1.GWも今日で終わりです。今年のGWは日帰りできる範囲でお城をみにいった以外は、まったりと過ごし、懸案だったカーテンの洗濯および交換など普段疎かになっている家事にもいそしみました。明日から日常に戻るのが怖いです(涙)。
2.夫婦財産契約について
(1) 先日、同業者との食事会で、夫婦財産契約が話題にのぼりました。実は、夫婦財産契約については、ここ10年ほど、租税法の基礎について教える授業の最終回でいつもとりあげていて、気になっている(笑)ので、GWですし、少し長めに書いてみます。
夫婦財産契約とか、婚前契約(Prenuptial
Agreement、“プリナップ”)とか、世間一般ではあまり馴染みがないかもしれませんが、もしかしたら、某日本人メジャーリーガーが結婚に際して結んだというニュースを目にされたことがあるかもしれません。また、アメリカのドラマででてきたりもするので、どちらかというとアメリカのお金持ちが結ぶイメージがあるでしょうか。
実は、日本の民法にも夫婦財産契約の規定があります。しかも、意外なことに、民法が定める法定財産制の方が、夫婦財産契約がない場合の「補充的なもの」(『新注釈民法(17)』)として位置づけられています(民法755条参照)。そして、このような位置づけは、妻が無能力とされ夫が自己の財産とともに妻の財産についても管理権を持っていた明治民法以来のもの(明治民法793条参照)なのです。
ちなみに、現行民法は、法定財産制について、同762条1項が「夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。」と規定し、夫婦別産制を採用しています。
(2) 我が国の夫婦財産契約の特徴は、その締結時期を婚姻届出前に限定しており(民法755条)、しかも、婚姻届出後の変更が原則として認められていないこと(同758条)、また、対抗要件として登記が要求されていること(同756条)でしょうか。登記?と思われる方もいるかもしれませんが、「外国法人の登記及び夫婦財産契約の登記に関する法律」や「夫婦財産契約登記規則」というのがあって、夫婦財産契約登記簿というものが存在します。
もっとも、民法が定める夫婦財産契約の規定は極めて簡素であり、どのような内容の合意が可能で、どのような効果が生ずるかが明確とはいえず、夫婦財産契約はその創設以来利用されることが“稀”といっていいレベルです。内田貴先生は、「もともとヨーロッパからの輸入品で…日本では、そもそもそのような習慣がなかったのと手続きの面倒さもあって、ほとんど利用されていない。」(『民法Ⅳ』)としています。前掲新注釈民法によれば、明治民法下の1898年(明示31年)から1945年(昭和20年)の48年間の夫婦財産契約の登記件数が368件、現行民法下にいたっては、1946年(昭和21年)から2016年(平成28年)までの登記件数でも246件です。さらに、法務省の「登記統計」で令和に入ってからの登記件数を調べてみると、令和元年18件、令和2年22件、令和3年21件、令和4年39件、令和5年23件、令和6年19件となっていました。
(3) それでは、登記された夫婦財産契約は、どのような内容なのでしょうか。『夫婦財産契約の理論と実務』(山田俊一著)には、登記された夫婦財産契約について調査された結果が記載されていて、大変、興味深いです。
詳しくは同書をご覧いただければと思いますが、戦後の夫婦財産契約122例について調べたところ、まず、財産制の選択については、婚姻前から有する財産を特有財産と明記する例(法定財産制と同様)は73例あり、他方、婚姻後に夫婦のそれぞれの労働や特有財産の果実を原資として新たに取得する財産について、取得した各人の特有財産とする例(こちらも法定財産制と同様にみえます)が36例、夫婦の共有財産とする例が38例、取得した者の名義を問わずにいずれか一方の財産とする例が6例(妻5例、夫1例)などと紹介されています。また、共有財産の持ち分について定める例は、15例(いずれも持ち分50%)、離婚に際して、財産の帰属や離婚後の扶養などを約定するものは21例、相続に関する条項は17例(再婚カップルが多い)。そのほか、婚姻費用の負担、債務の負担、準拠法、裁判管轄、契約変更などの条項が紹介されています。
このうち、離婚に関するものについては、同書の冒頭で紹介されている「財産分与額10億円事件」(東地判平成15.9.26判例集未登載)が、婚姻前に作成された「誓約書」について、その成立を認めた上で、「将来、離婚という身分関係を金員の支払によって決するものと解されるから、公序良俗に反し、無効と解すべきである。」と判示していることを勘案すると、その内容いかんによっては、無効と判断される可能性があることに留意が必要とされています。また、相続に関するものについても、相続契約は認められないとするのが通説とされていることに留意が必要とされています。このように、我が国の夫婦財産契約は、どのような内容の合意が可能で、どのような効果が生ずるかが明確とは言いがたい状況です。
(4) しかも、法定財産制と異なる内容の夫婦財産契約を締結しても、その効力は限定的と思わざるを得ない判例(東京地判昭63.5.16判時1281・87、控訴審は東高判平成2.12.12税資181・867、上告審最判3.12.3税資187・231)があります。この事案において、X(弁護士)は、夫婦財産契約を締結して、Xの得た収入の2分の1を自らの所得とし、残りの2分の1を妻の所得として確定申告したところ、処分行政庁がその収入の全てをXのものとする処分をしたため、その取消を求めて出訴しました。というのも、Xが締結した夫婦財産契約には、「夫及び妻がその婚姻届出の日以後に得る財産は、……夫及び妻の共有持分を2分の1とする共有財産とする。」という条項があり、Xは、この条項について、夫又は妻の一方が得る所得そのものが原始的に夫婦の共有に属することを意図したものであって、私的自治の原則により、当事者の意図したとおりの効果が発生せしめられるべきであり、かつ、これが登記されていることにより、国及び第三者に対抗しうるものであると主張したのです(Xの主張が認められると、いわゆる二分二乗制度が採用されたのと同等の効果を得ることができます)。第一審は、「ある収入が誰に帰属するかという問題は、単に夫及び妻の合意のみによって決定されるものではなく…略…ある収入が所得税法上誰の所得に属するかは、このように、当該収入に係る権利が発生した段階において、その権利が相手方との関係で誰に帰属するかということによって決定されるものというべきであるから、夫又は妻の一方が得る所得そのものを原始的に夫及び妻の共有とする夫婦間の合意はその意図した効果を生ずることができないものというべきである。なお、このように、夫婦間の右合意がその意図した効果を生じないものである以上、夫婦財産契約が登記されているかどうかによって右結論が左右されるものでないことは明らかである。」と判示して、Xの請求をしりぞけました。控訴審も、「ある収入が所得税法上誰の所得に属すかは、当該収入に係る権利が発生した段階において、その権利が実体法上相手方との関係で誰に帰属するかということによって決定されるものというべきであり、所得税法は課税単位を個人とし、その者の稼得した所得について所得税を課することとしているのである。X主張の夫婦財産契約がこれからの原則を変更する効果を有するものでないことは明らかであり、Xが右契約によって夫又は妻が得る所得税法上の所得までも原始的に夫又は妻の共有に属することを意図したとしても、その効果が生じないことはいうまでもない。」と判示して控訴を棄却しています。まあ、現行所得税法は個人単位主義を採用しているから当然かなとも思える判示ではありますが、その判示するように、Xが得た収入はXに一旦帰属した後に夫婦財産契約に基づき妻に分割されたとなると、贈与税が課され得るという指摘もあります(岩崎政明『ハイポ・セティカル・スタディ租税法』)。そうすると、ますます、夫婦財産契約を締結する意義に疑問が生じますね。
なお、夫婦財産契約についてではないのですが、上記判例は、課税単位について争われた最大判S36.9.6民集15・8・2047とあわせて理解したいところです。この事案は昭和32年の所得税確定申告に関するものなのでかなり古いのですが、Xが(夫婦財産契約は締結されていないものの)収入の2分の1を自らの所得とし、残りの2分の1は専業主婦である妻の家事労働等の協力により得られたから妻の所得として確定申告したところ、処分行政庁がその収入の全てをXのものとする処分をしたため、処分行政庁の認定は所得税法の解釈として形式上正当であるとしても、憲法24条、30条に違反するとして出訴したという事案です。最高裁は、「民法には、別に財産分与請求権、相続権ないし扶養請求権等の権利が規定されており、右夫婦相互の協力、寄与に対しては、これらの権利を行使することにより、結局において夫婦間に実質上の不平等が生じないよう立法上の配慮がなされているということができる」などとして、「本件に適用された所得税法が、生計を一にする夫婦の所得の計算について、民法762条1項によるいわゆる別産主義に依拠しているものであるとしても、同条項が憲法24条に違反するものといえない」と判示しました。この判示については、「別産制上は、妻が専業主婦の場合、いかに内助の功があっても、自己の財産形成が行われず、実質的な夫婦の平等は得られない。しかし、このような妻の実質的な不利益については、婚姻が円満に継続する限り、夫婦間の財産の帰属の問題は生ぜず、婚姻解消の際に問題となるのである。そこで、離婚の場合には、夫婦の協力により得た財産は財産分与請求権(民法768条)あるいは死別の場合の配偶者相続権(民法890条)の行使により解決すればよい」と説明されています(遠藤みち『両性の平等をめぐる家族法・税・社会保障―戦後70年の軌跡を踏まえて』)。長くなってしまうので、ここまでにしますが、民法の親族法も相続法も、明治時代に近代国家の仲間入りをするために外国の法制度を参考に急いで立法され、しかも、戦後、個人の尊厳と男女の本質的平等を基礎とする日本国憲法の下、大きく改められ、また、租税法についても、シャウプ勧告を受けて、たとえば、所得税法では世帯単位主義から個人単位主義に変更されるなど、激動の時代を経ているのであり、民法の諸制度相互において、あるいは、民法と租税法との間において、統一的に把握できるのか、一生懸命に考えても、頭が痛くなるところです。たとえば、明治民法には規定がなかった現行民法の財産分与制度について、民法の法定財産制である別産制のもと、どうして、離婚時に専業主婦であった妻が原則として2分の1の財産分与を請求できるのでしょうか(GHQは夫婦財産2分論を主張したそうですが明文化されず、でも、少なくとも私が実務に就いたときにはそれが実務であったところ、今般、令和6年民法改正(令和8年4月1日施行)で、財産分与について、「婚姻中の財産の取得又は維持についての各当事者の寄与の程度は、その程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする。」(民法768条3項)という文言が加わりました)。潜在的共有制論では限界があるとの指摘もありますね。さらには、なぜ、財産分与に際して、分与者に譲渡所得税がかかるのでしょうか。内田貴先生は、「共有物の分割には譲渡所得税は課せられないから、少なくとも清算部分については課税は不当との議論は可能であろう。」(『民法Ⅳ』)としています。話がそれてしまいました。
(5) 最後に、夫婦財産契約の準拠法について。「夫婦財産契約を締結しうるか否か、締結できるとした場合の締結時期、内容および効力の問題、さらには契約変更の可否・その方法等の問題は、すべて夫婦財産制の準拠法による。」(『注釈国際私法第2巻』)とされるところ、夫婦財産制について定める法の適用に関する通則法26条は、同条1項で、前条、すなわち、婚姻の効力について属人法主義を定める25条を準用しているものの、同条2項は「前項の規定にかかわらず、夫婦が、その署名した書面で日付を記載したものにより、次に掲げる法のうちいずれの法によるべきかを定めたときは、夫婦財産制は、その法による。この場合において、その定めは、将来に向かってのみその効力を生ずる。」と規定し、量的制限の付された当事者自治を認めています(ちなみに、「次に掲げる法」は、一号が夫婦の一方が国籍を有する国の法、二号が夫婦の一方の常居所地法、三号が不動産に関する夫婦財産制については、その不動産の所在地法」)。
要するに、夫婦財産制は身分法と財産法が交錯する要域ですが、国際的には当事者自治を認める立法例が増えているところ、26条2項により、選択肢は限定されているものの準拠法を選択することができるということです。
3. もうひとつ…。
メ~テレ(名古屋テレビ放送株式会社)さんより、相続放棄についての取材を受け、2026年4月19日付のオンラインニュース「権利や借金など受け継がない『相続放棄』“熟慮期間経過後”と思われても認めてもらえる可能性が」として配信されましたので、ご報告しておきます(記事保持期間は13カ月)。














