2014年9月9日火曜日

タックスヘイブン対策税制に係る更正処分等の取消請求訴訟において、名古屋地方裁判所が㈱デンソーの取消請求をほぼ認容


日本経済新聞2014年(平成26年)9月5日付夕刊に、以下の記事が出ていました(太字は筆者)。
 
名古屋国税局は、デンソーに対し、2009年3月期まで2年間約114億円の申告漏れを指摘し、約12億円を追徴課税した。シンガポールの子会社の所得が、デンソーの所得認定された。
デンソーによると、訴訟では海外に所得を移転して、税負担を軽減するタックスヘイブン(租税回避地)の対策税制が適用されるかどうかが争点だった。海外子会社に事業の運営実態があれば適用除外となる。
デンソーによると、判決シンガポールの子会社の海外事業に実態がある認定。対策税制の適用から除外され、デンソーへの追徴課税処分が取り消されたとみられる。
… デンソーのシンガポール子会社を巡っては、同国税局が11年3月期まで2年間約138億円の申告漏れを指摘し、約61億円を追徴課税した。デンソーはこの処分を巡っても提訴しており今回の司法判断はこの裁判にも影響しそうだ。」

デンソーのニュースリリースでは、「当社は、1990年にシンガポールへ進出して以来、地域統括サービスを中心とした事業展開を推進しており、在籍する人員の殆ど地域統括事業従事し、それに必要な固定施設等の実態備わった健全な事業展開をして参りました。」「適用除外要件を充たすとする当社の請求を認容する判決が言い渡されました。但し、所得金額約114億円のうち、約10億円については、当社の請求が認められませんでした。」(太字は筆者)等とあります。

タックスヘイブン(tax haven*というのは、法人の所得に対する税負担がゼロ、または、極めて低い国・地域のことです。

*ご存知の方も多いと思いますが、heaven(天国)ではなく、haven(避難所、安息の地)です。
 
わが国では、昭和53年からタックスヘイブン対策税制が導入されています。

この税制は簡単にいうと、内国法人等の「外国関係会社」(日本資本全体で計50%超を直接・間接に保有する外国法人)のうち、一定の税負担の水準以下適用対象となるか否かを判定するための基準税率を「トリガー税率」といいます。である「特定外国子会社」の所得に相当する金額について、内国法人等の所得みなし、それを合算して課税会社単位での合算課税)するという制度です。
なので、外国子会社合算税制とも、いわれますね。

この税制は、租税回避の防止が目的であるとされますので、特定外国子会社が、真正の事業活動を行っている場合を想定して設けられた適用除外基準いわゆる事業基準、実体基準、管理支配基準、非関連者基準又は所在地国基準を充たしていれば、合算課税されることはありません

上記引用新聞記事からすると、デンソーと名古屋国税局では、デンソーのシンガポールの子会社(デンソーの主張によれば、在籍する人員の殆ど地域統括事業従事し、それに必要な固定施設等の実態備わっている。)が適用除外基準を充たすかについて、解釈の相違があったと思量されます。

もっとも、この訴訟で両者(デンソーと国)が具体的にどのような主張をしたのかは、判決(名古屋地方裁判所平成26年9月4日判決)をみてみないとわかりません。残念なことに、上記引用新聞記事には、「判決は当事者の申し出で閲覧が制限されており、詳しい判決内容は明らかになっていない。」とあります。 

ところで、平成22年度税制改正では、タックスヘイブン税制(外国子会社合算税制)について、いわゆる「トリガー税率」が引き下げられた(25%→20%以下)ほか、企業実態を伴っていると認められる統括会社(事業持株会社、物流統括会社)の所得については合算対象となるように、適用除外要件等について、見直しがありました。この見直しの趣旨については、最近のグローバル経営を実施する我が国企業は、世界の地域ごと海外拠点を統括する統括会社をおき、その活用により、グループ企業の商流の一本化間接部門の合理化等を通じて、収益向上をはかっているという現状があることから、このような統括会社は租税回避目的で設立されたものとして捉えるのではなく、その地において事業活動を行うことに十分な経済合理性があると評価することが適当であるとされています(「平成22年度税制改正の解説」)。なお、適用除外基準に係る改正は、特定外国子会社等の平成22年(2010年)4月1日以後に開始する事業年度から適用されますので、恐らくではありますが、訴訟の対象となっているデンソーの2011年3月期までの課税処分とは関係ないでしょう。

判決、もしくは、諸誌等でもう少し詳しい判決の概要を入手できましたら、改正前後の条文を参照しながら、どのような適用除外の解釈がなされ得るのかを検討してみたいと思っています。

<後記>
名古屋高裁は、平成28年2月10日、デンソーを逆転敗訴とする判決を出したようです。
http://www.hisaya-avenue.blogspot.jp/2016/02/28210.html

<後記2>
平成222010)年3月期および平成232011)年3月期について、名古屋地裁平成29126日判決は、デンソーの主張を認め、課税処分を取り消しました。
http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2017/02/tokyo-district-courts-decision.html


<後記3>   名古屋高裁平成28年210日判決は、上告審である最高裁平成29年1024日判決で再びひっくり返り、デンソーの逆転勝訴となりました。
https://hisaya-avenue.blogspot.jp/2017/10/291024.html