2014年12月11日木曜日

非嫡出子(婚外子)の相続分を嫡出子の半分としていた旧民法900条の規定の2000年5月時点での合憲性


1. 師走に入ったと思ったら、あっという間に10日が過ぎていました…。
ブログをはじめたのが、今年の7月。1週間に1回くらい書きたいなあ…と思いつつ、なかなか実行できていません(汗)。
 ところで、街は、すっかり、クリスマスの装いですね。
 先週末訪れた名古屋・栄のラシック1階に飾られているクリスマスツリーがきれいだったので、写真をアップします(↓)。
 写真で伝わるかわかりませんが、このツリー、本物の木で、ものすごい大きさです。地下鉄漫才ではありませんが(古い?)、どこからどうやって運んで、搬入し、立てたのかしら…と気になってしまいました(苦笑)。

 
ラシックのクリスマスツリー


2. 先日の日本経済新聞に、平成26年12月2日最高裁第三小法廷が、非嫡出子の相続分を嫡出子の半分としていた旧民法900条の規定は2000年(平成12年)5月当時には違憲でなかった(合憲である)旨、判示した(以下、「平成26年12月の事案」といいます。)との記事がでていました。

 
3. 非嫡出子の相続分の問題といえば、新聞等で大きく報道されていましたが、昨年(平成25年)9月4日、漸く、最高裁大法廷が、旧民法900条4号ただし書の規定のうち、嫡出子の相続分を非嫡出子の半分としている部分(以下、「本件規定」といいます。)は、憲法14条1項に違反し無効であるとの決定(以下、「平成25年最高裁決定」といいます。)をだしました。
 本件規定の合憲性については、平成7年7月5日に最高裁大法廷が合憲である旨の決定をだしたものの、その後も度々争われ、最高裁小法廷は、繰り返し、これを合憲としてきたのでした
 しかしながら、平成10年にはドイツが、平成13年にはフランスが、嫡出子と非嫡出子の相続分に関する差別撤廃したため、欧米諸国でそのような差別を残している国はなくなりました。日本は、国連自由権規約委員会児童の権利委員会から、本件規定に関し、懸念の表明法改正の勧告等を受けていたといいます。
 このような外圧に屈したというわけではないでしょうが、最高裁は、遂に重い腰を上げ、平成25年最高裁決定において、「家族という共同体の中における個人の尊重より明確に認識されてきたことは明らかであると言える。そして、法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても、上記のような認識の変化に伴い、…父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる。」とした上で、「本件規定は、遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたというべきである。」と判示したのです。

 
4. ここで、どうして、「平成13年7月当時」(2001年7月当時)なの?と、疑問に思われる方もいらっしゃることでしょう。
 平成13年7月というのは、平成25年最高裁決定において問題となった相続が発生したときなのです。
 そもそも、最高裁は、具体的な争訟と関係なく、「この法律は、違憲だから無効です。」というような判断はできないと解されています。このように、具体的争訟に付随してのみ違憲審査権(憲法81条)を行使できるという制度を、付随的審査制といいます。そして、その論理的帰結として、最高裁の違憲判断は、当該争訟限りのものであると解されています。つまり、国会等の手続を経ずに当該法律を一般的に無効とするような効力は有しないと解されています(個別的効力説)。もっとも、最高裁の違憲判断が当該争訟限りのものであるといっても、最高裁の判決や決定は、その結論を導く上で意味のある法的理由付け(レイシオ・デシデンダイratio decidendi)の部分については、その後、同じ争点に関しては先例として事実上の拘束力を有すると解されています。このように最高裁の判決や決定が、先例として事実上の拘束力を有することにより、同種の事件は原則として同一の解決が得られることになり、法的安定性が維持されるのです。
 しかしながら、平成25年最高裁決定は、判決理由中で、わざわざ「先例としての事実上の拘束性について」という項を設け、「本件規定は、本決定により遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたと判断される以上、本決定の先例としての事実上の拘束性により、上記当時以降は無効であることとなり、また、本件規定に基づいてされた裁判や合意の効力等も否定されることになろう。」としつつも、「本決定の違憲判断は、Aの相続の開始時(筆者注:平成13年7月から本決定までの間に開始された他の相続につき、本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。」と判示して、先例としての事実上の拘束性限定しています。このように平成25年最高裁決定がその先例としての事実上の拘束性を限定することについて、金築誠志判事は、補足意見にて、「先例としての事実上の拘束性は、…法的安定性の実現を図るものであるところ、拘束性を認めることが、かえって法的安定性を害するときは、その役割を後退させるべきであろう。」等と述べておられます。
 

5. 冒頭の平成26年12月の事案は、未だ最高裁のデータベースに入っておらず、その判決文を読んだわけではありませんが、報道によると、平成13年7月(2001年7月)よりも前の2000年(平成12年)5月当時本件規定の合憲性が問題となっており、平成25年最高裁決定の先例としての事実上の拘束性の対象となるものではありません。
 しかしながら、前述のように、最高裁が、平成25年最高裁決定の先例としての事実上の拘束性を限定し、遡及効を制限していることを勘案すると、それ以前の時点における本件規定の違憲性を認めることは難しいのではないかと思われます。
 平成25年最高裁決定は、本件規定の合理性を失せることとなった「種々の事柄の変遷等」の中に「決定的な理由」はなかったとしています。とすれば、もし、平成26年12月の事案が平成25年9月の事案より先に最高裁に判断されていれば、先例としての事実上の拘束力の起算点は2000年5月になっていたかもしれない…とも思わますが、これをいいだせばキリがないのであり、致し方ないのかなと思います。
 

6. なお、本件規定は、昨年(平成25年)12月に改正され、民法900条第4号ただし書にあった「嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とし、」という部分は削除されています。改正法は平成25年9月5日(平成25年最高裁決定の翌日)以後に開始した相続について適用されます。
 他方、平成13年7月1日から平成25年9月4日までの間の相続については、上記の平成25年最高裁決定中の「先例としての事実上の拘束性について」にしたがうことになります。すなわち、この間の相続においては、原則として、本件規定は違憲無効として扱われますが、既に遺産分割協議や裁判が終了しているなど、「確定的なものとなった法律関係」に対して影響を与えることはありません。
 

* 本件規定の改正に係る法務省のHP