2024年10月13日日曜日

税関への再調査請求(関税定率法第14条第10号の該当性)

1. 今年の夏の暑さは本当にこたえましたが、10月に入り、ようやく、過ごしやすい気候になってきました。
 先般、税関への再調査請求という少々珍しい事案(関税定率法第14条第10号の該当性を主な争点とする。)の代理人をつとめました。残念ながら請求棄却におわりましたが、ご本人の了解を得て、以下に紹介したいと思います。

2. 事案の概要とXの主張 

(1)  本件は、Y税関が、C国よりXを名宛人として郵送されたAirPods(以下、「本物件」という。)について課税を要するものと判断して、「Customs Declaration」(以下、「本件税関告知書」という。)記載の消費税及び地方消費税(以下、「消費税等」という)○円を決定する本件処分を行ったところ、Xはこれを不服として、Y税関長に対し、本件処分の取り消しを求め、再調査の請求を行ったものである。 

(2) 本物件がC国よりXを名宛人として郵送された経緯は以下の通りである。
 Xは、日本において通っている大学が提携するA国にあるB大学に、約9ヶ月間の予定で留学していた(海外転出届はだしていない。)。
 Xは、留学中の休暇にC国を訪れたところ、C国のDホテルに、Xが日本から持ち出したAir pods(以下、「本件イヤフォン」という)を忘れてしまった。XDホテルに問い合わせると、幸いなことに本件イヤフォンがみつかり、XDホテルに、本件イヤフォンを、留学先であるA国に郵送してもらうよう依頼し、Dホテルはこれを承諾した。
 しかし、A国においては、郵便事業民営化以降、郵便事情が極めて悪く、本件イヤフォンは2回にわたってC国に返送されてしまった(なお、郵送費用については、2回ともXが負担している)。
 そこで、XA国に郵送してもらうことをあきらめ、Dホテルに対し、本件イヤフォンを日本の実家に送るよう、依頼した。その段階で、Dホテルから、「Regrettably, after initially getting your AirPods back from the post office, we encountered an unfortunate mishap, and they were misplaced again. Please accept our deepest apologies for this oversight.」との連絡があった。要するに、Dホテルは、本件イヤフォンがC国から2回目に返送された後、本件イヤフォンを紛失してしまったようである。そして、Dホテルは、Xに対し、「We recognize the inconvenience this causes and are committed to rectifying the situation to the best of our abilities. To ensure we replace your AirPods with the exact same model, could you kindly provide us with the specific model details of your AirPods ? This information will enable us to purchase the correct replacement promptly.」と申し出た。要するに、Dホテルは、本件イヤフォンを紛失した責任を認め、本件イヤフォンと全く同じモデルを、本件イヤフォンの代替物として、Xに対し送付することにより追完すると申し出たのである。そして、XDホテルの申し出を受け入れたため、本件イヤフォンと全く同じモデルである本物件、すなわち、本件イヤフォンの代替物である本物件は、日本のXの実家宛に郵送されることとなったというわけである。

(3) Xが本件処分の取り消しを請求する理由は以下の通り。
 (2)に記載したように、Dホテルは、Xとの合意により、本件イヤフォンをXが指示する場所へ送付する債務を負っていたにもかかわらず、自らの責によって本件イヤフォンを紛失したため、本件イヤフォンの代替物である本物件を送付することにより、追完したのである。
 したがって、本物件は、法的にみて本件イヤフォンの代替物であり、関税定率法第14条第10号がいう、「本邦から輸出された貨物でその輸出の許可の際の性質及び形状が変わっていないもの」に該当することから、同条を適用せずに本物件に消費税等を課す本件処分には法解釈の誤りがあって違法であり、取り消されるべきである。
 また、本件イヤフォンがDホテルにより紛失されることなく日本に送付されていれば関税定率法第14条第10号の規定により消費税が課されなかったことは明らかであるにもかかわらず、XDホテルによる紛失により本件イヤフォンという資産の損失を被り、その上これにより追完を受けた本物件に消費税等が課されるというのは、いかにも結果の妥当性を欠く。
 輸入取引において外国貨物の引き取りに消費税が課されるのは、「それがわが国の国内で消費されるため、国内で製造・販売された物品との間の競争条件を等しくするため」とされる(金子宏『租税法第24版』820頁)。しかるに、本物件は、日本で販売されたものをXが購入し、それを海外に持ち出した本件イヤフォンの法的代替物であり、これに消費税等を課す趣旨は、まったく該当しない。もし、今回のケースに適当な非課税規定が用意されていないのなら、法の不備であるから、本物件に消費税等を課す本件処分は不当であり、本件処分は取り消されるべきである。

 

3.請求棄却の理由の要旨

(1) 関税定率法第14条第10号は、「本邦から輸出された貨物でその輸出の許可の際の性質及び形状が変わっていないもの」を本法に輸入する場合についての免税規定であり、①本邦から輸出された貨物であること、かつ、②その貨物の輸入の際に性質及び形状が変わっていないであること、の二つの要件をすべて満たす必要がある。Xが主張する、関税定率法第14条第10号は、「本邦から輸出された貨物でその輸出の許可の際の性質及び形状が変わっていないもの」に該当するかについては、本邦に再輸入される貨物が本邦から輸出された貨物であって、当該貨物の本邦から輸出する際の性質及び形状がその輸入の際において同一のものであると認められるかということを客観的に確認する必要がある。つまり、当該②の要件を検討するためには、その前提として、当該①の要件を満たしていなければならない。
 しかしながら、本件代替品は、…Xが本邦を出国した際に携帯したと主張する本件イヤフォンではなく、本件イヤフォンを本件ホテルが紛失したことにより、本件ホテルがいずれかで購入して送られた代替品であると認められ、本件イヤフォンと本件代替品は明らかに別個の物品である。本件税関告知書の記載内容及びXから提出された証拠書類等からは、本件代替品が本邦から輸出された貨物であるとする資料等は確認できず、本件代替品は、本邦から輸出された貨物とは認められない。

(2)  本件郵便物において、本件代替品が本件イヤフォンの法的代替物であったとしても、…本件代替品は、本件イヤフォンとは明らかに別個の物品であって、本邦から輸出された貨物とは認められないため、仮に本件郵便物に消費税が課されないとした場合、国内における生産・流通過程においてすでに課税されている国産品との税負担上の均衡を欠くこととなり、課税の公平性は保たれない。また、本邦から輸出された貨物とは認められない本件代替品に、関税定率法第14条第10号を適用して消費税を課さないとすることは、同号の規定の趣旨に反するものである。

(3) (Xの主張は)Xは資産の損失を被った被害者である上、さらに追完を受けた本件郵便物に消費税が課されることについて、妥当ではないとするものであるが、これは、本件イヤフォンが日本に送付されていた場合、関税定率法第14条第10号が適用されていたことは明らかであるという前提によるものと解される。
 しかしながら、仮に、本件イヤフォンが本件ホテルにより紛失されることなく日本に送付されていたとしても、…関税定率法第14条第10号の適用要件を満たすことが客観的に確認されなければ、同号は適用できないことから、仮に本件イヤフォンが日本に送付されていた場合であっても、それだけをもって、直ちに同号が適用され消費税が課されなかったとは言い切れず、Xの主張にはその前提に誤りが認められる。

(4) よって、Xの主張には、いずれも理由がない。

 

<関連条文>

消費税法

(課税の対象)

第四条 (略)
2 保税地域から引き取られる外国貨物には、この法律により、消費税を課する。
(略)

 

輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律

(免税等)

第十三条 次の各号に掲げる課税物品で当該各号に規定する規定により関税が免除されるもの(関税が無税とされている物品については、当該物品に関税が課されるものとした場合にその関税が免除されるべきものを含む。第三項において同じ。)を保税地域から引き取る場合には、政令で定めるところにより、その引取りに係る消費税を免除する。
一関税定率法第十四条第一号から第三号まで、第三号の二(国際連合又はその専門機関から寄贈された教育用又は宣伝用の物品に係る部分に限る。)、第三号の三、第四号、第六号から第十一号まで、第十三号、第十四号、第十七号又は第十八号(無条件免税)に掲げるもの(同条第十号に掲げる貨物にあつては、消費税法第七条第一項(輸出免税等)又は第八条第一項(輸出物品販売場における輸出物品の譲渡に係る免税)の規定により消費税の免除を受けたものを除く。)
(略)

 

関税定率法

(無条件免税)

第十四条 次に掲げる貨物で輸入されるものについては、政令で定めるところにより、その関税を免除する。
(略)
十 本邦から輸出された貨物でその輸出の許可の際の性質及び形状が変わつていないもの。ただし、第十七条第一項又は第十八条第一項の規定により関税の免除又は軽減を受けた貨物、第十九条第一項又は第六項の規定により関税の軽減若しくは免除若しくは払戻し又は控除を受けた貨物を原料として製造した貨物、第十九条の二第一項の規定により関税の免除を受けた場合における同項の外国に向けて送り出した製品及び同条第二項若しくは第四項、第十九条の三第一項若しくは第三項又は第二十条第一項、第二項、第四項若しくは第五項の規定により関税の払戻し又は控除を受けた貨物を除く。
(略)

※本決定は、関税定率法第14条第10号について、「国産品非課税や二重課税排除という関税の性格に基づくものである。」としている。