で執行する気がないとわかるとTPは裁判所の判断に従わない、稀なケースとはなるが、威力を示す必要もあるという厳然たる態度も示されていたように思います。
 子に対する強制執行は、返還ケースにおいてのみ、子の利益を考慮してこれが正当化され、かつ、他により深刻でない方法が可能でない場合に限り、認められます。
 裁判所は、子の返還の妨害行為等を避けるための命令をだすことができます(国際家族手続法(International Family Law Procedure Act, IFLPA15条)。ヨーロッパには、子の返還を妨害するための国境を越えたサポーター集団がいるそうで、子の返還の場面にメディアを連れて押しかけ、子にとっても、TPにとっても、悲劇的な状況に陥ることがあるようです。
 また、執行官bailiffsは、TPがいなくても、例えば、学校や幼稚園において、子供を連れて行く権限を与えられています。任意の返還に応じない親は、裁判所の命令に同意したと思われたくはないだろうから、むしろ、TPの面前での執行は望ましくないというニュアンスも感じられました(個人的な感想です)。
 当然、執行官は、適切なトレーニングを受けなければなりません。
 ドイツには、少年局(Youth Welfare Office, YMO)という機関があり、友好的な解決をサポートしたり、面会を実施したりする他、子の返還事案で、強制執行の実施をアシストします(IFLPA91項)。もちろん、警察も、強制執行の実施をサポートします。

(5) 前述のとおり、日本においては、ハーグ条約が発効してから2年も経過しておらず、外国への子の返還が実施されたのは、12件にすぎません。
 しかし、今後、件数が増加していけば、強制執行手続にまで至るケースも増えることが予想され得ます。
 日本に先んじてハーグ条約に加盟し、実績を積みつつ、運用を改善してきたドイツでは、強制執行のみならず、日本と異なるハーグ条約の実施の状況があるようで、色々と考えさせられ、勉強になりました。

(6)  カール元裁判官は、昨年9月横浜で行われた日豪合同あっせん人研修の講師でもいらっしゃいました。
 そこで、講義の後、横浜の研修に参加した弁護士や家事調停官が集まり、カール元裁判官を囲んで、夕食会が催されました。
 この夕食会でも、カール元裁判官や諸先輩から色々なお話がうかがえて、大変、勉強になりました。

2. (1) ところで、冒頭で触れました通り、今回の講義は、外務省で行われたのですが、遅刻しないようにと、東京駅に少し早めに着く新幹線にのりましたので、時間を調節するために、新橋駅から外務省まで歩きました。
 また、講演と夕食会の間にも時間がありましたので、芝田村町を散策しました。

(2) 芝田村町については、次回にでも…。

(3) 外務省のある霞が関は、以前のブログでも触れました通り、大学卒業後勤めていた銀行近辺であり、霞が関から新橋までは、親睦会等のため歩いたことが何度もあり、昔からあるお店をみつけると、懐かしくて…。

         
新橋駅は大規模改良工事中。
SL広場は、噴水がなくなり、「愛の像」の場所が変わってる!
          
みつけた!
昔からあるお店「末げん」。
三島由紀夫が自決前に晩餐に訪れたことで有名なお店ですよね。
部の親睦会でいったときは、建て替え前。
「鳩山一郎」元首相の書が飾ってある部屋でした。
その後、建て替え中、仮店舗にもいったことがあります。
流しの三味線弾き(?)が通り、これまた、風情がありました。

末げんの昔のパンフレット。
黒板塀のしっぽりとした外観でした。

烏森通。ここはあまり変わってないように見えます。
もっとも、飲みに行ったことないですが…。

おおっ!大好きな堀商店ビルは健在♪
(4)  今回、外務省に入るには、勿論、身元チェックがありましたが、私が銀行にお勤めしていた当時は、どこも警備も緩やかで、外務省の食堂にランチを食べに行ったことを思い出しました。
もっとも、農林水産省の食堂の方が、人気があったような…。農林水産省の食堂は、現在、誰でも入れるんですね。
あと、通産省(古い!)別館の上にはテニスコートあったなあ…(笑)。

2015年9月14日月曜日

ハーグ条約に関する日豪合同あっせん人研修 ~Mediation-Training for Japanese-Australian family disputes~


1. ハーグ条約に係る研修と外務省の役割

 先週1週間201597日(月)~11日(金))、横浜で行われたハーグ条約に関する研修に参加してきました。
 ハーグ条約国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(The Convention on the Civil Aspects of International Child Abduction)については、以前にも、このブログで触れたことがあります。
http://www.hisaya-avenue.blogspot.jp/2014/11/261119.html
http://www.hisaya-avenue.blogspot.jp/2015/01/blog-post_26.html

 今回行われた研修は、講師ドイツ人オーストラリア人日本人を参加者として、日本・オーストラリア間の家族の紛争(含 ハーグ条約の案件)に係るあっせんについて学ぼうというもの。
 ハーグ条約は、「子の任意の返還を確保し、又は問題の友好的な解決をもたらすこと」(to secure the voluntary return of the child or to bring about an amicable resolution of the issues)を中央当局(ハーグ条約実施法3条で、日本における中央当局は、外務大臣とされています。)の役割の一つとしています(ハーグ条約7c)。
 これを受け、ハーグ条約実施法
9条も、「外務大臣は、…合意により実現するため、これらの者の間の協議あっせんその他の必要な措置をとることができる」と定めています。
 今回の研修も、外務省が関与して行われています。
 



2.話合いによる解決、調停とADR(裁判外紛争解決手続)

 ハーグ条約の返還事案では、子を連れ去った親(Taking parent)と連れ去られた親(Left behind parent)との間で、深刻な対立が予想され得ます。ですが、本来、その解決には双方の協力が必要です。また、ハーグ条約は、ひとまず、子の常居所地国へ返還しましょうという考え方であり、また、子が所在する国の裁判所は、原則として、親権や監護について判断できません。でも、話合いならば、これらも含めた柔軟な解決がはかれます。また、話し合いにより合意した約束の方が、よく守られる傾向にあるといいます。

 日本において、話し合いによる解決として、真っ先に思い浮かぶのは、調停(conciliationかもしれません。
 ハーグ条約に係る子の返還申立事件は、特別の非訟事件とされますが、裁判所は、当事者の同意を得て、いつでも、子の返還申立事件を家事調停に付することができます(実施法114条)。調停では、裁判官と2名の調停委員によって構成される調停者委員会が,当事者双方の意見の調整等を行います。調停の場合,子は常居所地国に帰国するのか否かのみならず,婚姻費用、養育費等の負担や面会交流等についても、話し合うことができます。

 このように裁判所が関与する調停のほかに、裁判所外で紛争に係る協議をあっせんする手続、すなわち、ADR(Alternative Dispute Resolution、裁判外紛争解決手続もあります。
 外務省が委託しているADR機関6つ東京三会(第一東京弁護士会の仲裁センター、第二東京弁護士会の仲裁センター、東京弁護士会の紛争解決センター)、大阪の公益社団法人総合紛争解決センター、沖縄弁護士会の紛争解決センター、そして、私の所属する愛知県弁護士会の紛争解決センターです。外務省の援助決定を受ければ、原則として、ADRを利用するための費用を外務省が負担します(詳細は事前にご確認ください)。また、ADRは、調停とは異なり、合意書を作成しただけでは、執行力はありません(事後的に仲裁手続等に移行することは可能です)が、インターネットテレビ会議システムを利用できる等の違いもあります(こちらも、詳細は事前にご確認ください)。
 
http://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/ha/page22_001072.html
 というわけで、研修には、家事調停官のほか、東京、大阪、沖縄、そして、愛知の弁護士の参加がありました。
 
3.研修では、ハーグ条約案件に係るmediationのあり方、オーストラリアと日本の家族法や文化の違い等を学んだほか、何回かのロールプレイ(role play session)が行われ、更に、オーストラリアと日本の間の二国間調停(co-mediation)の可能性等についても、協議されました。
 講師(Mr.Eberhard Carl & Ms.Sybille Kiesewetter)も、オーストラリア・日本の参加者も、素晴らしい方々ばかりで、活発な議論がなされ、時には、夕食後にロールプレイや議論がなされることも…。文化の違いやあっせんの難しさに改めて気づくこともありましたが、大変勉強になり、本当に貴重な経験となりました。
  

 



⇒ <後記>
     「ハーグ条約の基礎」事務所通信第7号に載せました。
   http://www.hisaya-ave.com/tsushin7-7.html
   PDF版はこちら。
   http://www.hisaya-ave.com/jimushotsushin7/jimushotsushin7.pdf