1. 夫婦同氏(夫婦同姓)および女性の再婚禁止期間を定める民法の規定(それぞれ、民法750条、同773条1項)が憲法に違反していることを主張し、法改正を怠った立法不作為の違法を理由に、国家賠償法に基づく損害賠償を求めた事案で、先日(平成27年12月16日)、2つの最高裁判所大法廷判決がだされ、新聞やテレビで大きく報道されていました。
本日は、その話題を…。
2. 「補足意見」「意見」「反対意見」と2つの判決について
(1) 判決に入る前に、今回の報道に接して少々驚いたのは…。
夫婦同姓に係る判決で、女性3人を含む5人の反対意見があったと報道されていたことです。
(2) 最高裁に付される意見には、「補足意見」「意見」「反対意見」があり、違いがあります。「補足意見」は多数意見の理由に賛同するけど補足したい場合、「意見」は多数意見の理由とは違う理由で判決には賛同する場合、「反対意見」は、判決に反対する場合に付されます。
なので、5人の反対意見があったと聞くと、判決は、10対5だったのだなと思ってしまいます。
(3) 実は、どちらの事案でも、反対意見は山浦善樹裁判官のみが述べていて、あとは全員一致で、上告棄却と判決しています。
夫婦同氏制の事案では、民法の規定は違憲ではなく、国賠請求も認められないというのが多数意見による判決だったところ、女性3人を含む4人の裁判官から、民法の規定は違憲だけど、国賠請求は認められないとの意見が付されました。
他方、再婚禁止期間の事案では、100日を越えて再婚禁止期間を設ける部分は違憲だが、国賠請求は認められないというのが多数意見による判決であり、再婚禁止期間を設ける規定全部が違憲であるとする鬼丸かおり裁判官による意見が付されています。
そして、先ほど述べたように、どちらにも、規定は違憲だし、国賠請求も認められるとする山浦裁判官の反対意見が付されています。
3.夫婦同氏制事案(平成26年(オ)第1023号)の判決について
(1) 民法750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定めています(以下、「本件規定」といいます。)。
“氏”があって、“名”があって、はじめて“氏名”として、自他識別機能(自分が他人から識別され、自分として特定される機能)が生じます。夫婦同氏制を定める本件規定により、婚姻を機会に、夫婦の一方は氏を改めなければならず、そのことにより、アイデンティティの喪失を感じたり、自他識別機能が阻害され不利益を被ったりする方がおられることは、何ら、特別なことであるとは思えません。
ただ、本件規定が憲法違反といえるかといえば、また、別の話です。
まず、多数意見からご紹介していきます。
(2)憲法13条違反であるとの主張について
まず、上告人らは、「氏の変更を強制されない自由」が、憲法13条により保障される人格権の一内容を構成しており、本件規定は、これを不当に侵害するものであるから、憲法13条に違反すると主張しました。
多数意見は、氏名について、「社会的にみれば、個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが、同時に、その個人からみれば、人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成する」と、先例(最判63.2.26)をひいて、氏名が人格権を構成することは認めています。
ただ、多数意見は、氏が婚姻を含めた身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは、その性質上予定されており、そのような現行法制度の下における氏の性質等に鑑みると、「氏の変更を強制されない自由」は人格権の内容とは言えないとして、本件規定は憲法13条に違反しない等と判示しました。
(3)憲法14条1項違反であるとの主張について
現状、96%以上の夫婦において、夫の氏を選択しています。
上告人らは、かかる現状に鑑み、本件規定が性差別を発生させ、ほとんどの女性のみに不利益を負わせる効果を有するから、憲法14条1項に違反すると主張しました。
これに対して、多数意見は、憲法14条1項について、「事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものである」と先例(最判昭和39.5.27等)をひいた上で、本件規定はその文言上性別に基づく法的な性別的取り扱いを定めているわけではなく、本件規定自体に形式的不平等が存在するわけではない等として、本件規定は、憲法14条1項に違反しないとしています。
(4)憲法24条1項及び2項に違反するとの主張について
上告人らは、夫婦となろうとする者の一方が氏を改めることを婚姻届出の要件とすることで、実質的に婚姻の自由を侵害するものであり、憲法24条に違反する等と主張しました。
これに対して、多数意見は、夫婦同氏制は、旧民法の施行された明治31年に我が国の法制度として採用され、我が国の社会に定着してきたものであり、氏は、家族の呼称としての意義があるところ、その呼称を一つに定めることには合理性が認められ、特に婚姻の重要な効果として、夫婦間の子が夫婦の共同親権に服する嫡出子となるということがあるところ、嫡出子であることを示すために子が両親双方と同氏である仕組みを確保するにも一定の意義があり、氏の選択に関し、夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めている現状からすると、妻となる女性が不利益を受ける場合が多い状況が生じるとしても、このような不利益は、婚姻前の氏の通称使用が広まることにより、一定程度緩和され得る等として、夫婦同氏制は、個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であるとは認められず、本件規定は憲法24条に違反するものではないとしています。
(5) 以上の通り、多数意見は、本件規定は違憲ではないと判断した上で、本件規定を改廃する立法措置をとらない立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けないとして、上告人らの上告を棄却しています。
(6) 寺田逸郎裁判長の補足意見
法律関係のメニューに望ましい選択肢が用意されていない現行制度の不備を強調するような本事案の主張について、憲法適合性審査の中で裁判所が積極的な評価を与えることには、本質的な難しさがあるとし、民主主義的プロセスに委ねる(国会に任せる)ことがふさわしいと述べられています。
国会で…という点については、多数意見も、なお書きで、上告人らは、夫婦同氏制を規定と捉えた上で、これよりも規制の小さい氏に係る制度、例えば、選択的夫婦別氏制をとる余地がある点について指摘するけれど、この種の制度の在り方は、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄に他ならない等と判示しています。
(7)岡部喜代子裁判官の意見(櫻井龍子裁判官、鬼丸かおる裁判官が同調)
岡部裁判官は、近年女性の社会進出は著しく進んでおり、婚姻前後を通じて稼働する女性も増加し、婚姻による氏の変更により、識別困難となることは、単に不便であるというだけではなく、業績、実績などの法的利益に影響を与えかねず、しかも、社会のグローバル化やインタネット等で氏名が検索されることがあるなどの氏名自体が世界的な広がりを有するようになった社会では、氏による個人識別性の重要性はより大きい等といった現状に触れています。
そして、96%を超える夫婦が夫の氏を称することは、その意思決定の過程に現実の不平等と力関係が作用しており、その点の配慮をしないまま夫婦同氏に例外を設けないことは、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した制度とはいえない等とし、現時点では、本件規定は、憲法24条に違反すると述べておられます。
もっとも、憲法24条に違反することが明白であるということは困難であるとして、本件規定を改廃しない立法不作為は、国賠法上の違法の評価を受けないと、結論において、多数意見と同じとなっています。
(8)木内道祥裁判官の意見
木内裁判官も、夫婦同氏制は憲法24条にいう個人の尊厳と両性の本質的平等に違反するとしています。
すなわち、本件規定の憲法24条適合性で問題となる合理性は、夫婦が同氏であることの合理性はなく、夫婦同氏に例外を許さないことの合理性であるとした上で、同氏に例外を許さないことに合理性があるということはできないとします。
そして、多数意見が、夫婦同氏により嫡出子であることが示されること、両親と氏を同じくすることが子の利益であるとしている点について、夫婦にも別れがあり、離婚した父母が婚氏続称を選択しなければ氏を異にすることになるのだから、夫婦同氏によって育成に当たる父母が同氏であることが保障されるのは初婚が維持されている夫婦間の子だけであり、未成熟子育成の責任を担うのは夫婦であることもあれば、離婚した父母であることもあり、事実婚ないし未婚の父母であることもあるのであり、実質的に子の育成を十分に行うための仕組みを整えることが必要であるとされているのが今の時代であって、夫婦同氏であることが未成熟子の育成にとって支えとなるものではない等と述べられています。
4.感想
(1) 夫婦同氏制事案の判決のご紹介だけで、うんと長くなってしまったので、今回は、再婚禁止期間事案の判決については、パスします。
(2) 夫婦同氏事案に係る最高裁判決に対する感想ですが…。
今回の判決は、報道で大きく取り上げられたこともあり、その反響もそれなりに耳に入ってきます。本当に、様々な意見があり、賛成派と反対派の溝は思ったよりも深く、意外な方の意外な意見にびっくりすることも…。
(3) 私は、寺田逸郎裁判長の補足意見を読ませていただくと、なるほどなるほど…とは思うのですが、ただ、この件については、民主主義的プロセスに委ねていてもあまり変わりそうな気がしないなあ…とも思わずにはいられません。
女性裁判官3名の意見は、働く女性の視点から本件規定の現時点での憲法24条適合性について的確に論じられているとは思います。
もっとも、今回の最高裁判決を読んで、私が一番ハッとさせられたのは、木内裁判官の意見だったかもしれません。それは、子供の視点にも配慮されているように思ったからです。確かに、法律婚を尊重することは大切ですし、家族が同氏でまとまることは大変素晴らしいことであるとは思いますが、実際には、子供は色々な家庭で育てられているのであり、両親と子供が同じ氏でまとまることをあまり強調すると、一定の価値観を社会に醸成することになり、それが子供にとって酷な場合もあり得るのでは…と思うのです。
現在の夫婦同氏制は確かに社会に定着していますが、今回の最高裁判決に伴う報道で、明治維新後(正確には、明治9年以降)、夫婦同氏制が導入された明治31年までは、夫婦別氏制だったことを知りましたし、それ以前も(江戸時代は苗字帯刀が制限されていましたが…)、中国や韓国のように、夫婦別氏が原則だったともききます。
世の中の常識は、時代とともに、変化するのですから、あまり現時点での常識に軸足を深く突っ込みすぎるのも危険がないとはいえません。夫婦同氏制が違憲か否かはともかく、家族の形を定める法律自体が、もう少し多様性を許容することにより、社会全体の認識も変わっていく…という未来も、一考に値するのかな…と思ったりもしました。
5. 久しぶりのブログ更新で、また、だらだらと長く書いてしまいました。
最後に、話題をがらりとかえて、今年のクリスマスツリーをアップしてみます。
北欧風のつもり…?です(笑)。
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ストロー素材のオーナメントを中心に
北欧風(?)にまとめてみました。
何年か前に、イオンでお得にまとめ買いしてます。 |
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雪の結晶がついているレーステープがお気に入りです。
赤い帽子と赤い服の妖精は、
フィンランドではトントゥ(tonttu)、
スウエーデンではトムテ(tomtar)、
デンマークとノルウェーではニッセ(nisse)と
国によって呼び名は違うみたいですが、
サンタクロースのお手伝いをするらしいです。 |
ちなみに、去年のクリスマスツリーは、こちら(↓)。
http://www.hisaya-avenue.blogspot.jp/2014/12/stap.html