1. デンソーのシンガポール子会社へのタックスヘイブン対策税制適用の可否が争点となったデンソー事案につきましては、このブログで何度がとりあげています。
2. この事案は、平成22年、刈谷税務署長が、デンソーに対し、租税特別措置法66条の6(いわゆる「タックスヘイブン対策税制」)に基づき、デンソーのシンガポール子会社Aの課税対象留保金額に相当する金額はデンソーの平成20(2008)年3月期及び21(2009)年3月期の益金に算入されるとしておこなった法人税の更正処分等(以下、「本件各処分」といいます。)に対し、デンソーがその取り消しを求めたものです。
名古屋地裁平成26年9月4日判決は、デンソーの主張を認め、本件各処分を一部取り消しました。
http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2014/09/blog-post_9.html
これに対し、名古屋高裁平成28年2月10日判決(藤山雅行裁判長)は、原審の国敗訴部分を取り消し、デンソーが逆転敗訴していました。
http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2016/02/28210.html
また、平成22(2010)年3月期および平成23(2011)年3月期について、名古屋地裁平成29年1月26日判決が、デンソーの主張を認め、課税処分を取り消しました(デンソー勝訴)。
https://hisaya-avenue.blogspot.jp/2017/02/tokyo-district-courts-decision.html
そして、一昨日、今度は、上告審である最高裁第3小法廷(山崎敏充裁判長)が、デンソーに対する本件各処分等を一部取り消した第一審判決を支持する内容の判決、すなわち、再び、デンソーを逆転勝訴させる判決をだしたのです(最高裁第三小法廷平成29年10月24日判決)。
この結末は、先日、上告審で弁論期日が開かれていたことから、ある程度は、予想できたといえます。
http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2017/07/the-supreme-court-decided-to-hear.html
名古屋地裁平成26年9月4日判決は、デンソーの主張を認め、本件各処分を一部取り消しました。
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これに対し、名古屋高裁平成28年2月10日判決(藤山雅行裁判長)は、原審の国敗訴部分を取り消し、デンソーが逆転敗訴していました。
http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2016/02/28210.html
また、平成22(2010)年3月期および平成23(2011)年3月期について、名古屋地裁平成29年1月26日判決が、デンソーの主張を認め、課税処分を取り消しました(デンソー勝訴)。
https://hisaya-avenue.blogspot.jp/2017/02/tokyo-district-courts-decision.html
そして、一昨日、今度は、上告審である最高裁第3小法廷(山崎敏充裁判長)が、デンソーに対する本件各処分等を一部取り消した第一審判決を支持する内容の判決、すなわち、再び、デンソーを逆転勝訴させる判決をだしたのです(最高裁第三小法廷平成29年10月24日判決)。
この結末は、先日、上告審で弁論期日が開かれていたことから、ある程度は、予想できたといえます。
http://hisaya-avenue.blogspot.jp/2017/07/the-supreme-court-decided-to-hear.html
3. 我が国では、昭和53年からタックスヘイブン対策税制が導入されています。
この税制は簡単にいうと、内国法人等の「外国関係会社」(日本資本全体で計50%超を直接・間接に保有する外国法人)のうち、一定の要件※を充たす「特定外国子会社等」の所得に相当する金額について、内国法人等の所得とみなし、それを合算して課税(会社単位での合算課税)するという制度です。
なので、外国子会社合算税制(または「CFC(Controlled Foreign Company) 税制」)とも、いわれますね。
デンソー事件最高裁判決は、同税制について、タックスヘイブンに子会社を設立して当該子会社に所得を留保することにより、「我が国における租税負担を回避する事例が生ずるようになったことから、このような事例に対処して税負担の実質公平を図ることを目的として」いる旨、述べています。
このように、同税制は、租税回避の防止・税負担の実質的公平が目的であるとされるので、「特定外国子会社等」が、真正の事業活動を行っている場合を想定して設けられた適用除外基準(いわゆる事業基準、実体基準、管理支配基準、非関連者基準又は所在地国基準)を充たしていれば、合算課税されることはありません。
この点、デンソー事件最高裁判決は、「特定外国子会社等であっても、独立企業としての実態を備え、その所在する国または地域において事業活動を行うことにつき十分な経済合理性がある場合にまで同税制を適用すると、我が国の民間企業の海外における正常かつ合理的な経済活動を阻害する恐れがある」としています。
また、適用除外要件のうち、租税特別措置法66条の6第4項が株式の保有を主たる事業とする特定外国子会社等について事業基準を満たさないこととした趣旨については、「株式の保有に係る事業はその性質上我が国においても十分に行い得るものであり、タックス・ヘイブンに所在して行うことについて税負担の軽減以外に積極的な経済合理性を見出し難いことにある。」としています。
※適用対象となるか否かを判定するための基準税率を「トリガー税率」といっていました。
平成29年度税制改正では、「トリガー税率」は廃止され、制度適用免除基準としての「税率基準(租税負担割合)」となるようです。
この税制は簡単にいうと、内国法人等の「外国関係会社」(日本資本全体で計50%超を直接・間接に保有する外国法人)のうち、一定の要件※を充たす「特定外国子会社等」の所得に相当する金額について、内国法人等の所得とみなし、それを合算して課税(会社単位での合算課税)するという制度です。
なので、外国子会社合算税制(または「CFC(Controlled Foreign Company) 税制」)とも、いわれますね。
デンソー事件最高裁判決は、同税制について、タックスヘイブンに子会社を設立して当該子会社に所得を留保することにより、「我が国における租税負担を回避する事例が生ずるようになったことから、このような事例に対処して税負担の実質公平を図ることを目的として」いる旨、述べています。
このように、同税制は、租税回避の防止・税負担の実質的公平が目的であるとされるので、「特定外国子会社等」が、真正の事業活動を行っている場合を想定して設けられた適用除外基準(いわゆる事業基準、実体基準、管理支配基準、非関連者基準又は所在地国基準)を充たしていれば、合算課税されることはありません。
この点、デンソー事件最高裁判決は、「特定外国子会社等であっても、独立企業としての実態を備え、その所在する国または地域において事業活動を行うことにつき十分な経済合理性がある場合にまで同税制を適用すると、我が国の民間企業の海外における正常かつ合理的な経済活動を阻害する恐れがある」としています。
また、適用除外要件のうち、租税特別措置法66条の6第4項が株式の保有を主たる事業とする特定外国子会社等について事業基準を満たさないこととした趣旨については、「株式の保有に係る事業はその性質上我が国においても十分に行い得るものであり、タックス・ヘイブンに所在して行うことについて税負担の軽減以外に積極的な経済合理性を見出し難いことにある。」としています。
※適用対象となるか否かを判定するための基準税率を「トリガー税率」といっていました。
平成29年度税制改正では、「トリガー税率」は廃止され、制度適用免除基準としての「税率基準(租税負担割合)」となるようです。
4.(1) ところで、デンソーは、35の国と地域で事業を展開し、全世界に200以上のグループ会社を有する自動車関連部品の製造販売等を目的とする株式会社であり、問題となったシンガポール子会社Aは、豪亜地域における各拠点間の事業活動の調整およびサポートを行う目的で、シンガポールに地域統括センターとして設立されました。
Aは、ASEAN台湾域内のグループ会社の持株会社の側面もありましたが、持株に関する業務(株主総会、配当処理等)のみならず、豪亜地域の地域統括会社として、地域企画、調達、財務、材料技術、人事、情報システム及び物流改善に係る地域統括に関する業務(「地域統括業務」)を行っていました。
Aは、シンガポールの現地事務所を賃借し、事務用什器備品、車両等の有形固定資産を保有し、これらはすべて持株に関する業務以外、大半は地域統括業務に供されていました。
現地勤務の従業員は三十数人いましたが、20人以上は地域統括業務に従事し、持株に関する業務のみに従事しているものはいませんでした。
他方、Aの収入金額のうち、地域統括業務の中の物流改善業務に関する売上額は、収入金額の約85%を占めておりましたが、所得金額(税引前当期利益)となりますと、保有株式の受取配当の占める割合が約9割となっていました。
(2)このような事案のもと、名古屋高裁(控訴審)は、次のように、地域統括業務は、株式保有業に含まれる業務にすぎないとし、また、実質的にもAの主たる事業は株式の保有であるとして、Aは事業基準を満たさず、本件各処分は適法であると判示しました。
「持株会社とは、…『株式(社員の持分を含む。以下同じ。)を所有することにより、国内の会社の事業活動を支配することを主たる事業とする会社』をいうのであるから、単に株式を保有して配当を受けるにとどまらず、株式所有に基づく資本参加によって会社機関の意思形成に決定的な影響力を与えることをもって、本来自由であるべき他会社の事業活動をその主要な事項に関し自己の意思に従って統一的に指揮することを通して当該株式発行会社を支配するものを含むのであって、このような持株会社は、本件で問題となっている地域統括機能を含む被支配会社に対する管理機能を中心的な業務とするものである。したがって、地域統括業務等の被支配会社を管理する業務は、株式保有業に含まれる業務にすぎず、株式保有業から独立した事業とはいえない。」
(3)これに対し、最高裁は、まず、次のように、Aの行っていた地域統括業務は、株式の保有に係る事業に含まれないと判示しました。
「他の会社の株式を保有する特定外国子会社等が、当該会社を統括し管理するための活動として事業方針の策定や業務執行の管理、調整等に係る業務を行う場合、このような業務は、通常、当該会社の業務の合理化、効率化等を通じてその収益性の向上を図ることを直接の目的として、その内容も上記のとおり幅広い範囲に及び、これによって当該会社を含む一定の範囲に属する会社を統括していくものであるから、その結果として当該会社の配当額の増加や資産価値の上昇に資することがあるとしても、株主権の行使や株式の運用に関連する業務等とは異なる独自の目的、内容、機能等を有するものというべきであって、上記の業務が株式の保有に係る事業に包含されその一部を構成すると解するのは相当ではない。」
また、租税特別措置法66条の6第3項及び4項の「主たる事業」の判定について、「特定外国子会社等の当該事業年度における事業活動の具体的かつ客観的な内容から判定することが相当であり、特定外国会社等が複数の事業を営んでいるときは、当該特定外国子会社等におけるそれぞれの事業活動によって得られた収入金額又は所得金額、事業活動に要する使用人の数、事務所、店舗、工場その他の固定施設の状況等を総合的に勘案して判定するのが相当である。」としました。
そして、Aの主たる事業は、地域統括業務であったと認定し、Aは事業基準を満たし、また、その他の適用除外要件もすべて満たすので、これを満たさないとしてなされた本件各処分は違法であると判示したのです。
5.雑感
最高裁判決でも触れられていますが、タックスヘイブン対策税制については、平成22年度税制改正により、企業実態を伴っていると認められる統括会社(事業持株会社、物流統括会社)の所得については合算対象外となるように、適用除外要件等について、見直しがありました。この見直しの趣旨については、最近のグローバル経営を実施する我が国企業は、世界の地域ごとに海外拠点を統括する統括会社をおき、その活用により、グループ企業の商流の一本化、間接部門の合理化等を通じて、収益向上をはかっているという現状があることから、このような統括会社は、租税回避目的で設立されたものとして捉えるのではなく、その地において事業活動を行うことに十分な経済合理性があると評価することが適当であるとされています(「平成22年度税制改正の解説」)。
穿った見方をすると、デンソーに対する更正処分等は、この改正前に…とみえなくもありません。
この点、そもそも、同税制は、前述のとおり、租税回避の防止・税負担の実質的公平が目的であるとされるところ、この改正は、租税回避に利用し得る抜け道があったため税負担の実質的公平の観点からこれを塞ぐべくおこなわれた…というものではありません。
生き馬の目を抜くような厳しい国際社会にあって、海外企業との価格競争に鎬を削っている日本企業の間に、ヨーロッパ、米、欧亜といった地域ごとに、グループ企業を統括する会社を設立する動きがあるのに配慮し、適用除外要件を緩めようとしてなされた改正です。
東京高裁は、課税庁の判断を支持していますので、本事案は、難しい法適用上の論点を含んでいるとはいえますし、改正法が遡及適用されることはないのですが、やはり、同制度および適用除外要件がもうけられた趣旨にそって、本事案の認定事実を評価すると、最高裁の結論に至るべきではないかと思えてなりません。
Aは、ASEAN台湾域内のグループ会社の持株会社の側面もありましたが、持株に関する業務(株主総会、配当処理等)のみならず、豪亜地域の地域統括会社として、地域企画、調達、財務、材料技術、人事、情報システム及び物流改善に係る地域統括に関する業務(「地域統括業務」)を行っていました。
Aは、シンガポールの現地事務所を賃借し、事務用什器備品、車両等の有形固定資産を保有し、これらはすべて持株に関する業務以外、大半は地域統括業務に供されていました。
現地勤務の従業員は三十数人いましたが、20人以上は地域統括業務に従事し、持株に関する業務のみに従事しているものはいませんでした。
他方、Aの収入金額のうち、地域統括業務の中の物流改善業務に関する売上額は、収入金額の約85%を占めておりましたが、所得金額(税引前当期利益)となりますと、保有株式の受取配当の占める割合が約9割となっていました。
(2)このような事案のもと、名古屋高裁(控訴審)は、次のように、地域統括業務は、株式保有業に含まれる業務にすぎないとし、また、実質的にもAの主たる事業は株式の保有であるとして、Aは事業基準を満たさず、本件各処分は適法であると判示しました。
「持株会社とは、…『株式(社員の持分を含む。以下同じ。)を所有することにより、国内の会社の事業活動を支配することを主たる事業とする会社』をいうのであるから、単に株式を保有して配当を受けるにとどまらず、株式所有に基づく資本参加によって会社機関の意思形成に決定的な影響力を与えることをもって、本来自由であるべき他会社の事業活動をその主要な事項に関し自己の意思に従って統一的に指揮することを通して当該株式発行会社を支配するものを含むのであって、このような持株会社は、本件で問題となっている地域統括機能を含む被支配会社に対する管理機能を中心的な業務とするものである。したがって、地域統括業務等の被支配会社を管理する業務は、株式保有業に含まれる業務にすぎず、株式保有業から独立した事業とはいえない。」
(3)これに対し、最高裁は、まず、次のように、Aの行っていた地域統括業務は、株式の保有に係る事業に含まれないと判示しました。
「他の会社の株式を保有する特定外国子会社等が、当該会社を統括し管理するための活動として事業方針の策定や業務執行の管理、調整等に係る業務を行う場合、このような業務は、通常、当該会社の業務の合理化、効率化等を通じてその収益性の向上を図ることを直接の目的として、その内容も上記のとおり幅広い範囲に及び、これによって当該会社を含む一定の範囲に属する会社を統括していくものであるから、その結果として当該会社の配当額の増加や資産価値の上昇に資することがあるとしても、株主権の行使や株式の運用に関連する業務等とは異なる独自の目的、内容、機能等を有するものというべきであって、上記の業務が株式の保有に係る事業に包含されその一部を構成すると解するのは相当ではない。」
また、租税特別措置法66条の6第3項及び4項の「主たる事業」の判定について、「特定外国子会社等の当該事業年度における事業活動の具体的かつ客観的な内容から判定することが相当であり、特定外国会社等が複数の事業を営んでいるときは、当該特定外国子会社等におけるそれぞれの事業活動によって得られた収入金額又は所得金額、事業活動に要する使用人の数、事務所、店舗、工場その他の固定施設の状況等を総合的に勘案して判定するのが相当である。」としました。
そして、Aの主たる事業は、地域統括業務であったと認定し、Aは事業基準を満たし、また、その他の適用除外要件もすべて満たすので、これを満たさないとしてなされた本件各処分は違法であると判示したのです。
5.雑感
最高裁判決でも触れられていますが、タックスヘイブン対策税制については、平成22年度税制改正により、企業実態を伴っていると認められる統括会社(事業持株会社、物流統括会社)の所得については合算対象外となるように、適用除外要件等について、見直しがありました。この見直しの趣旨については、最近のグローバル経営を実施する我が国企業は、世界の地域ごとに海外拠点を統括する統括会社をおき、その活用により、グループ企業の商流の一本化、間接部門の合理化等を通じて、収益向上をはかっているという現状があることから、このような統括会社は、租税回避目的で設立されたものとして捉えるのではなく、その地において事業活動を行うことに十分な経済合理性があると評価することが適当であるとされています(「平成22年度税制改正の解説」)。
穿った見方をすると、デンソーに対する更正処分等は、この改正前に…とみえなくもありません。
この点、そもそも、同税制は、前述のとおり、租税回避の防止・税負担の実質的公平が目的であるとされるところ、この改正は、租税回避に利用し得る抜け道があったため税負担の実質的公平の観点からこれを塞ぐべくおこなわれた…というものではありません。
生き馬の目を抜くような厳しい国際社会にあって、海外企業との価格競争に鎬を削っている日本企業の間に、ヨーロッパ、米、欧亜といった地域ごとに、グループ企業を統括する会社を設立する動きがあるのに配慮し、適用除外要件を緩めようとしてなされた改正です。
東京高裁は、課税庁の判断を支持していますので、本事案は、難しい法適用上の論点を含んでいるとはいえますし、改正法が遡及適用されることはないのですが、やはり、同制度および適用除外要件がもうけられた趣旨にそって、本事案の認定事実を評価すると、最高裁の結論に至るべきではないかと思えてなりません。