1. 今日の名古屋は、花曇りの空の下、ソメイヨシノが少し満開を過ぎたかな…というところ。昨日は雨でした。
花曇り、花散らしの雨、花冷え…ソメイヨシノが満開になると、ホント、不思議とみられる気象ですよね。曇って、雨降って、ああ残念と思いつつ、花曇りだ…花散らしの雨だ…と思うと、風情を感じてしまうから不思議です。
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久屋大通公園のソメイヨシノ(一昨日) |
2. IBM事件控訴審判決(東高判平成27年3月25日)を受けて
→ <後記> 控訴審判決を読んだ感想も載せました。
その1 http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2015/06/27325.html
その2 http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2015/06/27325_26.html
<後記2> 最高裁は、平成28年2月18日、国の上告受理申立てを
不受理とする決定を出したようです。
http://www.hisaya-avenue.blogspot.jp/2016/02/28218.html
→ <後記3> 要件事実論との関係をふれてみました。
http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2017/05/blog-post.html
http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2017/05/blog-post_5.html
http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2017/05/blog-post_8.html
(1) 先日、日経新聞に、IBM事件の控訴審判決(東高判平成27年3月25日)が言い渡され、第一審判決(東地判平成26年5月9日)に引き続き、国が敗訴し、約1200億円にものぼる課税の取消しが命じられたとの記事が出ていました。
(2) 控訴審判決は未だ目にしていませんが、第一審判決は、判例データベースから小さい字を選択して印字しても、150頁ほどもある長文の判決です(「当裁判所の判断」は8頁ほどですが、「前提となる事実関係」等の「別紙」が大量についています。)。
(3) この事案、法人税法132条のいわゆる「同族会社の行為計算否認」によるものです。
法人税法132条1項は、以下のように規定します。
「 税務署長は、次に掲げる法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。
一 内国法人である同族会社
(以下、省略)」
はじめてみると、なかなか衝撃的な条文だと思うのですが…。
だって、税務署長が「同族会社等の行為や計算では、法人税の負担を不当に減少させる結果となっている!」と判断したら、税務署長が課税標準や法人税額を計算します、っていうんですよ…(汗)。
ちなみに、「同族会社」とは、「会社の株主等(…)の三人以下…」(同法2条10号)等と規定されています。
つまり、この規定は、同族会社は、少数の株主によって支配されているから、税負担を不当に減少させるような行為や計算が行われやすいだろう、だから、税負担の公平を維持するため、そのような行為や計算が行われた場合には、税務署長が、正常な行為や計算に引き直して課税する権限を認めましょう、という趣旨に基づいているのです。
当該条文には、講学上、「不確定概念」とよばれるものが含まれます。つまり、税務署が「不当」だと判断するのはいかなる場合か等が、俄かにはわからないのです。当然、租税法律主義(憲法84条。および、そこから導かれる課税要件明確主義)に反しないかが問題となるわけですが、最高裁は、租税法律主義をとる憲法84条に反しないと判断しています(最判昭53.4.21)。
(4) そもそも、日本IBMが同族会社?と思われる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、本件の原告(被控訴人)となったのは、日本IBMの中間持株会社たる内国法人、有限会社アイ・ビー・エム・エイ・ビー・ホールディングス(以下、「X社」とします。)です。そして、X社は、米国WT社(米国IBMの子会社)が唯一の社員なので、法人税法上、「同族会社」にあたります(米国IBMの下に米国WT社が、更にその下にX社が、それぞれ、ぶらさがっているという構図です。)。なお、米国IBMは、1911年(明治44年)に設立され、現在、約170か国に事業を展開する多国籍企業グループを形成しており、米国WT社は、米国IBMにその持分の全部を保有される同社の海外関連会社を統括する持株会社です。
事案について、ざっくりと説明することは、難しいのですが…。
X社は、当初から日本IBMの株主であったわけではありません。
そもそも、米国WT社がデロイトからX社の持ち分全部を譲り受けたのが、平成14年2月12日です。
そして、X社は、同年4月22日、日本IBM他3社の発行済株式の全部を、米国WT社から取得しました(本件株式購入)。その購入資金は、米国WT社からの借入(本件融資。約1兆8182億円にのぼります。)等でまかなわれました。
その後、X社は、日本IBMに対し、平成17年まで3回にわたり、その一部を譲渡しました(本件各譲渡)。これは、日本IBMにとっては、自己株式の取得にあたるわけです。この譲渡の対価は、本件株式購入における1株あたりの価格とほぼ同額でした。でも、X社は、本件各譲渡事業年度において、譲渡損失を計上し、所得の計算上損金に算入したため、繰越欠損金が生じています。この説明にはとても骨が折れるので省略したい…のですが、当時の法人税法の諸規定にしたがった処理でした(*)。ともかく、X社には、平成14年12期に約1981億円、平成15年12期に約213億円、平成17年12期に約1800億円という巨額の欠損金が生じたというからすごいですね。
その後、平成19年に、X社は、自らを連結親法人とする連結納税の承認申請を行い、平成20年1月1日に承認されたものとみなされました。そこで、X社は、連結納税申告となる平成20年12月期より、たまっていた繰越欠損金を連結欠損金として損金算入することにより、日本IBMとの連結所得を圧縮する結果となった…。
これに対し、処分行政庁は、法人税法132条を適用し、上記譲渡損失を本件各譲渡事業年度の所得計算上、損金の額に算入することを否認する内容の更正処分を行いました。
*図を書いたりしないとイメージがわきにくいかもしれませんが、一応、ざっくりと書いてみます。法人たる株主が保有株式を発行会社に譲渡した場合(すなわち、発行会社にとって自己株式の取得にあたる場合)、自己株式に対応する資本金等の額を超える部分は、「みなし配当」として扱われます(法人税法24条1項)。みなし配当というのは、会社法上の「剰余金の配当」にはあたらないものの、経済実態としては利益の払戻しに該当することから、税務上、「剰余金の配当」と同様に扱うというものです。他方、譲渡した法人において、譲渡損益を計算する際には、みなし配当の額は譲渡対価の額から控除されます(同法61条の2第1項1号括弧書)。平成13年税制改正により、みなし配当額の計算に係る帳簿価格基準が廃止されました。
たとえば、簿価が200の株式を発行法人に簿価と同額の200で譲渡すると、その対価は資本金等の額に対応する部分とみなし配当部分にわけられ、前者が50であったとすると、後者のみなし配当部分は150となり、譲渡損益を計算する際には、このみなし配当部分150が譲渡対価の額から控除されるので、譲渡対価50(実際の譲渡対価200-みなし配当部分150)-譲渡原価(簿価)200=△150となります。つまり、実際には簿価で譲渡したにもかかわらず、法人税法の諸規定に従うと、譲渡損が発生するという結果になるわけです。この譲渡損150は損金算入される一方、みなし配当150は受取配当等益金不算入制度の適用により、その一部または全部が益金不算入となります。
(5) 上述のX社に譲渡損失が生じたからくりですが、平成13、14年の税制改正による「穴」だったともいえます。結局、平成22年税制改正により、完全支配関係間における自己株式の譲渡等に伴う譲渡損失については、損金算入額が生じないようになり(法人税法61条の2第16項)、自己株式取得が予定されている場合の当該株式に係るみなし配当については、受取配当金不算入の適用はなくなりました(同法23条3項)。しかしながら、それまでは自己株式取得と連結納税制度を組み合わせたタックスプランニングとして喧伝されていたといいます。これって、国が負けるパターンの一つといえなくもないでしょうか…。
第一審において、国は、法人税法132条1項にいう「不当」なものと評価される根拠事実として、以下のような点をあげました。
①X社をあえて日本IBMの中間持株会社としたことに正当な理由ないし事業目的があったとはいい難いこと
②本件一連の行為を構成する本件融資は、独立した当事者間の通常の取引とは異なるものであること
③本件各譲渡を含む本件一連の行為(米国WT社によるX社の全持分の買収、本件融資、本件株式購入、本件各譲渡)に租税回避の意図が認められること
この③の評価根拠事実として、以下の4点をあげています。
ⅰ)本件株式購入及び本件各譲渡は経済的合理性がないこと
ⅱ)X社に有価証券の譲渡に係る譲渡損失額が生ずることとなった経緯から米国IBMは税負担の軽減を目的として意図的にX社の有価証券の譲渡損を生じさせるような事業目的のない行為である本件一連の行為をしたことを推認することができること
ⅲ)X社が中間持株会社として置かれた当初からいわゆる連結納税制度を利用して本件各譲渡によりX社に生ずる有価証券の譲渡に係る譲渡損失額を連結所得の金額の計算上損金の額に算入することが想定されていたことが合理的に推認されること
ⅳ)本件につき法人税法の適用のない米国法人が濫用的にその適用を受けて租税回避を企図したものと評価することができること
これに対し、第一審判決は、次のようにいっています。
まず、①について…。米国連邦税法上、米国外で課税された所得に係る外国税額控除が認められているのですが、これを制限する制度(いわゆる代替ミニマム税ないし最低ミニマム税)があり、平成14年頃、米国IBMにおいては、直ちには国際的二重課税が解消されない状況にありました。そこで、米国WTがX社の持分を取得する前は、日本IBMの米国WTへの配当に対して当時課されていた10%の源泉所得税について直ちには控除を受けられない状況だった一方、米国WTがX社の持分を取得した後は、本件融資の元本返済として米国に送金することになり、利子支払に当たる部分には源泉所得税が課されるものの、従来に比べると源泉所得税を課される対象となる部分が減ったといいます。このようなことも勘案し、「X社に持ち株会社としての固有の存在意義がないとまでは認めがたいというべきである上、企業グループにおける組織の在り方の選択が基本的に私的自治に委ねられるべきものであることや、法令上、外国にある持株会社と我が国にある事業会社との間に有限会社である持株会社を置くことができる自由を限定する規定が見当たらないことも考慮すると、米国WTと日本IBMとの間に中間持株会社としてX社を置いたことに税負担の軽減以外の事業上の目的が見いだせないとも言い難いというべきである。」等と判示しています。
②については、「本件融資が、独立した当事者間の通常の取引として到底あり得ないとまでは認めがたいというべきである。」等と判示しています。
そして、③について…。ここが一番大きいのではないかと個人的に思うのですが、特に、ⅲ)一連の行為に租税回避の意図が認められるという国の主張が、日本の税制改正の客観的経過とそぐわないのです。
まず、平成13年10月9日に公表された「連結納税制度の基本的考え方」においては、外国法人の子会社が連結親法人として認められるかどうか明確にされていなかったこと等から、米国IBMが日本再編プロジェクトの実行を承認した当時(遅くとも平成13年11月)から連結納税の承認を受けることを具体的に想定することはできません。
また、欠損金の繰越期間の制限が7年に延長され、かつ、平成13年4月1日以後に開始した事業年度に生じた欠損金額に遡って適用されるようになったのは、平成16年税制改正であったところ、そのことにより、X社が初めて、連結納税の承認を受けることにより、子会社である日本IBMの資産について時価による評価をすることなく、X社に生じた譲渡損失を連結所得の計算上損金算入することが可能になりました。とすれば、米国IBMが日本再編プロジェクトの実行を承認した当時(遅くとも平成13年11月)に、これを想定した上で承認し、米国IBM及びそのグループが本件各一連の行為をしたと…は認めがたいのです。
ともかく、第一審は、本件各譲渡を含む本件一連の行為に租税回避の意図が認められる旨の評価根拠事実として国が挙げるいずれの事実も、これを裏付けると認めるに足る証拠ないし事情があるとは認めがたい等として、「本件各譲渡を容認して法人税の負担を減少させることが法人税法132条1項にいう『不当』なものと評価されるべきであると認めるには足りないというべきである」と判示しました。
なお、第一審は、法人税法132条1項の「法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められるか否か」について、「専ら、経済的、実質的見地において当該行為又は計算が純粋経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるか否かを基準として判定し、このような客観的、合理的基準に従って同族会社の行為または計算を容認する権限を税務署長に与えているものと解するのが相当である(最高裁昭和53年判決参照)」と判示しています(経済的合理性基準説)。
(6) “法人税法132条の「同族会社の行為計算否認」は、伝家の宝刀である”といわれているのを聞いたことがあります。この規定があるだけで、同族会社にとっては、明確に把握しがたい否認リスクを常に意識しなければならない…といえるでしょう。
もっとも、伝家の宝刀は、絶大な威力があるからこそ、いよいよという場合以外には使わないではないでしょうか。
本件一連の行為により、米国連邦所得税を増やすことなく(**)、日本の法人税法上の「穴」を利用して、巨額の譲渡損失を計上し、日本IBMとの連結所得を圧縮するなんて、けしからん租税回避だ!と、処分行政庁は積極的に本件課税にうってでた…のかもしれません。
でも、控訴審判決は未だ読んでいませんが、第一審が認定する事実を勘案するに、国の主張はどうも筋がよろしくない…。控訴審でも第一審に引き続き国が敗訴しているところをみると、今回のケースは、「伝家の宝刀を抜くべきいよいよという場合」ではなかったのではないか…とも思われます。還付加算金のこともありますしね…。
**国の主張によると、米国連邦税法のチェック・ザ・ボックス規制により、米国WT社とその子会社であるX社(有限会社)との取引は内部取引とみなされ、本件株式購入の段階では、売主である米国WT社においては、いわゆるキャピタルゲイン課税を含めなんら課税を発生させないとのことです。
(7)なお、法人税法は、上記「同族社の行為計算否認」のほかに、同法132条の2の「組織再編に係る行為計算否認」や同法132条の3の「連結法人に係る行為計算否認」という包括否認規定も有します。
ヤフー事件では、「組織再編に係る行為計算否認」が用いられ、第一審(東地判平成26年3月18日)、第二審(東地判平成26年11月5日)とも、国が勝訴しています。現在、上告審に係属しているときいておりますので、機会があれば、また、取り上げたいと思います。
→ <後記> 最判平成28年2月29日により、ヤフーの敗訴確定が確定しました。
http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2016/03/blog-post.html
3.ところで、今夜、「アンビリバボー」というテレビ番組で、以前このブログで触れた映画「奇跡の詩」の題材となったと思われる飛行機事故をとりあげていました。どうやら、件の飛行機事故は、ブラジルではなく、ペルーでおきたものだったようです。随分とむかしに見たので、記憶が変容していたみたい…(汗)。
今日のテレビ番組では、映画では描かれていなかった、生還した少女と父親の確執や生還後の苦悩がとりあげられていました。ご本人も出演されていて、父親との確執や生還後の苦悩を乗り越え、両親と同じ動物学者になったという話に、映画とは違った感銘を受けました。
以前のブログ(↓)
http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2014/09/blog-post_19.html