2016年4月25日月曜日

北海道男性の外れ馬券事件(東高判平成28年4月21日)Tokyo High Court Dicision dated April 21, 2016 & 末森城址 Suemori Castle Ruins


1.北海道男性の外れ馬券事件~納税者の逆転勝訴(東高判平28421日)~

(1)  このブログで、以前、
当たり馬券の払戻金は「一時所得」にあたるか、それとも、「雑所得」にあたるか。
外れ馬券の購入代金は所得税の計算上控除できるか
について争われた事件(以下、「大阪事案」といいます。)に係る最判平成27.3.10(ちなみに、刑事裁判です。)について触れたことがあります(↓)。
http://www.hisaya-avenue.blogspot.jp/2015/03/blog-post.html
 上記大阪事案の最高裁判決は、①については「雑所得」であると判断し、②については、外れ馬券の購入代金も含めた全馬券の購入代金について、「必要経費」にあたるとして、控除を認めました。
また、その後、北海道の男性(Xが同様の争点について争った事案(以下、「北海道事案」といいます。)では、第一審の東京地裁(東京地判平成27514)が、大阪事案の最高裁判決とは異なり、外れ馬券の購入代金を「必要経費」として認めませんでした(↓)。
http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2015/05/blog-post_20.html
そんな中、先日の日経新聞(平成28422日付朝刊)に、北海道事案の控訴審東高判平成28421が、外れ馬券の購入代金を「必要経費」とするXの主張を認め、第一審の東京地裁判決を取り消したとの記事が掲載されていました。
 
(2) 上記2つの事案の争点について
 ①当たり馬券の払戻金が「一時所得」(所得税法341項)にあたるとすると、②について、「その収入を生じた行為をするため…直接要した金額」(同条2項)を控除し得る一方、①当たり馬券の払戻金が「雑所得」(同法351項)にあたるとすると、②について、「必要経費」(同法37条、同法3522号)を控除し得ます。そして、後者の方が、前者の範囲より広く、(当たり馬券の購入代金のみならず)外れ馬券の購入代金をも含むとの結論を導きだしやすいという論理関係になっています。なので、①の当たり馬券の払戻金が、「一時所得」か「雑所得」かが、主要な論点といっていいかなと思います。

(3) 大阪事案に係る最高裁判決以前所得税法基本通達
 ちなみに、大阪事案に係る最高裁判決がでる以前所得税法基本通達34-1は、「一時所得」の例示として、「競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等」を挙げていました。

(4) 大阪事案に係る最高裁判決について
  大阪事案の事実の概要については、以前のブログで軽く触れています。
 最高裁は、①について、「所得税法上、営利を目的とする継続的行為から生じた所得は、一時所得ではなく雑所得に区分されるところ、営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは、文理に照らし、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情総合考慮して判断するのが相当である。」という判断基準を示した上で、「馬券を自動的に購入するソフトを使用して独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するといえるなどの本件事実関係の下では、払戻金は営利を目的とする継続的行為から生じた所得として所得税法上の一時所得ではなく雑所得に当たるとした原判断は正当である。」とのあてはめをし、また、②については、「外れ馬券を含む全ての馬券の購入代金という費用が当たり馬券の払戻金という収入に対応するなどの本件事実関係の下では,外れ馬券の購入代金について当たり馬券の払戻金から所得税法上の必要経費として控除することができるとした原判断は正当である」と判示しました。

(5) 大阪事案に係る最高裁判決所得税法基本通達
 上記最高裁判決を受けて、所得税基本通達341は、「競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等(営利を目的とする継続的行為から生じたものを除く。)」とし、(注)として、「馬券を自動的に購入するソフトウエアを使用して独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ、一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有することが客観的に明らかである場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として雑所得に該当する。」等と改正されました

(6) 北海道事案について
 数日前に東京高裁判決がでた北海道事案のXは、地裁判決の認定事実によれば、「コンピュータソフトを使用して自動的に馬券を購入していたというわけではなく…中央競馬の各競馬場で行われるレースをテレビ(録画を含む。)で見たり、競馬新聞、競馬雑誌を購入したりして競走馬に関する情報を集めた上(…)、集めた情報に基づき、中央競馬に登録された競走馬について『2、400mくらいのレースならかなりの能力がありGI級』『芝コースは苦手だが、ダートコースの短距離戦が得意でオープンクラスまで行ける能力がある』『芝の短距離戦に適性が高く重賞を勝てる能力があるが、外側にほかの馬がいると走る気をなくす悪癖がある』などいった内容の絶対評価を行って(…)、レース毎に、① 馬の能力、② 騎手(技術)、③ コース適性、④ 枠順(ゲート番号)、⑤ 馬場状態への適性、⑥ レース展開、⑦ 補正、⑧ その日の馬のコンディションという考慮要素に基づいて各競走馬を評価した後(…)、上記のコース別レースシミュレーションによって補正をし(…)、レースの結果を予想して、予想の確度に応じた馬券の購入パターンにより、馬券の種類に応じて購入条件となる倍率を決めた購入基準に基づき、どのように馬券を購入するのかを個別に判断していた」といいます。このような購入方法により、Xは、200510年に計約727千万円の馬券を買って、計約784千万円の払戻金を得ました。
 第一審(東京地判平成27514日)は、「その馬券購入の態様は、一般的な競馬愛好家による馬券購入の態様と質的に大きな差があるものとは認められず、結局のところ、レース毎に個別の予想を行って馬券を購入していたというものであって、自動的、機械的に馬券を購入していたとまではいえないし、馬券の購入履歴や収支に関する資料が何ら保存されていないため、Xが網羅的に馬券を購入していたのかどうかを含めてXの馬券購入の態様は客観的には明らかでないことからすると(…)、Xによる一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するというべきほどのものとまでは認められない」等としてのXの請求を棄却しました。地裁判決は、具体的な馬券の購入履歴等が保存されていないことを重視しているようにもみえますね…。
 これに対し、控訴審(東高判平成28421日)は、報道によれば、「独自のノウハウで馬券を有効に選び、恒常的に多額の利益を上げていた」として、最高裁が上記判断基準に照らし、雑所得にあたるという結論を導いた購入方法と「本質的な違いがない」と判示したようです。
 控訴審の判決文を未だみていませんが、最高裁が総合考慮する事情としてあげているのは、「行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間」等なので、購入ソフトを使わず、独自のノウハウであっても、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」と判断できる場合もあるのではないかと思量されます。

<後記>
北海道事案について、平成29年12月15日、最高裁判決がでて、国の上告が棄却されました(↓)。
http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2017/12/blog-post_24.html

(7) それにしても…。
 私は、競馬の馬券を買ったことはおろか、レースをみたり、当たり馬券を予想したこともないのでよくわからないのですが…というか、数学的素養にかけるからピンと来ないのかもしれませんが…(汗)。
 判決文によると、競馬という公営賭博では、払戻金の総額が馬券の発売金額の75になるとのことです。このような比率の下、独自のノウハウを構築することにより(最高裁の事案では、市販のソフトを使用してはいますが、独自の条件設定と計算式を入れたとされています。)、偶発的要素を減殺して、恒常的に多額の利益をあげることは、どのくらいの難しさなのでしょうか。少なくとも、2つの事案があるので、可能なことは可能であるということなのでしょうが…(苦笑)。
 以前、NHKで放送されていた韓国ドラマの主人公のモデルは、元囲碁棋士で、ポーカーの世界チャンピオンになった伝説のギャンブラーだと聞いたことがあります。
 ポーカーや競馬というギャンブルでも、人間の英知により、偶発的要素を減殺することにより、職業とすることは可能なのですね。正に、天才のみに許される職業なのかもしれませんが…。

 どうも、上記諸諸判決の法的判断とは違う点に、興味がいってしまいます。

On April 21, 2016, the Tokyo High Court decided that the earnings from horsetrack betting shold not be the temporary income provided in Article 34 of the Income Tax Act, and the expediture of all slips, including losing bets, could be counted as the expenses provided in Article 37 of the said Act, considering the duration, the frequency, and the amount of the deal, even without using the software.
 

2.末森城址(城山八幡宮)

(1) 週末、末森城址にいってきました。

(2) 「末森城」(末盛城)は、天文17年(1548年)、織田信長の父、織田信秀により築かれました。
 信秀は、「末森城」の築城により、以前、ブログで触れた「古渡城」から「末森城」に移り、「守山城」を守る弟信光と連携して、三河の今川氏に対して備えたといいます。
 天文21年(1552年)、信秀が亡くなると、三男信行が城主となりますが、信行は、兄信長と対立し、稲生原(いのうがはら)の合戦を起こして敗れてしまい、永禄元年(1558年)、清州城におびきだされ謀殺されてします。その後、末森城は、廃城となりました。
 往時、末森城は、二重堀を廻らせていたそうで、その史跡は、現在の城山八幡宮の約1万坪の境内と殆どが重なり、室町時代末期における平山城の城址として、原形に近い姿を伝えているといいます(以上、城山八幡宮の案内掲示によります。)。
 「愛知の城」(山田柾之著)によれば、本丸を巡る内堀の北側にあった「三日月堀」と称する半月形の堀は非常に珍しく、貴重なものだったそうです。

(3) 実は、末森城址を訪れる前に、名古屋市博物館の常設展を拝見し、博物館の解説員の方から、だいたい、お城や神社は、水につからず地の利があるところに建てられている、名古屋城もしかり、地震による津波で名古屋駅近辺が浸水することはあっても、名古屋城は、台地の上に建てられており、浸水することはないだろう…という話をうかがったばかりでした。
 末森城址も、名古屋市内の市街地に突如、小高い鎮守の森が出現!といった感じで、感心しきりでした。ちなみに、城山八幡宮は、末森城の麓にあったものが、昭和11年、境内であった現末森城址に遷座した、とあります。なお、碑は「末森城」となっていますが、案内板によっては、「末盛城」と表記されていました。また、城址近くの通りの名称は、「末盛通」です。

I visited the site of Suemori Castle Ruins on the weekend.  The Suemori Castle was built in 1548 by Nobuhide Oda, who was the father of Nobunaga Oda, the legendary warload of Owari (the western part of Aichi).  The site is now located inside a shrine, Shiroyama Hachiman-gu, Chikusa-ku, Nagoya, and the relic you find are mainly dry moats covered with trees.
   
   
城山八幡宮の一の鳥居 (the first gateway)
     

一の鳥居をくぐった後、
空堀にかかる橋と二の鳥居
(the bridge over dry moats and the second gateway)

橋からみた空堀 (dry moats)

橋をわたって、階段をあがり、
三の鳥居をくぐった辺り(もと本丸付近?)
にある末森城址の碑 (a stone stela)

ご本堂のある小高い丘を空堀がぐるりと廻っていて
境内は1万坪もあるとのこと。

ご本堂 (the main hall of the shrine)。
藤が咲いており、甘い香りが漂っていました。
(Japanese Wisteria flowers were in bloom with sweet-smelling.)