2015年4月30日木曜日

TOKYO PRO Marketについて


1.  4月も終わりですね。旧暦4月は、「卯月」。
 「卯月」の名の元になった「卯の花」(ウツギ)が満開で綺麗だったので、写真をアップします。
 「卯の花」は初夏の季語。今日の名古屋は、初夏の陽気でした。

       
卯の花(ウツギ)の木
卯の花。かわいい!

2. TOKYO PRO Market

(1) 「証券アナリスト」(Chartered Member of the Securities Analysts Association of Japan, CMA®)という資格をご存知でしょうか。
 
公益社団法人日本証券アナリスト協会(The Securities Analysts Association of Japan, SAAJ)のホームページでは、「証券投資の分野において、高度の専門知識と分析技術を応用し、各種情報の分析投資価値の評価を行い、投資助言投資管理サービスを提供するプロフェッショナルのこと」(太字は筆者)としています。
 一般的には、セルサイドの証券アナリスト(証券会社側)とバイサイドの証券アナリスト(資産運用会社側)がいて、少し役割が違ったりします。

 私は、弁護士登録するより以前、銀行員時代に、証券アナリストの資格を取得し、検定会員になりました。
 私が合格した頃の受験科目は、1次試験(マークシート)は4科目(証券分析、財務会計、財務諸表分析、経済)、2次試験(論述)は3科目(証券分析、財務分析、経済)だったと思います。
 銀行を退職してからは、証券アナリストとして活動する機会には恵まれませんでしたが、証券分析や経済の基礎知識、そして、特に、財務分析について深く学んだことは、銀行員時代の経験とあいまって、弁護士として活動する際や、国税局で任期付公務員として勤務した際等に、役に立っていると思います。

 

(2)  先般、SAAJ東海地区交流会の存在を知り、参加してみました。
 勉強会と懇親会からなり、勉強会のテーマは、「TOKYO PRO Marketを活用した新しい成長モデル~上場すると何が変わるのか~」というもので、大変興味深く拝聴しました。
 TOKYO PRO Market
  ・プロ投資家向けの市場
  ・株主数業績等の形式基準がない
   (上場に際して、監査法人による監査証明が
   直前期のみ必要だが、
   それ以外の数値基準はない。
   なので、赤字だったり、
   オーナー一族の持株比率が
90%でもOK。)
等の特徴があり、
でも、歴とした東京証券取引所の株式市場で、
上場すると名刺等に東証上場マークを使用できます。

 四半期開示は不要ですが、年2回の開示は必要で、
上場コストは、上場時
3000万円ほど、その後、年間1000万円ほどかかるようです。
 もともと目指していたロンドンAIM市場等と比べ、低調が囁かれるTOKYO PRO Marketですが、今年に入り、東海地区でも上場した企業がありますね。
 勉強会の質疑応答でもでていましたが、TOKYO PRO Market上場株式は、やはり、字義通り、相続税等の財産評価通達168(1)の「上場株式(金融商品取引所(金融商品取引法(昭和23年法律第25号)第2条≪定義≫第16項に規定する金融商品取引所をいう。以下同じ。)に上場されている株式をいう。以下同じ。)」に該当するんだろうか…と…。

2015年4月26日日曜日

インドネシアのお土産



1. 以前のブログで宣言(?)していた、インドネシア視察旅行の詳細については、事務所通信第5号として発信することができましたので、本日は、インドネシアのお土産等についておおくりしたいと思います。
 あと、弊事務所のホームページに英語版を設けてみましたので、よかったらご覧くださいませ。(Hisaya Avenue Law Office has launched an English website.)

  
2. インドネシアのお土産
(1) バティック
  インドネシアといえば、やっぱりバティック(ろうけつ染め。いわゆるジャワ更紗)。
  柄行が日本人には難しい気もしますが、ネクタイ(Silk Batik Tie)。


バティックのネクタイ。Alun Alunで買い求めました。

こちら(↓)は、お店の人曰く、ペカロンガン地方のバッティック古布とのこと。
BATIK TULIS from Pekalongan ±50-80 years
 
バティックの古布。Alun Alunで
(2) コーヒー
 まず、トラジャコーヒー(Toraja Coffee)。
 「トラジャ」は、スラウエシ島に住むトラジャ族に由来します。
 トラジャ族の住む地で、オランダ人によってはじめられたコーヒー生産をインドネシア独立後に再興したのは、日本のキーコーヒーだとか…。
 「♪トアルコ・トラアジャ~、鍵のマークのキーコーヒー」というCMソングが思わず頭に響きます。

トラジャコーヒー。こちらもAlun Alun。

 ベトナムでも買ったことのあるルアックコーヒー(Kopi Luwak)。ジャコウネコの××から採れる未消化のコーヒー豆からつくられる高価なコーヒーです。ベトナムでは、Weasel Coffeeといっていました。
 インドネシアを植民地化したオランダ人がインドネシアにコーヒー豆を持ち込んで栽培をはじめたものの、収穫したコーヒー豆はオランダ人がもっていってしまうため、インドネシア人の手には入らず、落ちたコーヒー豆を食べたジャコウネコが消化できずにまた落としたものを拾い集めてインドネシア人が飲んでいたところ、オランダ人がその不思議な香りと味に気が付き、珍重するようになった…というエピソードがあるそうです。つまり、麝香の香り(?)があり、フレーバーコーヒーみたいなので、好き嫌いがわかれるとは思います。
 混ぜ物ありですが、素敵な箱入りを、お土産用に購入。

ルアックコーヒー。ジョグジャカルタのお土産屋さんにて購入。

(3) ソルティア(Solitaire Board
 ソリティア自体は、ヨーロッバ由来のボードゲームです。天然石とチーク(?)がインドネシア産みたいで…(苦笑)。
ソルティア。Alun Alunで。

(4) 昆虫(カブトムシ)
 スマトラアトラス(Chalcosoma atlas)とジャワヒメカブト(Xylotrupes gideon
 
カブトムシ。Alun Alun(空港よりも安かったです)

(5) Tシャツ
 海外に行くと、必ず、買ってきます。
 
Tシャツ。ジョグジャカルタのお土産屋さんで。

 
3. 前回の訪問等
 以前のブログでも触れましたが、インドネシアを訪れるのは、2回目。前回の訪問は、四半世紀前…。ジャカルタは残念ながらトランジットだけだったので、変貌ぶりはわかりません。ジョグジャカルタは、凄く変わったとまではいえないかも…。ジャカルタとジョグジャカルタは、例えて言うなら、東京と京都…?とききました。
 季節が違いますが(前回は
9月初旬、今回は、2月の雨季で、スコールにあいました。)、修学旅行生(?)が目立ったところは、やはり、国が豊かになったのかなあと…。以前は、外国の旅行者ばかりでしたから…。
    

      前回訪問時のジョグジャカルタ

 
       今回訪問時のジョグジャカルタ
(偶々水田を通りかかっただけで、水田が広がっていたわけではありません。)

  

4.インドネシアでのお食事 
 渋滞がひどいので、バスの中で、ランチボックスということもありました。
 ジョグジャカルタでいただいたランチをアップします。おいしかったです。
   
 
 


 思い出話が多くて恐縮ですが、インドネシア料理と言えば、新橋の「インドネシアラヤ」。
 小さい時からすごく気になっていたのですが、お店に入ってみたのは、大人になってからです。
50周年をお祝いした後、閉店してしまったそうで、とても残念です。

 
5.スラバヤ通り♪
 最後に、ジャカルタ滞在中に訪れた、スラバヤ通りの写真。
 アンティーク店がならんでいますが、目が利かないので、手がでず…。
 頭の中では、「♪でもラッサ、ラッササヤンゲ~」とユーミンの「スラバヤ通りの妹へ」がエンドレスにながれました(笑)。

スラバヤ通り♪

 

2015年4月21日火曜日

マイナンバー法について


1. 昨日は、二十四節気の「穀雨」だそうで、名古屋では、少し強い雨が降りました。
 今日、外堀を通ると、山吹が咲いていました。
名古屋城外堀(久屋橋付近)のヤマブキ
 
 その隣には、白いヤマブキ…!?
 時代劇で「山吹色の菓子」などとでてくるように、ヤマブキは色(大判小判の色…?笑)の名前ともなっているので、シロヤマブキって変な感じがします。

 
外堀(久屋橋付近)のシロヤマブキ(?)



2.(1) 今日は、マイナンバーの話題を…。
 先週、弁護士会の情報関連法チームのチーム会で、「マイナンバー法」がとりあげられました。最近、新聞等でも、よく目にしますよね。
 「マイナンバー法」は正式名称を、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」といい、平成253成立しました。その施行は、平成27105日等とされています(政令第171)。
 すなわち、今年(平成27年)10から、住民票を有するすべての人12ケタのマイナンバー(法律上は、「個人番号」といいます。同法2条5項。)が通知され、来年(平成28年)1から、順次、その利用開始される…とされています。
 なお、会社法等により設立登記法人国の機関地方公共団体にも、13ケタの番号が割り振られます(こちらは、法律上、「法人番号」といいます。同法215項)。

(2)  マイナンバー制度導入の趣旨は、内閣官房の資料によれば、複数の機関に存在する個人の情報同一人の情報であるということの確認を行うための基盤であり、①社会保障・税制度の効率性・透明性を高め、②国民にとって利便性の高い、③公平・公正な社会を実現する、等としています。

(3)  マイナンバー制度は、既に導入されている住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)とどう違うの?と思われるかもしれません。
 実は、「個人番号」の定義規定からもわかるように、マイナンバー(個人番号)は、住基ネットで割り当てられた11ケタの住民票コードをもとに、割りふられます
 住民基本台帳カード(以下、「住基カード」といいます。)も、マイナンバー制度で平成281月から発行される予定の個人番号カードも、どちらも身分証明書として利用できるとされますが、内閣官房の資料では、住基カードは平成281月から発行されず、また既に取得した住基カードは、個人番号カードを取得した時点から、廃止するとされています。もっとも、住基カードの交付状況は、極めて低レベルだといいますよね。
 住基カードでは顔写真は選択制でしたが、個人番号カードでは、顔写真を券面に記載しなければなりません。個人番号カードのICチップには、プライバシー性の高い個人情報は記録されないとされますが、券面記載事項である氏名、住所、生年月日、本人の写真等は、ICチップに記録されます
 また、住基カードは、券面に住民票コードの記載がありませんが、個人番号カードには、個人番号が券面に記載されます。もっとも、個人番号カードに個人番号が記載されるといっても、お店等で個人番号カードを身分証明書として利用する際、店員は、写真等を確認して身分確認するのはいいけれど、個人番号を書き取ってはならない、とされています(同法20条が定める収集等の制限にひっかかるのです。内閣府がだしている逐条解説48頁参照)。
 ちなみに、個人番号カードの交付は、申請によるとされています(同法171項)。

(4) 行政によるマイナンバーの利用は、今のところ、社会保障分野、税分野、災害対策分野とされています(同法9条、別表第一参照。なお、逐条解説の9条の解説では、「将来的には幅広い行政分野で利活用することも念頭に置」いているとしています)。
 マイナンバーの利用が開始されると、企業においては社会保障の分野(社会保障料の支払い等)や税の分野(給与所得の源泉徴収票の作成等)で、マイナンバーの取り扱い必要となります(法律上、企業は、個人番号関係事務実施者になります。同法2条13項)。
 しかるに、先日の日経新聞では、マイナンバー制度へのシステム対応ができている企業は、2
弱にとどまっているという記事がでていました。
 この点、今年10月に個人番号の通知がはじまると、従業員から個人番号の提供を受ける等、マイナンバーの取扱いが発生しますから、そろそろ、
特定個人情報保護委員会がだしている「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」等を参照して、準備をはじめた方がよいと思われます。経団連も、「マイナンバー制度への対応準備のお願い」をだしており、主な準備事項として、対象業務の洗い出し、対処方針の検討、マイナンバー収集対象者への周知、関連システムの改修(自社にてシステム構築を行っている場合)等をあげています。上記ガイドラインの安全管理措置については、中小規模事業者向けの特例が設けられ、実務にも配慮しているとされます。
 
気を付けなければならないのは、マイナンバーを利用できる事務は、マイナンバー法により厳しく限定されており(原則として、社会保障や税に関する手続書類を行政機関に提出する等の個人番号関係事務)、本人の同意があったとしても、利用目的を超えてマイナンバーを利用できないことです。せっかく各従業員に固有のマイナンバーがふられるのだから、この機会に、人事考課等もマイナンバーで管理しよう…などということはできません。
 また、万一、企業の情報担当者が従業員のマイナンバーを外部に漏らしたりする場合などを慮って、厳しい罰則が設けられています。企業は、情報管理に一層配慮する必要があり、中小企業においても、マイナンバーの運用開始を、個人情報の取扱全般を見直す機会とするとよいのではないかと思われます。


(5) マイナンバーについては、このブログもしくは事務所通信で、また、とりあげていきたいと思っています。


 

2015年4月13日月曜日

かわいすぎる!?…羊神社


1. 事務所のホームページに、「事務所通信第5号」(平成27410日号)をアップしました(↓)。
 http://www.hisaya-ave.com/tsushin5p1.html
 今回は、2月に参加した「インドネシア視察旅行」をメインに、「ワンポイント法務」として、「国際私法の基礎~準拠法選択の基本的枠組~」を載せています。
 国際私法は、むか~し(笑)、大学院で専攻していました。
 国際私法って、法学部の科目の中でも、独特の考え方だなあ…というのが、国際私法の勉強を始めたころの感想です。なので、同業者と話をしていても、「?」と思うことがあるくらい…。
 特に「反致」からはじまり、「転致」「間接反致」「二重反致」等とくると、頭の体操のよう…。大学院の指導教授のお話を聞いていて、19世紀のドイツやフランスの有閑階級から生まれたのでは…というイメージをもった記憶があります。
 今回は、そんな頭の体操には深入りすることなく、国際私法の幹となる部分のみをお伝えしようとつとめてみました…。ご覧いただけたら幸いです。
  
2. ところで、昨日、偶然、「羊神社」のそばを通りかかりました(実は、近くのラーメン屋さんに行った際みつけました…)。名古屋に来てだいぶになりますが、今まで、聞いたことなかったです(有名なのかもしれませんが…)。
 羊神社に掲げられていた「羊神社由緒」によれば、御祭神は、「天照大神」と「火の迦具土神」で、平安時代の醍醐天皇の御代(901から930年)にまとめられた延喜式神名帳に「尾張の国山田郡羊神社」と記されている古社だそうです。羊神社のある北区辻町というのは、「ひつじ」の「ひ」をとって名付けられたのだそうな…。昔から氏子区域には極めて火災が少なく、名古屋大空襲でも、多くの焼夷弾を受けたけれど、ほとんど火災に至らなかったといいます…。確かに、神社周辺には、どのくらいかはわかりませんが、古いお家が多かったです。
 境内には、たくさんのヒツジさんがいて、かわいい!(笑)
 今年は未年。写真をいくつかアップします。
    
羊神社の外観

 
手水舎

 

狛羊?親子ですね…


 
羊のレリーフ

 
お賽銭箱の傍らにも…


2015年4月2日木曜日

IBM事件控訴審判決(東高判平成27年3月25日)を受けて


1. 今日の名古屋は、花曇りの空の下、ソメイヨシノが少し満開を過ぎたかな…というところ。昨日は雨でした。
 花曇り、花散らしの雨、花冷え…ソメイヨシノが満開になると、ホント、不思議とみられる気象ですよね。曇って、雨降って、ああ残念と思いつつ、花曇りだ…花散らしの雨だ…と思うと、風情を感じてしまうから不思議です。

 
久屋大通公園のソメイヨシノ(一昨日)

2. IBM事件控訴審判決(東高判平成27325)を受けて
 
   → <後記> 控訴審判決を読んだ感想も載せました。
           その1 http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2015/06/27325.html
           その2 http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2015/06/27325_26.html

              <後記2>  最高裁は、平成28年2月18日、国の上告受理申立てを
             不受理とする決定を出したようです。
                 http://www.hisaya-avenue.blogspot.jp/2016/02/28218.html

 → <後記3> 要件事実論との関係をふれてみました。
        http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2017/05/blog-post.html
        http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2017/05/blog-post_5.html
        http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2017/05/blog-post_8.html


(1) 先日、日経新聞に、IBM事件の控訴審判決東高判平成27325が言い渡され、第一審判決(東地判平成2659日)に引き続き国が敗訴し1200億円にものぼる課税の取消しが命じられたとの記事が出ていました。
 

(2) 控訴審判決は未だ目にしていませんが、第一審判決は、判例データベースから小さい字を選択して印字しても、150頁ほどもある長文の判決です(「当裁判所の判断」は8頁ほどですが、「前提となる事実関係」等の「別紙」が大量についています。)。
 

(3) この事案、法人税法132のいわゆる「同族会社の行為計算否認」によるものです。
 法人税法1321は、以下のように規定します。
 

「 税務署長は、次に掲げる法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。
一 内国法人である同族会社
(以下、省略)」
 

はじめてみると、なかなか衝撃的な条文だと思うのですが…。
 だって、税務署長が「同族会社等の行為や計算では、法人税の負担を不当に減少させる結果となっている!」と判断したら、税務署長が課税標準や法人税額を計算します、っていうんですよ…(汗)。
 ちなみに、「同族会社」とは、「会社の株主等(…)の三人以下…」(同法210号)等と規定されています。
 つまり、この規定は、同族会社は少数の株主によって支配されているから税負担を不当に減少させるような行為や計算が行われやすいだろう、だから、税負担の公平を維持するため、そのような行為や計算が行われた場合には、税務署長が、正常な行為や計算に引き直して課税する権限を認めましょう、という趣旨に基づいているのです。
 当該条文には、講学上、「不確定概念」とよばれるものが含まれます。つまり、税務署が「不当」だと判断するのはいかなる場合か等が、俄かにはわからないのです。当然、租税法律主義(憲法84条。および、そこから導かれる課税要件明確主義)に反しないかが問題となるわけですが、最高裁は、租税法律主義をとる憲法84条に反しないと判断しています(最判昭53.4.21)。
 

(4) そもそも、日本IBMが同族会社?と思われる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、本件の原告(被控訴人)となったのは、日本IBMの中間持株会社たる内国法人、有限会社アイ・ビー・エム・エイ・ビー・ホールディングス(以下、「X社」とします。)です。そして、X社は、米国WT社(米国IBMの子会社)が唯一の社員なので、法人税法上、「同族会社」にあたります(米国IBMの下に米国WT社が、更にその下にX社が、それぞれ、ぶらさがっているという構図です。)。なお、米国IBMは、1911年(明治44年)に設立され、現在、約170か国に事業を展開する多国籍企業グループを形成しており、米国WT社は、米国IBMにその持分の全部を保有される同社の海外関連会社を統括する持株会社です。
 事案について、ざっくりと説明することは、難しいのですが…。
 X社は、当初から日本IBMの株主であったわけではありません。
 そもそも、米国WT社がデロイトからX社の持ち分全部を譲り受けたのが、平成14年2月12日です。
 そして、X社は、同年4月22日、
日本IBM他3社の発行済株式の全部を、米国WT社から取得しました(本件株式購入)。その購入資金は、米国WT社からの借入(本件融資。約1兆8182億円にのぼります。)等でまかなわれました。
 その後、X社は、日本IBMに対し、平成17年まで3回にわたり、その一部を譲渡しました(本件各譲渡)。これは、日本IBMにとっては、自己株式の取得にあたるわけです。この譲渡の対価は、本件株式購入における1株あたりの価格ほぼ同額でした。でも、X社は、本件各譲渡事業年度において、譲渡損失計上し、所得の計算上損金算入したため、繰越欠損金が生じています。この説明にはとても骨が折れるので省略したい…のですが、当時の法人税法の諸規定にしたがった処理でした(*)。ともかく、X社には、平成14年12期約1981億円平成15年12期約213億円平成17年12期約1800億円という巨額の欠損金が生じたというからすごいですね。
 その後、平成19年に、X社は、自らを連結親法人とする連結納税の承認申請を行い、平成2011日に承認されたものとみなされました。そこで、X社は、連結納税申告となる平成2012月期より、たまっていた繰越欠損金連結欠損金として損金算入することにより、日本IBMとの連結所得を圧縮する結果となった…。
 これに対し、処分行政庁は、法人税法132適用し、上記譲渡損失本件各譲渡事業年度の所得計算上、損金の額に算入することを否認する内容の更正処分を行いました。

*図を書いたりしないとイメージがわきにくいかもしれませんが、一応、ざっくりと書いてみます。法人たる株主が保有株式を発行会社に譲渡した場合(すなわち、発行会社にとって自己株式の取得にあたる場合)、自己株式に対応する資本金等の額を超える部分は、「みなし配当」として扱われます(法人税法241項)。みなし配当というのは、会社法上の「剰余金の配当」にはあたらないものの、経済実態としては利益の払戻しに該当することから、税務上、「剰余金の配当」と同様に扱うというものです。他方、譲渡した法人において、譲渡損益を計算する際には、みなし配当の額は譲渡対価の額から控除されます(同法61条の2第1項1号括弧書)。平成13年税制改正により、みなし配当額の計算に係る帳簿価格基準廃止されました。
 たとえば、簿価が200の株式を発行法人に簿価と同額の200で譲渡すると、その対価は資本金等の額に対応する部分みなし配当部分にわけられ、前者が50であったとすると、後者のみなし配当部分は150となり、譲渡損益を計算する際には、このみなし配当部分150が譲渡対価の額から控除されるので、譲渡対価50(実際の譲渡対価200-みなし配当部分150)-譲渡原価(簿価)200=△150となります。つまり、実際には簿価で譲渡したにもかかわらず、法人税法の諸規定に従うと、譲渡損が発生するという結果になるわけです。この譲渡損150損金算入される一方、みなし配当150受取配当等益金不算入制度の適用により、その一部または全部が益金不算入となります。
 

(5) 上述のX社に譲渡損失が生じたからくりですが、平成1314年の税制改正による「」だったともいえます。結局、平成22年税制改正により、完全支配関係間における自己株式の譲渡等に伴う譲渡損失については、損金算入額が生じないようになり(法人税法61条の2第16項)、自己株式取得が予定されている場合の当該株式に係るみなし配当については、受取配当金不算入の適用はなくなりました(同法23条3項)。しかしながら、それまでは自己株式取得と連結納税制度を組み合わせたタックスプランニングとして喧伝されていたといいます。これって、国が負けるパターンの一つといえなくもないでしょうか…。
 第一審において、国は、法人税法1321項にいう「不当」なものと評価される根拠事実として、以下のような点をあげました。

①X社をあえて日本IBMの中間持株会社としたことに正当な理由ないし事業目的があったとはいい難いこと

②本件一連の行為を構成する本件融資は、独立した当事者間の通常の取引とは異なるものであること

③本件各譲渡を含む本件一連の行為(米国WT社によるX社の全持分の買収、本件融資、本件株式購入、本件各譲渡)に租税回避の意図が認められること
この③の評価根拠事実として、以下の4点をあげています。

)本件株式購入及び本件各譲渡は経済的合理性がないこと
)X社に有価証券の譲渡に係る譲渡損失額が生ずることとなった経緯から米国IBMは税負担の軽減を目的として意図的にX社の有価証券の譲渡損を生じさせるような事業目的のない行為である本件一連の行為をしたことを推認することができること
ⅲ)X社が中間持株会社として置かれた当初からいわゆる連結納税制度を利用して本件各譲渡によりX社に生ずる有価証券の譲渡に係る譲渡損失額を連結所得の金額の計算上損金の額に算入することが想定されていたことが合理的に推認されること
)本件につき法人税法の適用のない米国法人が濫用的にその適用を受けて租税回避を企図したものと評価することができること

これに対し、第一審判決は、次のようにいっています。 
 まず、①について…。米国連邦税法上、米国外で課税された所得に係る外国税額控除が認められているのですが、これを制限する制度(いわゆる代替ミニマム税ないし最低ミニマム税)があり、平成14年頃、米国IBMにおいては、直ちには国際的二重課税が解消されない状況にありました。そこで、米国WTがX社の持分を取得する前は、日本IBMの米国WTへの配当に対して当時課されていた10%の源泉所得税について直ちには控除を受けられない状況だった一方、米国WTがX社の持分を取得した後は、本件融資の元本返済として米国に送金することになり、利子支払に当たる部分には源泉所得税が課されるものの、従来に比べると源泉所得税を課される対象となる部分が減ったといいます。このようなことも勘案し、「X社に持ち株会社としての固有の存在意義がないとまでは認めがたいというべきである上、企業グループにおける組織の在り方の選択が基本的に私的自治に委ねられるべきものであることや、法令上、外国にある持株会社と我が国にある事業会社との間に有限会社である持株会社を置くことができる自由を限定する規定が見当たらないことも考慮すると、米国WTと日本IBMとの間に中間持株会社としてX社を置いたことに税負担の軽減以外の事業上の目的が見いだせないとも言い難いというべきである。」等と判示しています。

 ②については、「本件融資が、独立した当事者間の通常の取引として到底あり得ないとまでは認めがたいというべきである。」等と判示しています。
 そして、③について…。ここが一番大きいのではないかと個人的に思うのですが、特に、ⅲ)一連の行為に租税回避の意図が認められるという国の主張が、日本の税制改正の客観的経過とそぐわないのです。
 まず、平成13109日に公表された「連結納税制度の基本的考え方」においては、外国法人の子会社が連結親法人として認められるかどうか明確にされていなかったこと等から、米国IBMが日本再編プロジェクトの実行を承認した当時(遅くとも平成1311月)から連結納税の承認を受けることを具体的に想定することはできません。
 また、欠損金の繰越期間の制限が7年に延長され、かつ、平成1341日以後に開始した事業年度に生じた欠損金額に遡って適用されるようになったのは、平成16年税制改正であったところ、そのことにより、X社が初めて、連結納税の承認を受けることにより、子会社である日本IBMの資産について時価による評価をすることなく、X社に生じた譲渡損失を連結所得の計算上損金算入することが可能になりました。とすれば、米国IBMが日本再編プロジェクトの実行を承認した当時(遅くとも平成1311月)に、これを想定した上で承認し、米国IBM及びそのグループが本件各一連の行為をしたと…は認めがたいのです。
 ともかく、第一審は、本件各譲渡を含む本件一連の行為に租税回避の意図が認められる旨の評価根拠事実として国が挙げるいずれの事実も、これを裏付けると認めるに足る証拠ないし事情があるとは認めがたい等として、「本件各譲渡を容認して法人税の負担を減少させることが法人税法1321項にいう『不当』なものと評価されるべきであると認めるには足りないというべきである」と判示しました。
 なお、第一審は、法人税法1321項の「法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められるか否か」について、「専ら、経済的、実質的見地において当該行為又は計算が純粋経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるか否か基準として判定し、このような客観的、合理的基準に従って同族会社の行為または計算を容認する権限を税務署長に与えているものと解するのが相当である(最高裁昭和53年判決参照)」と判示しています(経済的合理性基準説)。
 

(6)  “法人税法132条の「同族会社の行為計算否認」は、伝家の宝刀である”といわれているのを聞いたことがあります。この規定があるだけで、同族会社にとっては、明確に把握しがたい否認リスクを常に意識しなければならない…といえるでしょう。
 もっとも、伝家の宝刀は、絶大な威力があるからこそ、いよいよという場合以外には使わないではないでしょうか。
 本件一連の行為により、米国連邦所得税を増やすことなく(**)、日本の法人税法上の「穴」を利用して、巨額の譲渡損失を計上し、日本IBMとの連結所得を圧縮するなんて、けしからん租税回避だ!と、処分行政庁は積極的に本件課税にうってでた…のかもしれません。
 でも、控訴審判決は未だ読んでいませんが、第一審が認定する事実を勘案するに、国の主張はどうも筋がよろしくない…。控訴審でも第一審に引き続き国が敗訴しているところをみると、今回のケースは、「伝家の宝刀を抜くべきいよいよという場合」ではなかったのではないか…とも思われます。還付加算金のこともありますしね…。

**国の主張によると、米国連邦税法のチェック・ザ・ボックス規制により、米国WT社とその子会社であるX社(有限会社)との取引は内部取引とみなされ、本件株式購入の段階では、売主である米国WT社においては、いわゆるキャピタルゲイン課税を含めなんら課税を発生させないとのことです。


(7)なお、法人税法は、上記「同族社の行為計算否認」のほかに、同法132条の2の「組織再編に係る行為計算否認」や同法132条の3の「連結法人に係る行為計算否認」という包括否認規定も有します。
 ヤフー事件では、「組織再編に係る行為計算否認」が用いられ、第一審(東地判平成26318日)、第二審(東地判平成26115日)とも、国が勝訴しています。現在、上告審に係属しているときいておりますので、機会があれば、また、取り上げたいと思います。

→ <後記> 最判平成28年2月29日により、ヤフーの敗訴確定が確定しました。
        http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2016/03/blog-post.html


3.ところで、今夜、「アンビリバボー」というテレビ番組で、以前このブログで触れた映画「奇跡の詩」の題材となったと思われる飛行機事故をとりあげていました。どうやら、件の飛行機事故は、ブラジルではなく、ペルーでおきたものだったようです。随分とむかしに見たので、記憶が変容していたみたい…(汗)。
 今日のテレビ番組では、映画では描かれていなかった、生還した少女と父親の確執や生還後の苦悩がとりあげられていました。ご本人も出演されていて、父親との確執や生還後の苦悩を乗り越え、両親と同じ動物学者になったという話に、映画とは違った感銘を受けました。

以前のブログ(↓)
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