2015年9月14日月曜日

ハーグ条約に関する日豪合同あっせん人研修 ~Mediation-Training for Japanese-Australian family disputes~


1. ハーグ条約に係る研修と外務省の役割

 先週1週間201597日(月)~11日(金))、横浜で行われたハーグ条約に関する研修に参加してきました。
 ハーグ条約国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(The Convention on the Civil Aspects of International Child Abduction)については、以前にも、このブログで触れたことがあります。
http://www.hisaya-avenue.blogspot.jp/2014/11/261119.html
http://www.hisaya-avenue.blogspot.jp/2015/01/blog-post_26.html

 今回行われた研修は、講師ドイツ人オーストラリア人日本人を参加者として、日本・オーストラリア間の家族の紛争(含 ハーグ条約の案件)に係るあっせんについて学ぼうというもの。
 ハーグ条約は、「子の任意の返還を確保し、又は問題の友好的な解決をもたらすこと」(to secure the voluntary return of the child or to bring about an amicable resolution of the issues)を中央当局(ハーグ条約実施法3条で、日本における中央当局は、外務大臣とされています。)の役割の一つとしています(ハーグ条約7c)。
 これを受け、ハーグ条約実施法
9条も、「外務大臣は、…合意により実現するため、これらの者の間の協議あっせんその他の必要な措置をとることができる」と定めています。
 今回の研修も、外務省が関与して行われています。
 



2.話合いによる解決、調停とADR(裁判外紛争解決手続)

 ハーグ条約の返還事案では、子を連れ去った親(Taking parent)と連れ去られた親(Left behind parent)との間で、深刻な対立が予想され得ます。ですが、本来、その解決には双方の協力が必要です。また、ハーグ条約は、ひとまず、子の常居所地国へ返還しましょうという考え方であり、また、子が所在する国の裁判所は、原則として、親権や監護について判断できません。でも、話合いならば、これらも含めた柔軟な解決がはかれます。また、話し合いにより合意した約束の方が、よく守られる傾向にあるといいます。

 日本において、話し合いによる解決として、真っ先に思い浮かぶのは、調停(conciliationかもしれません。
 ハーグ条約に係る子の返還申立事件は、特別の非訟事件とされますが、裁判所は、当事者の同意を得て、いつでも、子の返還申立事件を家事調停に付することができます(実施法114条)。調停では、裁判官と2名の調停委員によって構成される調停者委員会が,当事者双方の意見の調整等を行います。調停の場合,子は常居所地国に帰国するのか否かのみならず,婚姻費用、養育費等の負担や面会交流等についても、話し合うことができます。

 このように裁判所が関与する調停のほかに、裁判所外で紛争に係る協議をあっせんする手続、すなわち、ADR(Alternative Dispute Resolution、裁判外紛争解決手続もあります。
 外務省が委託しているADR機関6つ東京三会(第一東京弁護士会の仲裁センター、第二東京弁護士会の仲裁センター、東京弁護士会の紛争解決センター)、大阪の公益社団法人総合紛争解決センター、沖縄弁護士会の紛争解決センター、そして、私の所属する愛知県弁護士会の紛争解決センターです。外務省の援助決定を受ければ、原則として、ADRを利用するための費用を外務省が負担します(詳細は事前にご確認ください)。また、ADRは、調停とは異なり、合意書を作成しただけでは、執行力はありません(事後的に仲裁手続等に移行することは可能です)が、インターネットテレビ会議システムを利用できる等の違いもあります(こちらも、詳細は事前にご確認ください)。
 
http://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/ha/page22_001072.html
 というわけで、研修には、家事調停官のほか、東京、大阪、沖縄、そして、愛知の弁護士の参加がありました。
 
3.研修では、ハーグ条約案件に係るmediationのあり方、オーストラリアと日本の家族法や文化の違い等を学んだほか、何回かのロールプレイ(role play session)が行われ、更に、オーストラリアと日本の間の二国間調停(co-mediation)の可能性等についても、協議されました。
 講師(Mr.Eberhard Carl & Ms.Sybille Kiesewetter)も、オーストラリア・日本の参加者も、素晴らしい方々ばかりで、活発な議論がなされ、時には、夕食後にロールプレイや議論がなされることも…。文化の違いやあっせんの難しさに改めて気づくこともありましたが、大変勉強になり、本当に貴重な経験となりました。
  

 



⇒ <後記>
     「ハーグ条約の基礎」事務所通信第7号に載せました。
   http://www.hisaya-ave.com/tsushin7-7.html
   PDF版はこちら。
   http://www.hisaya-ave.com/jimushotsushin7/jimushotsushin7.pdf