2022年5月8日日曜日

ユニバーサルミュージック事件最高裁判決(最判令和4年4月21日)

1. 今日は、3年ぶりの行動制限なし、最大10連休といわれるゴールデンウィークの最終日ですね。
 私は、滋賀県にランチをいただくためにドライブした以外は、自宅でゆっくり過ごしました。
 懸案だった自室の片付けも、少しだけ、成果がありました。
 ところで、コロナの第6波はピークアウトしたのでしょうか…。
 日本はマスクを義務化していない分、マスクの習慣がなくなるのは、当分先のことに思われます…。
 コロナに次いで、最近の話題として思い浮かぶのは、まず、ロシアのウクライナへの侵攻です。ウクライナで、人々が爆撃に慣れ、日常が戻りつつあるという報道をみて、本当に、胸が痛みます。ウクライナへの侵攻については、米国がいち早く警告していたわけですが、これが現実のものになってはじめて、チェチェン、ジョージア、クリミヤなどへの侵攻の際に、国際社会はどう対応していたのだろうかと、改めて考えさせられました。何ごとも蟻の一穴からといいますが、そういう変化を見落とさないように…と思わずにはいられません。

 

2. 先日、ユニバーサルミュージック事件の最高裁判決(最判令和4421)がでました。
 ユニバーサルミュージック事件については、控訴審判決までをとりあげて、租税訴訟No.142021615日発行)に寄稿したことがあります。
 事案の概要はそちらに譲りますが、いわゆるデット・プッシュ・ダウン(debt push down。一般に、親会社が、借入金の返済に係る経済的負担を、企業グループの資本関係の下流にある子会社に負担させること。)の事案だといわれています。
 最高裁は、納税者Xを勝訴とした第一審、控訴審を支持し、国Yの上告を棄却しました。
 この事案では、Xのグループ会社からの借入れ(本件借入れ)に係る支払利息の損金算入(の原因となる行為)を、法人税法1321項(同族会社の行為計算否認規定)を用いて否認したので、1321項にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」(いわゆる不当性要件)を、最高裁がどのような基準を用いて判断するのかが注目されていました。
 この点、最高裁は、「同族会社等の行為又は計算のうち、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであって、法人税の負担を減少させる結果となるものをいうと解するのが相当である。」と判示し、これまでの判例・通説である経済合理性基準を採用しました。
 その上で、最高裁は、「同族会社等による金銭の借り入れが上記の経済的合理性を欠くものか否か」と本事案に即した問題提起をし、総合的に考慮して判断すべき諸事情として、「当該借入れの目的や融資条件等」をあげつつも、「本件借入れのように、ある企業グループにおける組織再編成に係る一連の取引の一環として、当該企業グループに属する同族会社等が当該企業グループに属する他の会社等から金銭の借入れを行った場合において、当該一連の取引全体が経済的合理性を欠くときは、当該借入れは、上記諸事情のうち、その目的、すなわち当該借入れによって資金需要が満たされることで達せられる目的において不合理と評価されることになる。」とし、更に、「当該一連の取引全体が経済的合理性を欠くものか否かの検討に当たっては、①当該一連の取引が、通常は想定されない手順や方法に基づいたり、実態とはかい離した形式を作出するなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような組織再編成を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮するのが相当である。」と判示しました。
 どうでしょうか…。不当性要件の判断基準はやはり複雑になってきている気がしてしまいます。ただ、経済合理性基準は堅持されているんですよね(この基準は、「不当」という文言が条文にない時代から判例にあらわれたものなんですが…)。
 ということで、不当性は経済合理性の有無で判断する、でも、総合考慮すべき諸事情について、金銭の借入れに射程をしぼり、目的、融資条件等をあげている。でも、グループ内での借入れで全体的に経済的合理性を欠くかが問題となる場合に考慮すべき事情は、先にあげた諸事情のうち、目的(当該借入れによって資金需要が満たされることで達せ得られる目的)で評価するとし、さらに、一連の取引全体で経済的合理性を欠くか否かを判断するときに考慮する事情として、①及び②をあげている…。ちなみに、①及び②は、下表の通り、ヤフー事件上告審判決(最判平成28229日)が採用した制度濫用基準における濫用の有無を判断する際に考慮すべきとした「事情」に似ており、それは、金子宏教授の異常変則性・事業目的併用説に遡るといわれています。
 ①及び②という事情を考慮すべき場面をこんなに限定する必要があるのでしょうか…。というか、他の事件で経済合理性を判断する際、たとえば、グループ内の借入れではないけど、グループ内のスキーム全体で経済的合理性の有無が問題となるような場合に、①及び②という事情は考慮されるのでしょうか。最高裁判例解説がでれば、きっとこの問いにこたえてくれることと思いますが…。
 というのも、最高裁は、あてはめ部分で、ⓐ本件借入れがその目的において不合理と評価されるか否か、を検討した上で、ⓑ本件借入れに係るその他の事情を考慮して、本件借入れが経済的合理性を欠くかを判断しているのですが、ⓐでは、今回の本件組織再編取引等には、日本の関連会社の資本構成に負債を導入する目的があったこと、その結果として、本件支払利息の損金算入により大幅に法人税の額が減少したことを認め、合併前に多額の利益が生じていたXの税負担の減少がその目的に含まれていたことまでを認めているのです! でも、本件組織再編取引等には別に合理的な目的があり、①通常は想定されないような手順や方法に基づいたり、実態とはかい離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるとまではいえず、②税負担の減少以外に本件組織再編取引等を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在したものということができる、として、本件借入れはその目的において不合理と評価されないという結論を導いています。つまり、税負担軽減目的を認めながら、他に事業目的があるからOKといってることになります。企業がある事業目的を達成しようとするときに、税負担が少しでも少なくなるような方法を選ぶのは当然のことですから、双方の目的が混在する場合にこのように判断してくれるのなら、是非、経済合理性の考慮事情にはっきりと事業目的の有無をいれてほしいですよね。
 なお、最高裁は、ⓑの部分では、本件借入れが無担保で行われ、しかも、本件借入れが一因となってXが債務超過になってしまったことにより、本件借入れに「独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引とは異なる点」があると認めています。しかし、これについても、本件借入れがグループの内国法人を支配下におくための株式購入代金だったこと、本件借入れの利息や返済期間はXの予想される利益に基づいて決定されていうことなどから、「このような点があることをもって、本件借入れが不自然、不合理なものとまではいい難い。」と結論づけています。
 以上は、ざっと読んだ感想まじりの判決文紹介でして、これから沢山の評釈がでると思うので、引き続き、勉強していきたいと思います。

 

本判決のあげる事情

ヤフー事件上告審の事情

異常変則性・事業目的
併用説(金子説)

①当該一連の取引が、通常は想定されない手順や方法に基づいたり、実態とはかい離した形式を作出するなど、不自然なものであるかどうか

①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか

①当該の具体的な行為計算が異常ないし変則的であるといえるか否か

②税負担の減少以外にそのような組織再編成を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか

②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか

②その行為・計算を行ったことにつき租税回避以外に正当合理的な理由ないし事業目的があったと認められるか否か