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2026年8月31日月曜日

租税訴訟学会の令和8年度研修・研究大会における宇賀克也名誉教授の講演

 

1. 今月(8月)は、千葉豪雨に続いて、富山、石川、福井でも豪雨が発生しました。被災された地域の方々、被害者の方々に、心よりお見舞い申し上げます。

2. 一昨日(2026年8月29日)、租税訴訟学会の令和8年度研修・研究大会における、元最高裁判所判事の宇賀克也名誉教授の講演を、オンラインで拝聴する機会がありました。
 宇賀克也名誉教授は、最高裁判所判事として、このブログでもとりあげたことのあるマンション評価事件上告審判決(最判令和4年4月19日民集76巻4号411頁)にも関与されており、また、5月に出版された『管見最高裁判所』も話題になっていたので、ご講演をとても楽しみにしておりました。

(1)   第1部は、「最高裁で考えたこと(その1) 最高裁で審理した行政事件」と題され、宇賀名誉教授が、最高裁判事として関与された行政事件、租税関連では、マンション評価事件のほか、タキゲン事件(最判令和2年3月24日集民263号63頁)などについて、事案の概要や判決文の紹介を中心に進みました。また、「小法廷の壁」を超えられなかった例として、反対意見を書かれた法人税青色申告承認取消事件(最判令和6年5月7日判タ1523号66頁)などをあげられ、立法論として、小法廷で、2名以上または1名でも、大法廷回付に賛成すれば、これを可能としてもよいのではないかという提案をされていました。

(2)  第2部は、「行政における適正手続保障」と題され、まず、平成6年10月に施行された行政手続法(平成5年法律第88号)が租税の賦課徴収手続を全面的に適用除外にすることとなった経緯に触れられ、その後に、法人税青色申告承認取消事件について掘り下げて説明してくださいました。
 前者については、行政手続法の要綱案を作成した第3次行革審公正・透明な行政手続部会において、当時の大蔵省が、事務次官経験者
2名の部会メンバーを通じて、適用を除外するよう強硬に主張し、これに対し、何事においても筋を通される角田禮次郎部会長(内閣法制局長官も務めた元最高裁判所判事)と塩野宏部会長代理が租税の賦課徴収手続のみ適用除外にする合理的理由はないとして頑とこれを受け入れず、最終的に、高度な政策的判断として、行政手続法本体には、租税の賦課徴収手続を全面的に適用除外する規定は設けないが、大蔵省がどうしても適用除外にしたいのであれば、整備法の制定過程で、立案当局、内閣法制局を説得する理由を考えるべきだという解決がはかられたのだという裏話を披露されました。このような解決がはかられつつも、答申には、「特定の行政分野について独自の手続体系が形成されるもの」については、「個別法で、行政運営の公正の確保と透明性の向上を図る観点から必要に応じて規定の見直しを行った上で、行政手続法の適用除外措置を講ずることが適当」という文言が入ったそうです。
 後者の法人税青色申告承認取消事件については、多数意見は「このことは、最高裁昭和61年(行ツ)第11号平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁(筆者注:成田新法事件)の趣旨に徴して明らかである」と判示するのみで、ほとんど全く理由を述べていないに等しい、と指摘され、その結果、自らの反対意見は、原審の判断への批判となったのだと説明されました。そして、原審が適用除外を認める理由は、いずれも、合理的理由たり得ないと指摘され、たとえば、国税不服審判所の審査請求があるから事前手続はおよそ不要ということにはならないこと、青色申告承認取消処分が大量反復的に行われるという理解は、我が国の実際の税務行政の姿から乖離していること、聴聞に相当する手続は、地方自治体のそれをみてもだいたい1回で終わるなど、迅速性の要請に照らして無理を生じさせるとまでは思えないこと、むしろ、我が国の税務行政の過小評価になることなどをあげておらました。また、成田新法事件は、新東京国際空港の開港を実力で阻止することを試みる集団が設置した工作物使用禁止命令に係る事前手続の要否が問題になった事案で、青色申告承認取消が問題となった本件とは全く事案を異にするともおっしゃっていました。
 宇賀名誉教授は、更に、同事件においては「上告理由のうち憲法31条違反をいう部分」のみが上告受理されており、その余は、これに先立つ最決令和6年3月27日で、「裁判官宇賀克也の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する」として、不受理決定となった経緯について、説明されました。この点、宇賀名誉教授が最高裁判事に就任した当時、多数決で不受理決定となった場合、上告不受理決定に反対する判事がいても、「全員一致で」と記載される運用となっていたところ、これを変更するようかけあって、2021年5月か6月頃から、反対意見がある場合にその旨記載されるようになったのだということです(もっとも、反対意見を書くことはできない運用を変更することはできなかったそうです。)
 ということで、宇賀名誉教授は、本件において、上告不受理決定に反対した理由、すなわち、本件処分が理由付記の不備により違法であるかという争点についても上告受理決定すべきであると考える理由について、説明してくださいました。宇賀名誉教授は、青色申告に関するこれまでの判例の蓄積や、最判昭和60年4月25日民集39・3・350、建築士の懲戒処分に関する最判平成23年6月7日民集65・4・2,081などについて触れられ、青色申告承認取消については、事務運営指針があり、本件は、事務運営指針「4」記載の「2事業年度連続してその提出期限内に法第74条第1項の規定による申告書の提出がない場合」にあたるところ、事務運営指針「5」では、「4に該当する場合においても、役員その他相当の権限を有する地位に就いている者が知り得なかったこともやむを得ないと認められるなどその事実の発生について特別な事情があり、かつ、再発防止のための監査体制を強化する等今後の適正な記帳及び申告が期待できるなど、取消しをしないことが相当と認められるもの」には「所轄国税局長と協議の上その事案に応じた処理を行うものとする」とされているのであるから、これにあたらないという理由も付記すべきである、本件ではこれが付記されていなかったのであるから、本件処分が理由付記の不備により違法であるかという争点について不受理決定とすることに反対した、とおっしゃっていました。
 また、質疑応答では、青色申告承認取消は条文上「できる」となっていて裁量行為にあたると考えられるところ、裁量行為の判断過程審査については、学説が、従来の社会通念審査のみならず判断過程審査を行うべきであると主張してきた結果、裁判所でも徐々に取り入れられている、しかし、勿論、租税行政においては裁量のない羈束行為も多く、その場合、こういった手法を用いることはできない、と回答されていました。

(3)  なお、質疑応答においては、マンション評価事件上告審判決が「租税法上の一般原則としての平等原則は、租税法の適用に関し、同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求するものと解される。」と判示したことについて、①憲法14条には言及されていないが、「租税法上の一般原則としての平等原則」というのは、租税法に内在する条理のようなものか?②行政法ではなく、「租税法上の」としているのは、租税法に固有な租税法律主義などへの考慮もこめられているのか?という質問もありました。
 これに対し、宇賀名誉教授は、①行政法上の一般原則には、比例原則や平等原則があるが、比例原則は一般的に憲法13条、平等原則は憲法14条から導くことができるところ、憲法上の原義を排除するものではない。あえて憲法に言及しなくても、憲法から導かれることを前提とした判示である、②行政法上の一般原則と言っても、本件では租税法律主義の適用はあるので問題ないが、租税法については、憲法で租税法律主義が明記されており、これが問題になることもあるので、そのようなことを念頭においてああいう表現になった、と回答されていました。
 ここは個人的に関心があるところだったので、大変興味深く拝聴しました。というのも、同判決の最高裁判例解説(判解)では、「ここにいう『租税法上の一般原則としての平等原則』は行政法の一般原則…の1つとされる平等原則と同義であろう。本件においては、立法の内容ではなく法令の適用における公平…が問題となっており、憲法論に立ち入る必要がないことから、本判決は、法律レベルの平等原則を問題としているものと思われる。」と記載されており、その意味するところが、必ずしも、判然としないからです。昔、習ったところによれば、憲法14条1項は「法の下に」と規定していることから法適用の平等は当然含まれるけれども法内容の平等も含まれるのか、という古い論点があったくらいなのに、なぜ、「法令の適用における公平…が問題」となっていると、「憲法論に立ち入る必要がない」のでしょうか。本判決は、憲法論に立ち入らなかった結果、特定の者のみ評価通達による金額を上回る課税処分は、たとえ、時価を上回らなくても、合理的な理由がない限り「上記平等原則に違反するものとして違法」と判示します。むしろ、憲法論にもちこみ「違憲」とするなら、憲法97条1項「この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。」があるのでスッキリしますが、「平等原則に違反するものとして違法」というと、一般原則を「法」(条理)として用いたようにみえてしまいます。確かに、行政法の法源として一般原則(条理)が認められるとしても法律による行政の原理との抵触が問題となる場合があり、特に、租税法においては、憲法84条が規定する租税法律主義との間で一定の緊張関係が生ずるようにも思われます。もっとも、金子宏先生は、「特定の土地についてのみ近隣の同一条件の土地に比して高く評価することは、たとえ評価額が時価の範囲内であるとしても、平等取扱原則に反して違法であると解すべきであろう」(『租税法』)と、「違法」としていますね。なお、脇谷弁護士は、本判決が憲法判断したとは考えられない理由として「本判決は、憲法違反を理由とすることが許されない上告受理申立理由についての判断だからである。」と指摘した上で、「条理に基づく平等原則の適用の問題と位置づけたものとすると、法執行における異なる取扱いも条理に基づく平等原則に違反しない限り許されるということになりかねないのではないか。」などとも指摘され、結論として、「先例としての価値はない」などと厳しく批判しています(税法学593号247~260頁)。
 ところで、判解は、脚注で宇賀名誉教授の『行政法概説Ⅰ(第8版)』67~71頁を参照引用しており、同67頁には、「行政機関が合理的理由なく国民を不平等に取り扱ってはならないことは当然であり、平等原則は日本国憲法14条により基礎づけることも可能であるが…略…法律による行政の原理と平等原則とが抵触する場合にいずれを優先させるかは困難な解釈問題である。」とし、「この点が問題になった」裁判例として、スコッチライト事件(東高判昭和44年9月30日高民集22巻5号682頁)があげられています。宇賀名誉教授は、租税判例百選第3版から第6版において、スコッチライト事件を担当されていますね。そして、「他のすべての税務行政庁が正しい法解釈のもとに課税しているにもかかわらず、1つの税務行政庁が誤った法解釈のもとに課税した場合には、…略…租税法律主義と租税平等原則の関係についての検討というという問題は生じないし、あえて租税平等原則違反を持ち出すまでもない」とし、「特定の課税処分が、法律に適合しているにもかかわらず、そうでない多数の課税処分との関係で、違法とされることがありうるのかという問題に限定して解説することとしたい。本件判決も…このカテゴリーの問題について判示したことになる。…略…筆者も租税法律主義と租税平等原則が拮抗関係に立った場合、後者が優先されるケースが皆無とまでは考えない。…略…多数の税務行政庁が違法に過大な課税処分をした場合、適法な課税処分を租税平等原則違反として違法とすべきではなく、過大に課税した分を還付することによって違法状態と不平等状態の是正を図るべきであろう。」等と記載されています。このような場面では、法律に適合する特定の課税処分を受けた納税者が、一般原則たる平等原則や信義則により救済される場面となるのではないでしょうか。
 マンション評価事件はどうでしょうか。
 判解は、「本判決は、『特別の事情』という概念を用いず、…略…①課税庁の主張額が租税法22条に違反しないか、②通達評価額によらないことが租税法上の一般原則としての平等原則に違反しないかをそれぞれ検討すべきものとした。上記、①②は性質の異なる別個の問題であり、これらを区別せずに『特別の事情』の有無の問題として処理することには無理がある。」としています。しかし、このように、①相続税法22条違反と②一般原則違反を別個の違法事由としたことにより、たとえ通達評価額と時価との乖離が著しくとも、通達評価額よらない課税が時価を上回らない限り違法事由とはならず、あとは、「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」があれば、特定の納税者にのみ、通達評価額によらない課税処分をしても、平等原則に違反せず、違法とはならないとなってしまいます。結局、宇賀名誉教授も講演でおっしゃっていたように、これまで、課税庁が総則六項に基づき「特別の事情」がある場合には通達評価額によらない課税処分を行ってきた課税実務のまま、ということになってしまうのではないでしょうか。判解は、「時価に係る事実の(平等な)認定であり、いわゆる租税回避行為の否認ではないと解される。」としますが、少なくとも、このような租税法の一般原則たる平等原則の適用は、租税法律主義からみて問題を含む場面のようにみえ、しかも、納税者を救済する場面でもないと思われます。この点、佐藤英明教授は、最高裁には、「いわば、租税回避行為を行う当事者が、租税回避行為であることを認識していれば、それを否認しても当事者の予測可能性を害することはなく、租税法律主義に違反しないとする理解」があると指摘されます(「最高裁判例に見る租税法規の解釈手法」山元敬三=中川丈久編『法解釈の方法論-その諸相と展望』)。この理解は、権利濫用という一般原則が用いられたようにみえなくもない外国税額控除上告審判決(最判平成17年12月19日民集59巻10号2964頁)や132条の2の不当性要件において権利濫用基準が用いられたヤフー事件上告審判決(最判平成28年2月29日民集70巻2号242頁)などの判解にでてきます。そして、マンション評価事件上告審判決は、「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」の検討において、「租税負担の軽減をも意図してこれを行った」と認定しており、判解は、「このような意図すら有しない納税者が、たまたま生じた租税負担の軽減の結果、当該財産の価額を通達評価額を上回る価額によるものとされることを予測するのは困難といえるのであり、上記意図は、納税者の予測可能性を確保する観点から要求されているものと解される。」と解説しています。この点、浅妻章如教授は、「本判決が明言を避けたことを弁えつつ、租税負担軽減の『意図』が反公平事情の必要条件であるという方向につき、以下のように評者は懐疑的である。第一に、『公平』という語は分配的正義の文脈で用いられる語であり、状態に着目する。…略…第二に、従来、租税負担軽減取引を選ぶ自由は尊重されてきた。」(浅妻章如「判批」民商法雑誌159巻2号)等と指摘されています。

2026年8月8日土曜日

法人税法132条の2の適用の可否が争われた2つの事案(大地判令和8年5月21日と東地判令和8年6月18日)

1.本年(2026年)7月28日、熊本県を震源とする最大震度7の大きな地震が発生しました。その後も、余震と厳しい暑さが続いています。被災された地域の方々、被害者の方々に、心よりお見舞い申し上げます。

 2. 法人税法132条の2の適用の可否が争われた2つの事案(大地判令和8年5月21日と東地判令和8年6月18日)

(1) 事業の承継先と欠損金の引継ぎ先が分かれる完全支配関係の合併について法人税法132条の2の適用の可否が争われた2つの事案で、同条の適用を認める大地判令和8年5月21日と、同条の適用を否定する東地判令和8年6月18日という対照的な判断がでました。

(2) 法人税法132条の2については、ヤフー事件について、私のブログでユニバーサル事件(こちらは法人税法132条の事案です)についてとりあげた際に触れたことがあったと思います。
 132条、132条の2の規定においては、どちらも、「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるとき」には、「税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる」とされています(前者は、同族会社等の行為計算否認規定、後者は、組織再編成に係る行為計算否認規定とよばれています。)。つまり、単に法人税の負担を減少させるのは「節税」ですから問題がないはずですが、「不当に」法人税の負担を減少させたと判断されると、税務署長に「伝家の宝刀」ともよばれる極めて強力な否認権限を認めることになるのです。この点、誰しも法が認める範囲内で税金を減らしたいと思うのは当然であり、それ自体は経済的に合理的で、責められることではないはずですが、どうしたら、「不当に」税金を減らしたものと判断されて否認されることになるのでしょうか。「不当に」というのは明らかに評価を含むわけですから(いくら減らしたら不当といわれるかはっきりしない)、そもそも、このような不確定概念をもって課税要件とすることについて、憲法84条の定める租税法律主義の一内容である課税要件明確主義に反しないかが問題となるところです。しかし、金子宏教授は、「租税行政庁に自由裁量を認めるものではな」く、裁判所の審査に服することなどから、「その必要性と合理性が認められる限り…略…課税要件明確主義に反するものではない」としています。
 このように、究極的には、「不当」かという要件(不当性要件)の有無は、裁判所が判断することになるわけですが、不当性要件は、要件事実論におけるいわゆる規範的要件であり、立法時点において事後審査する裁判所の法規拘束がある意味緩和される一方、結局、裁判所は、積み重ねられた事実を総合的に判断して規範的に評価するために、自ら判断枠組みを示す必要に迫られることが多いといえるのではないでしょうか。

(3) それでは、ヤフー事件上告審判決(最判平成28年2月29日民集70巻2号242頁)は、「不当」性要件該当性の判断枠組みについて、どのように示したのでしょうか。同判決は、「同条にいう『法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの』とは,法人の行為又は計算が組織再編成に関する税制(以下『組織再編税制』という。)に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべきであり、その濫用の有無の判断に当たっては、①当該法人の行為又は計算が,通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮した上で、当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって,組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当である。」と判示しました(制度濫用基準と称されています。)。
 実は、ヤフー事件上告審判決の最高裁判所判例解説を執筆した最高裁判所調査官の一人が、今回、大地判令和8年5月21日の裁判長をつとめた徳地淳判事です。ヤフー事件の最高裁判所判例解説では、上記のとおり、「事情」や「観点」がでてくる複雑な判断枠組みである制度濫用基準について解説されており、経済合理性基準をとる132条の枝番である132条の2について、「経済合理性基準をそのまま用いることは、組織再編成という事柄の性質上、必ずしも適切ではない」としつつ、①、②の2つの要素について、「特に重要な考慮事情」とし、その実質において経済合理性基準に係る通説的見解の考え方を取り込んだものと評価できるなどとしています。

(4) 132条の2については、ヤフー事件(及びIDCF事件)の後、TPR事件(東地判令和元年6月27日訟月66巻5号521頁が原告納税者の請求棄却、東高判令和元年12月11日訟月66巻5号593頁も控訴棄却、最決令和3年1月15日税資271号順号13508で上告不受理・棄却により確定)、PGM事件(東地判令和6年9月27日金判1715号9頁が原告納税者の請求認容、東高判令和7年7月23日判例秘書L08020497は控訴棄却)に続いて、今般、大地判令和8年5月21日と東地判令和8年6月18日がでたことになります。
 この2つの判決の比較については、佐藤修二教授らが執筆されたT&Amaster1131号(2026年7月20日)4頁以下の記事が大変参考になります。
 ちなみに、ヤフー事件は、5年超の特定資本関係がない適格合併の事案でしたが、その後の事例は、いずれも特定資本関係5年超の適格合併の事案であることから、「欠損金の引継ぎを認める法57条2項の趣旨・目的と、その逸脱の有無が、より直接的に問われる」と指摘されています。

(5) 大地判令和8年5月21日の判決文については、柳谷憲司税理士が情報公開請求の上、インターネット上で公開されているので、ざっと拝見しました。なお、同判決については、日経新聞が、某メガバンクがスキームを助言し、訴訟にも補助参加したと報道しています(SNSにおいて、元裁判官による「銀行が助言通りしたのに、『脱税』と認定される」とのメッセージも目にしましたが、「脱税」とまでいうのは言い過ぎなように思います。)。
 同判決の争点は、法人税法37条1項の寄付金該当性などもありますが、「本件合併による本件未処理欠損金額の引継ぎについて、法人税法132条の2の適用による否認をすることができるか否か」という争点に関する判断において、ヤフー事件(及びIDCF事件)を参照引用しつつ、不当性要件判断枠組について、制度濫用基準を採用しています。その上で、「支配関係5年超要件を満たしている適格合併に法人税法132条の2を適用することができるか否かについて」を検討し、「法人税法132条の2の文言や趣旨を踏まえれば、支配関係5年超要件を満たすため同法57条3項が適用されない場合においても、個別事案の具体的事情の下において、同条2項の規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税法の負担を減少させていると認められる場合には、税務署長は、同法132条の2を適用し、未処理欠損金の引継ぎを否認することができる」としました。そして、「例えば、①多額の未処理欠損金額を有する子会社をいったん親会社に適格合併し、その後直ちに当該子会社の事業を分割して切り出し、未処理欠損金額だけを親会社に残すような事例…②上記のような子会社の事業を新会社に分割して切り出し、未処理欠損金額だけが残された旧会社を親会社に適格合併するような事例…については、子会社の未処理欠損金額を事業から切り離して親会社に付け替えるための組織再編成であり、子会社の事業が親会社に移転して継続するものとはいえないから、法人税法57条2項の趣旨及び目的に反することになるものと解される」と判示します。そして、あてはめをして、「以上を総合すると、法人税法57条2項の適格合併における未処理欠損金額の引継ぎは、事業年度間の所得金額と損失金額を平準化するという欠損金の繰越控除制度の趣旨及び目的に照らし、被合併法人の事業が適格合併による合併法人に移転し、合併法人において引き続き営まれること(合併による事業の移転及び継続)を想定しているものと解されるところ、本件組織再編成は、形式的には同項の未処理欠損金額御引継ぎの要件を満たすものの、同項において想定されている事業の移転及び継続という実質を備えているとはいえず、実態とは乖離した不自然なものと言うべきであり、また、本件組織再編成は、本件事業の利益では控除しきれない本件未処理欠損金額を本件事業から切り離し、これを原告に付け替えることにより、現行の營負担を減少させることを主たる目的とするものであって、税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在したとはいえない。そうすると、本件組織再編成は、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、法人税法57条2項を租税回避の手段としてその適用を受けるものであると認められる。したがって、本件組織再編成は、組織再編成に係る法人税法57条2項を租税回避の手段として濫用することにより法人税法の負担を減少させるものといえ、同法132条の2にいう『法人税税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの』に当たる。」と結論づけました。

(6) 東地判令和8年6月18日の判決文は、残念ながら、まだ入手できていません(私が使っている判例データベースにはまだ登載されていません)。
 ただ、上述のT&A masterの記事において佐藤修二教授が「事業と欠損金を結びつけ、完全支配関係の内部での欠損金の付け替えを問題視する根拠はどこにあるのでしょうか」と指摘し、安田雄飛弁護士が「企業グループ一体性にかんがみれば、たとえば、100%の資本関係で結ばれた企業グループの中で、グループ外から欠損金を有する法人を買ってきたというような『欠損金の売買』の事例はともかく、グループ内で生じた欠損金を、そのグループ内で使用することには、問題はないように思うのです。」と述べていることに、強い関心を覚えてます。
 そもそも、冒頭にも触れましたが、不当性要件の判断においては、積み重ねられた事実を総合的に判断して規範的に評価するために、裁判官の価値観が反映されやすいとも思えます。
 東地判令和8年6月18日は、事案が異なるとはいえ、大地判令和8年5月21日と異なる判断をしているようであり、入手できたらもう少しきちんと検討したいところです。

 3. 最後に…

 メ~テレ(名古屋テレビ放送株式会社)さんより取材を受け、以下の2つのオンラインニュースが配信されました。
①2026年5月23日付「金銭で解決する『遺留分侵害額請求』様々な感情が交錯 財産調査に手間取り時効期間を過ぎることも」(記事保持期間は13カ月)。
②2026年6月28日付「土地の境界(筆界) 特定する必要はなぜ出てくる? 歴史をひもとくと明らかに」(記事保持期間は13カ月)。


2026年1月12日月曜日

令和8年もよろしくお願いいたします。

 

1.令和8年(2026年)もよろしくお願い致します。

 

今年は、名古屋で午年に行くべき神社をネットで調べて、
馬を大切にした徳川家康公をお祀りする名古屋東照宮にお参りしました。


2.昨年になりますが、メ~テレ(名古屋テレビ放送株式会社)さんより、公正証書遺言についての取材を受け、2025年12月28日付のオンラインニュース「公正証書と安心していると思わぬ落とし穴も 遺言の種類で優劣関係は無し 日付の新しいものが優先」として配信されました(記事保持期間は13カ月)。

 3. 一昨々日(2026年1月9日)、租税訴訟学会名古屋支部で、「社会通念の意義と役割~租税法律主義からの観点も踏まえて~」というテーマにて研修講師をつとめました。研修の内容は、昨年11月、日本税法学会中部地区で発表したものに、令和以降の裁判例の検討を加えるなど、少しだけブラッシュアップしたものです。これをさらに整理して論文とする予定なので、また、形になりましたら、ご報告致します。

2023年8月11日金曜日

暑い夏 租税回避について思うこと(総則6項事件を契機として) ~その2~

1.総則6項事件と「租税回避」について(続き)

(1) 昨日のブログは、総則6項事件において、「合理的理由」すなわち「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」というきわめて規範的な「事情」があれば、「租税法上の一般原則」である「平等原則」の例外が認められることから、その事情の中に、租税回避を理由とするものがあれば、結局、法的根拠なき租税回避行為の否認が認められる結果となってしまっているのではないか…という杞憂(笑)でしめくくりました。
 それでは、本判決では、何が「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」として認められたのでしょうか。
 まず、「本件各通達評価額と本件各鑑定評価額」との間の「大きなかい離」をもって「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」があるということはできないと判断されました。つまり、単に、評価通達による申告では時価と大きなかい離が生じてしまうことを理由として、評価通達によらない時価をもって課税庁がする処分は、平等原則違反として、認められないということになります。
 そして、本判決において「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」があるとされたのは、
ⅰ本件購入・借入れにより相続税の負担は著しく軽減されることになったこと
ⅱ本件購入・借入れは「租税負担の軽減をも意図して」行われたこと
が
 本件購入・借入れのような行為をせず、又はすることのできない他の納税者との間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反する
とされたからです。
 ここで疑問に思うのが、ⅰについては、「大きなかい離」があれば、誰が本件購入・借入れをしたとしても、評価通達に基づいて申告すると、相続税の負担が著しく軽減される結果となってしまうのではないかということです(借入金や基礎控除による税負担の軽減は誰にでも認められますので…。)。
 とすると、結局、ⅱの「租税負担の軽減をも意図して」が重要になってくるのではないか…。
 納税する際に、法が許す範囲内で、租税負担を軽減できる方法を選択するのは、本来、自由なはずです。はたして、「租税負担の軽減」の「意図」は、「租税回避の意図」と同じなのでしょうか?

(2) そもそも、 「租税回避」というのは講学上の概念で、法律に定義などはありません。
 「租税負担の軽減」というと、「租税回避」と違って、単なる「節税」にもみえるところ、金子宏教授は、「節税(tax saving)」については、「租税法規が予定しているところに従って税負担の減少を図る行為」とするのに対し、「租税回避(tax avoidance)」については、「租税法規が予定していない異常ないし変則的な法形式を用いて税負担の減少を図る行為である」とします。もっとも、「節税と租税回避の境界は、必ずしも明確ではなく、結局、社会通念によって決めざるを得ない」としているのです。また、租税回避行為の否認については、「租税法律主義のもとでは、法律の根拠がない限り租税回避行為の否認は認められないと解するのが、理論上も実務上も妥当であろう。新しい租税回避の類型が生み出されるごとに、立法府は迅速にこれに対応し、個別の否認規定を設けて問題の解決を図るべきであろう。」(『租税法24版』)とされています。
 清永敬次教授は、もう少しクリアに、「租税回避(tax avoidance, Steuerumgehung)というのは、課税要件の充足を避けることによる租税負担の不当な軽減又は排除をいう。」としつつ、「租税回避というとき、一般にややもすると、租税回避行為は許されない行為であると考えられがちであるが、これを禁止するための規定がない場合には、租税回避があるからといってこれが税法上否認されることはないのであるから、租税回避行為はその限りで税法上承認されている行為に他ならないと考えるべきものである」(『税法新装版』)とおっしゃっています。
 更に、岡村忠生教授は、「租税回避は、課税要件を充足せずに税負担を<軽減する>ことであるとされるが、そのようなことが果たしてありえるのか、税負担は、<軽減された>のではなく、単に最初からその金額だっただけではないのか、と問われたとき、答えはないと思われる。…略…租税回避の研究のためには、まず租税回避が現実に存在することを示さねばならないはずである。しかし、それは、たとえばUFO(空飛ぶ円盤)の存在証明と、何が異なるのだろうか」(「租税回避研究の意義と発展」『租税回避研究の展開と課題』)ともおっしゃっています。
 こうやってみてくると、「租税回避」がどういうものかあまりはっきりしない上に、法的根拠なく否認することはやはり難しいのでは…と思ってしまうのです。

(3) ところで、法人税法132条の2の「不当性要件」について濫用基準を採用したといわれるヤフー事件((最判平28・2・29)の最高裁判例解説において、徳地淳=林史高調査官も、同条の不当性要件の解釈に係るヤフーの主張を採用しがたいとするにあたり、「『租税回避』の概念についても、その意味内容は多義的であり、不当性要件の解釈の決め手となるようなものではなく」等と記しています。
 ところが、同じ最高裁判例解説において、「租税法律主義は、租税の賦課徴収が、法律の根拠に基づき、法律に従って、行われなければならないとする原則であり、私人にとって将来の予測を可能にし、法的安定を確保することを目的とするものである。そうすると、租税法規が適用されるべき事案であること、あるいは、適用されるべき事案でないことが、関係者に明らかな場合であるならば、租税法規を適用し又は適用しないこととしても、租税法律主義違反の問題は生じないと解される」とした上で、ヤフー事件の最高裁判決が採用した濫用基準が濫用の有無の判断にあたり「租税回避の意図」を要求していることから、「租税回避を意図して組織再編税制に係る各規定の趣旨、目的から逸脱する態様でその適用を受け又は免れた場合」には、「その関係者にとって、組織再編税制に係る各規定が適用されるべき事案であること又は適用されるべき事案でないことは明らかというべきである。」から「これを132条の2により否認することは租税法律主義の目的である予測可能性及び法的安定性の確保を害するものではなく、租税法律主義違反の問題を来すものではない」と記しているのです。
 要するに、「租税回避」の概念なんて多義的でよくわかんないよね!と批判しながら、納税者に「租税回避の意図」があれば予測可能性が確保されるから租税法律主義違反の問題なんて生じないんじゃね!といっている?ようにみえるのです…。こわいです…。ヤフー事件は132条の2という個別分野に関する一般的否認規定を適用したもので、租税回避行為の否認に関する事案ではありませんがが…。

(4) そもそも、これは、また日を改めたいですが、租税法律主義のもと、租税法の解釈において、課税庁に有利な一般原理の適用をみだりに認めてよいのでしょうか。
 信義則については、最高裁(最判昭和62.10.30)がとても厳しい条件のもとに適用があることを認めています。「信義誠実の原則なり信頼保護の原則なりが問題となる一つの局面は、行政の違法な活動を信頼して行動した私人を保護するということにある」わけですが(塩野宏『行政法Ⅰ』)、金子宏教授は、「納税者が誤った表示をなした場合に、それに対する行政庁の信頼を保護するために信義則の適用が認められるべきか」について「ごく例外的な場合を除いて認められないと解すべきであろう」とされています。
 外国税額控除事件(最判平成17年12月19日)においても、事案の説明は避けますが、「本件取引に基づいて生じた所得に対する外国法人税を法人税法69条の定める外国税額控除の対象とすることは,外国税額控除制度を濫用するものであり,さらには,税負担の公平を著しく害するものとして許されない」と判示したのに対し、金子宏教授は「限定解釈を行った例であると理解しておきたい」(『租税法24版』)とされています。
 実は、私は同事案はかなり特殊な事例で、裁判所が苦慮しつつ判断を下したものであり、先例性に乏しいのかと思っていました。
 ところが、やはり、ヤフー事件の最高裁判例解説では、同事件の濫用基準は、外国税額控除事件判決の「制度濫用」の評価の基礎とされた内容が「参考にされたものと考えられる」と書いてあるのです。

(5) 総則6項事件について 中里実教授は、「本件は、通常の感覚の持ち主であれば、他の納税者との間に『看過しがたい不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反する』(本判決)という感覚をいだくことがありうるのではないかと思われる事案である。そうであるからこそ、最高裁で納税者が敗訴したのであろう。」(「租税法の難問【第35回】」税務弘報2023・2)とした上で、「もちろん、納税者のような考え方を正当と考える論者も存在するであろうから、その点について批判するつもりはないが、しかし、本件納税者の出訴、敗訴により、実務上、他の納税者が多大な迷惑を被っているという点だけは無視するわけにはいかないであろう。」とまで書いておられます。
 確かに、既に述べたように、「平等原則」とか、「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」とかいう曖昧な基準で、租税回避の否認が認められた結果にみえてしまうのは、とてもこわいことです。本判決を何度読んでも、高齢になったら借入れして不動産投資などすると租税回避と認定される恐れがあるのか(亡くなる何年くらい前に購入していれば。「近い将来発生することが予想される被相続人からの相続」といわれないのか)、相続人としては、相続税の費用を捻出したいこともあるはずけど、本件で一つをすぐに売却したことは「事情」に考慮されているのか…などなど…どこからアウトになるのかが極めてわかりにくいように思います。
 ただ、通常の感覚の持ち主であれば「実質的な租税負担の公平に反する」という点については、確かに…高齢だし…片方は売っちゃったし…なによりも、相続税がゼロになっちゃっているし…とも思う反面、それは、究極的には「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」ではないとされた評価通達と時価の「大きなかい離」によるものであり、実際にも、最高裁判決を受けて、先日、「『タワマン節税』と呼ばれる相続税の軽減策をめぐり、国税庁は30日、新たな算定ルール案を発表した。マンションを相続する場合、相続税の算定根拠となる評価額が時価(市場価格)を大きく下回っていることへの対応で、評価額を階数などを加味した市場価格の6割以上にするのが柱だ。」(令和5年7月1日付朝日新聞)と報道された通り、本来は、その大きなかい離を是正すべく、国税庁がすみやかに評価通達を改正すべきだったのではないか…。利にさとい納税者は改正前には税負担の軽減に成功してしまうわけですが、それを納税者に帰責して否認してよいのか、疑問を禁じ得ません。
 金子宏教授は、1978年初出の著作(「租税法と私法-借用概念及び租税回避について-」)において、「新たな租税回避の類型が生み出された場合に、それに対して否認規定ないし対処規定が設けられると、前述のように、納税者は、自己の行為をそれにアジャストさせ、その適用を避けつつ、その外側の安全地帯において租税回避の試みを繰り返すことが少なくない。これに対処するためにさらに新たな立法がなされ、このような無限のサークルの中で租税法規はますます複雑化することになる。しかし、租税法規の複雑化は、おそらく、現代国家の租税制度の一つの宿命であって、今日のように、税負担が重く、しかも租税がわれわれの経済生活のあらゆる局面と密接な関連を持っている時代においては、税負担に関する法的安定性と予測可能性を重視することが不可欠であり、そして法的安定性と予測可能性を重視する限りは、租税法規の複雑化は避けることができないと思われる。」と書いておられます。