1. 名古屋市内でも、街路樹が色づいています。
一昨日は、秋晴れ、天高く、事務所の近くの久屋大通公園の紅葉が、青空に映えて、とてもきれいでした。
一昨日は、秋晴れ、天高く、事務所の近くの久屋大通公園の紅葉が、青空に映えて、とてもきれいでした。
秋の日の久屋大通公園 |
今日は、ネットでみかけた税務の話題を一つ…。
2. 1週間ほど前の朝日新聞デジタルに、泡盛「残波」蔵元である酒造会社が、役員4人に支給した報酬計19億4000万円(4年間の基本報酬計12億7000万円と、退職慰労金6億7000万円)のうち6億円について、沖縄国税事務所に「不相当に高額」と判断されたため、その処分を不服として、東京地方裁判所で争っているという記事がでていました。
沖縄国税事務所は、沖縄県と熊本国税局管内(熊本、大分、宮崎、鹿児島)で、売上が同社の0.5~2倍の酒造会社約30社を抽出し、役員の基本報酬を比較したところ、同社のそれは平均額の4~9倍で、退職慰労金も高額であると認定したとのこと。
これに対し、同社は、裁判で、ライバルは泡盛メーカーでなく日本全国の大手酒造会社であると主張しているとのこと。
また、同社の創業者は、1990年代に特殊な技術を使った泡盛の製造法を完成させ、同社を短期間で代表的な企業に育てているとのことで、同社の代理人である山下清兵衛弁護士は、「社長らは業界トップと言える経営能力の持ち主なのに、近隣の経営者とだけ比較するのは違法な課税処分だ。法人税率より所得税率の方が高いので、租税回避には当たらない。国がみだりに役員報酬をおさえれば、勤労意欲を阻害し、中小企業の活力をそぐ」と主張しているそうです。
沖縄国税事務所は、沖縄県と熊本国税局管内(熊本、大分、宮崎、鹿児島)で、売上が同社の0.5~2倍の酒造会社約30社を抽出し、役員の基本報酬を比較したところ、同社のそれは平均額の4~9倍で、退職慰労金も高額であると認定したとのこと。
これに対し、同社は、裁判で、ライバルは泡盛メーカーでなく日本全国の大手酒造会社であると主張しているとのこと。
また、同社の創業者は、1990年代に特殊な技術を使った泡盛の製造法を完成させ、同社を短期間で代表的な企業に育てているとのことで、同社の代理人である山下清兵衛弁護士は、「社長らは業界トップと言える経営能力の持ち主なのに、近隣の経営者とだけ比較するのは違法な課税処分だ。法人税率より所得税率の方が高いので、租税回避には当たらない。国がみだりに役員報酬をおさえれば、勤労意欲を阻害し、中小企業の活力をそぐ」と主張しているそうです。
3. 法人税法34条2項は、「内国法人がその役員に対して支給する給与(前項又は次項の規定の適用があるものを除く。)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。」と規定しています。これを受けて、法人税法施行令70条1項は、以下のように定めています。
「次に掲げる金額のうちいずれか多い金額
イ.内国法人が各事業年度においてその役員に対して支給した給与(…)の額(…)が、当該役員の職務の内容、その内国法人の収益及びその使用人に対する給与の支給の状況、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額(…)
(以下、省略。)
(以下、省略。)
上記施行令の条項「イ」は実質基準とよばれています(他方、同条項ロ等は、形式基準とよばれています)。
4. ところで、平成18年5月に会社法が施行される以前は、取締役の賞与は利益処分とされていましたが、平成18年5月に施行された会社法361条は、取締役の報酬、賞与等を「職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」と整理し、取締役の賞与も、報酬と同一の手続により支給されることとなりました。
これを受け、会計基準は、「役員賞与は、発生した会計期間の費用として処理する」とされました(企業会計基準第4号「役員賞与に関する会計基準」「3」)。
法人税法は、会社法施行前、役員報酬と役員賞与とを区分し、役員賞与については損金に算入しないこととし、役員報酬のうち、不相当に高額な部分の金額を損金に算入しない等としていました。その趣旨について、裁判例(名古屋地方裁判所平成6年6月15日判決)は、「役員報酬は役務の対価として企業会計上は損金に算入されるべきものであるところ、法人によっては実際は賞与にあたるものを報酬の名目で役員に給付する傾向があるため、そのような隠れた利益処分に対処し、課税の公正を確保しようとするところにある。」と判示しています。
ところが、上記の通り、会社法の改正により、賞与は利益処分でなくなり、会計上も、費用として処理することとなりました。
これを受け、法人税法も、平成18年に改正されました。
改正された法人税法では、報酬と賞与を区分しない役員給与という概念に基づき、新たに、定期同額給与(法人税法34条1項1号)、事前確定届出給与(同条項2号)、利益連動給与(同条項3号)といった3つの概念を導入した上で、損金算入を認めることとしました。これらについて、国税庁は、「いずれもその役員給与があらかじめ定められているかどうかを重要な判断基準として整理されたものであり、あらかじめ定められたところに従い支給される給与については、法人税法第34条第1項各号の要件を満たせば損金算入されるという制度であるといえる。」と解説しています(「平成19年3月13日付課法2-3ほか1課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明」法人税法基本通達9-2-46の解説)。
あらかじめ定められていれば、損金算入できる…?。俄かには、その趣旨が理解しがたいところですが、「平成18年 改正税法のすべて」では、その改正の趣旨について、以下のように記されています。
「法人が支給する役員給与については、役員に直接的に経済的利益を帰属させるというその態様から、お手盛り的な支給が懸念され、会社法制上も特段の手続的規制に服するものとされています。税制上の観点からは、このような性質の経費について法人段階での損金算入を安易に認め、結果として法人の税負担の減少を容認することは、課税の公平の観点からもとより問題があります。加えて役員給与については、支給を受ける側の課税関係において、未払計上の場合にあっては所得税法上の所与に該当しない部分についての現実の支払時まで個人所得税の負担が生じないこととされ、また、未払計上でない場合にあっても支給額に応じて逓増する給与所得控除部分が課税されないこととされており、こうした中で法人段階での安易な損金算入を認めれば、法人・個人を通じた税負担の軽減効果が高く、課税上の弊害が極めて大きい仕組みとなってしまいます。…
今般の税制改正においては、会社法制や会計制度など周辺的な制度が大きく変わる機会を捉えて、こうした役員給与の損金算入の在り方を見直すこととし、具体的には、従来の役員報酬に相当するものだけでなく、事前の定めにより役員給与の支給時期・支給額に対する恣意性が排除されているものについて損金算入を認めることとするとともに、従来課税上の弊害が最も大きいと考えられた法人の利益と連動する役員給与についてもその適正性や透明性が担保されていることを条件に損金算入を認めることとしました。」
う~ん…すとんとは、腹に落ちない方もいらっしゃるかもしれませんね…。
これを受け、会計基準は、「役員賞与は、発生した会計期間の費用として処理する」とされました(企業会計基準第4号「役員賞与に関する会計基準」「3」)。
法人税法は、会社法施行前、役員報酬と役員賞与とを区分し、役員賞与については損金に算入しないこととし、役員報酬のうち、不相当に高額な部分の金額を損金に算入しない等としていました。その趣旨について、裁判例(名古屋地方裁判所平成6年6月15日判決)は、「役員報酬は役務の対価として企業会計上は損金に算入されるべきものであるところ、法人によっては実際は賞与にあたるものを報酬の名目で役員に給付する傾向があるため、そのような隠れた利益処分に対処し、課税の公正を確保しようとするところにある。」と判示しています。
ところが、上記の通り、会社法の改正により、賞与は利益処分でなくなり、会計上も、費用として処理することとなりました。
これを受け、法人税法も、平成18年に改正されました。
改正された法人税法では、報酬と賞与を区分しない役員給与という概念に基づき、新たに、定期同額給与(法人税法34条1項1号)、事前確定届出給与(同条項2号)、利益連動給与(同条項3号)といった3つの概念を導入した上で、損金算入を認めることとしました。これらについて、国税庁は、「いずれもその役員給与があらかじめ定められているかどうかを重要な判断基準として整理されたものであり、あらかじめ定められたところに従い支給される給与については、法人税法第34条第1項各号の要件を満たせば損金算入されるという制度であるといえる。」と解説しています(「平成19年3月13日付課法2-3ほか1課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明」法人税法基本通達9-2-46の解説)。
あらかじめ定められていれば、損金算入できる…?。俄かには、その趣旨が理解しがたいところですが、「平成18年 改正税法のすべて」では、その改正の趣旨について、以下のように記されています。
「法人が支給する役員給与については、役員に直接的に経済的利益を帰属させるというその態様から、お手盛り的な支給が懸念され、会社法制上も特段の手続的規制に服するものとされています。税制上の観点からは、このような性質の経費について法人段階での損金算入を安易に認め、結果として法人の税負担の減少を容認することは、課税の公平の観点からもとより問題があります。加えて役員給与については、支給を受ける側の課税関係において、未払計上の場合にあっては所得税法上の所与に該当しない部分についての現実の支払時まで個人所得税の負担が生じないこととされ、また、未払計上でない場合にあっても支給額に応じて逓増する給与所得控除部分が課税されないこととされており、こうした中で法人段階での安易な損金算入を認めれば、法人・個人を通じた税負担の軽減効果が高く、課税上の弊害が極めて大きい仕組みとなってしまいます。…
今般の税制改正においては、会社法制や会計制度など周辺的な制度が大きく変わる機会を捉えて、こうした役員給与の損金算入の在り方を見直すこととし、具体的には、従来の役員報酬に相当するものだけでなく、事前の定めにより役員給与の支給時期・支給額に対する恣意性が排除されているものについて損金算入を認めることとするとともに、従来課税上の弊害が最も大きいと考えられた法人の利益と連動する役員給与についてもその適正性や透明性が担保されていることを条件に損金算入を認めることとしました。」
う~ん…すとんとは、腹に落ちない方もいらっしゃるかもしれませんね…。
5. 平成18年の法人税法改正で「役員報酬」が「役員給与」にかわっても、役員報酬のうち不相当に高額な部分の金額を損金に算入しない(過大役員報酬不算入)という制度は、ほぼ同様の内容で残りました(改正前法人税法34条1項及び同施行令69条 → 改正後法人税法34条2項及び同施行令70条1号)。
平成18年法人税法改正前の条項に基づき、不相当に高額な部分について損金算入を認めないという処分が争われた裁判例、判例は、いくつかあります。
前述の名古屋地方裁判所平成6年6月15日判決は、処分行政庁の「本件類似法人の役員報酬額の平均値を基準とし、原告にこれを増減すべき固有の特別事情があるか否かを検討すべきである」という主張については、「令69条1号の文言からそのような結論を導き出すことはできない上、平均値が原則的として相当な報酬額の上限であるとすべき合理的根拠もない」と判示したものの、納税者の請求は棄却しています。
また、「不相当に高額な部分の金額」という規定ぶりについては、不確定概念であるといえることから、法律家であれば、誰しも、課税要件明確主義に反しないかという論点がうかぶでしょう。
すなわち、「憲法84条は、租税は、法律又は法律の定める条件によるべきことを要求しているところ(租税法律主義)、その趣旨は、租税を課すことは国民から強制的に財産権を奪うものであり、国民の権利義務にかかわることであるから、その内容及び手続きを全国民を代表する選挙された議員によって組織構成される国会の定めた法律又は法律の定める条件によらしめ、もって、行政当局による恣意的な課税が行われることを防止しようというものであると解される。したがって、納税義務者、課税物件、課税標準、税率等の課税要件及び租税の賦課、徴収の課税手続きは法律で定められなければならず、(課税要件法律主義)、また、課税要件及び租税の賦課、徴収の手続きは、明確に定められなければならない(課税要件明確主義)から、課税要件にかかわる租税法規は、できるだけ明確にさだめることが求められる」(札幌地判平成11年12月10日判決)のです。
これについては、前記名古屋地判の上告審である最高裁平成9年3月25日判決が、「法人税法34条1項所定の『不相当に高額な部分の金額』の概念が、不明確で漠然としているということはできない」と判示しています。
また、東京高裁平成23年2月24日判決は、しょうちゅうの製造および販売等を目的とする同族会社の非常勤取締役に対する役員報酬について、過大役員報酬損金不算入が争点となった事案ですが、「しょうちゅうのように、ブランド力によって価格設定等が大きく異なる業界においては、製造される製品が類似することのみによって収益率等が類似するとはいえないから、熊本国税局管内のしょうちゅうメーカーのみを比較対象とする被控訴人の主張を採用した原判決は不当である」という納税者の主張に対し、「法人税法施行令69条1号の規定は、…と定めているものであり、このようにして適正な報酬額を超えるか否かを判断するのが合理的であるとの見地に基づいているものと解される。そして、類似法人における類似役員に支給される報酬額の平均値に比準して適正報酬額を求める場合には、当該法人と類似法人間に通常存在する程度の営業条件等の差異は平均値の中に捨象されるものと考えられるから、その差異が平均値に比準するのを相当としない程度に顕著であるといえない限り、これを無視して差し支えないものというべきである」とした上で、「控訴人製造のしょうちゅう『D』は相当のブランド力を有するものと認められるが、比較対象法人とされた類似法人と控訴人との間のブランド力を含む営業条件等の差異が、これらの類似法人において類似役員に支給される報酬額の平均値に比準するのを相当としない程度に顕著であると認めるに足りる事情は何らうかがわれない」等と、判示しています。
平成18年法人税法改正前の条項に基づき、不相当に高額な部分について損金算入を認めないという処分が争われた裁判例、判例は、いくつかあります。
前述の名古屋地方裁判所平成6年6月15日判決は、処分行政庁の「本件類似法人の役員報酬額の平均値を基準とし、原告にこれを増減すべき固有の特別事情があるか否かを検討すべきである」という主張については、「令69条1号の文言からそのような結論を導き出すことはできない上、平均値が原則的として相当な報酬額の上限であるとすべき合理的根拠もない」と判示したものの、納税者の請求は棄却しています。
また、「不相当に高額な部分の金額」という規定ぶりについては、不確定概念であるといえることから、法律家であれば、誰しも、課税要件明確主義に反しないかという論点がうかぶでしょう。
すなわち、「憲法84条は、租税は、法律又は法律の定める条件によるべきことを要求しているところ(租税法律主義)、その趣旨は、租税を課すことは国民から強制的に財産権を奪うものであり、国民の権利義務にかかわることであるから、その内容及び手続きを全国民を代表する選挙された議員によって組織構成される国会の定めた法律又は法律の定める条件によらしめ、もって、行政当局による恣意的な課税が行われることを防止しようというものであると解される。したがって、納税義務者、課税物件、課税標準、税率等の課税要件及び租税の賦課、徴収の課税手続きは法律で定められなければならず、(課税要件法律主義)、また、課税要件及び租税の賦課、徴収の手続きは、明確に定められなければならない(課税要件明確主義)から、課税要件にかかわる租税法規は、できるだけ明確にさだめることが求められる」(札幌地判平成11年12月10日判決)のです。
これについては、前記名古屋地判の上告審である最高裁平成9年3月25日判決が、「法人税法34条1項所定の『不相当に高額な部分の金額』の概念が、不明確で漠然としているということはできない」と判示しています。
また、東京高裁平成23年2月24日判決は、しょうちゅうの製造および販売等を目的とする同族会社の非常勤取締役に対する役員報酬について、過大役員報酬損金不算入が争点となった事案ですが、「しょうちゅうのように、ブランド力によって価格設定等が大きく異なる業界においては、製造される製品が類似することのみによって収益率等が類似するとはいえないから、熊本国税局管内のしょうちゅうメーカーのみを比較対象とする被控訴人の主張を採用した原判決は不当である」という納税者の主張に対し、「法人税法施行令69条1号の規定は、…と定めているものであり、このようにして適正な報酬額を超えるか否かを判断するのが合理的であるとの見地に基づいているものと解される。そして、類似法人における類似役員に支給される報酬額の平均値に比準して適正報酬額を求める場合には、当該法人と類似法人間に通常存在する程度の営業条件等の差異は平均値の中に捨象されるものと考えられるから、その差異が平均値に比準するのを相当としない程度に顕著であるといえない限り、これを無視して差し支えないものというべきである」とした上で、「控訴人製造のしょうちゅう『D』は相当のブランド力を有するものと認められるが、比較対象法人とされた類似法人と控訴人との間のブランド力を含む営業条件等の差異が、これらの類似法人において類似役員に支給される報酬額の平均値に比準するのを相当としない程度に顕著であると認めるに足りる事情は何らうかがわれない」等と、判示しています。
6. 冒頭の泡盛の訴訟において、山下清兵衛弁護士が具体的にどのような主張をされるのかわかりませんが、その判決の行方に注目したいと思います。
<後記>
東京地裁は、平成28年4月22日、納税者一部勝訴の判決を出したようです。
http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2016/04/blog-post.html
<後記>
東京地裁は、平成28年4月22日、納税者一部勝訴の判決を出したようです。
http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2016/04/blog-post.html