2019年9月29日日曜日

ラグビー&要件事実論


1. ワールドカップラグビーの対アイルランド戦での日本の勝利には、歓喜してしまいました。
 次戦は、豊田スタジアムでサモア戦ですね。残念ながら、チケットをとれなかったので、自宅で応援します!

 
豊田スタジアムで行われた
ウエールズ対ジョージア戦です。

2. ところで、この夏は、「税法学」に寄稿するため、要件事実等を“しこたま”お勉強しました。要件事実論は、奥が深くて、どこまで理解できているのか不安でなりません。
 しかも、要件事実論は、究極的には民事裁判において判決を書くためのスキルですから、「現実の裁判では、司法研修所で教えたとおりになんかやってないよ~」といわれてしまえば、それまで?と思うと、虚脱感が忍び寄ってきます。司法研修所で教えていたからには、要件事実論(というかいわゆる”白表紙”)は、てっきり、法曹の共通言語であると思っていたのに、そうでもなかったようです。特に、規範的要件の主要事実説&抗弁説は、ベテラン裁判官からは異論があるのでしょうか。(ハマキョウレックス判決が)「規範的要件の評価根拠事実(及び評価障害事実)の『立証責任』を各当事者が負うと明言してしまったのですから、ベテラン裁判官は頭を抱えざるを得ませんでした。」「司法研修所の見解であるため、それを表向き否定することはできないが、しかし、それをそのまま判決に使わないということは、まさに、口頭で伝承するしかない共通の『暗黙知』でした」(岡口基一『裁判官は劣化しているのか』137138頁)なんていわれると、それはないよなあ…と思ってしまいます。
 近年、先輩や同期から、司法研修所では、要件事実論をちゃんと教えているのか?という疑問の投げかけを耳にします。実は、司法制度改革により、要件事実論は、司法研修所ではなく、ロースクールで教えているようです。でも、今回、規範的要件について、期が若くはない同業者にたずねても、「司法研修所でそんなこと習ったっけ?」との回答が返ってくることもありました。もしかして、期には関係ないのかな…?。私より何期か上の司法試験合格者の頃は、両訴の受験ではなく、民事訴訟法より刑事訴訟法の方が若くして合格できると人気であったときいています。もっとも、二回試験に合格しているから、単に、忘れているだけだと思いますが…。裁判官については、よくわかりませんが、結局、司法研修所だけでなく、岡口裁判官のいうように、民事部での飲みニケ-ションなど、先輩裁判官からの指導も大きかったのでしょうか。
 民訴改正と新様式判決書の影響は、より大きいように思います。「新様式判決書では、在来様式判決書と違って、請求原因及び抗弁等の事実摘示を記載することにより順次判断していくわけではないので、過誤を招く恐れが多く、注意を要する」(原田和徳「要件事実の機能-裁判官の視点から」『民事要件事実講座199頁)との指摘があります。新様式では、裁判官がきちんと要件事実を把握していなくても判決を書けるともいわれています。
 このように、実務では、要件事実論の危機が叫ばれているのに、租税訴訟では、要件事実論に対する関心が強まっているように感じるのは気のせいでしょうか。
 元々、司法研修所で教えていたせいか、要件事実論について“得体の知れないもの”と漠然と否定的なイメージを持たれる方もおられるようです。
 古い話になりますが、私が、法学部に入学した頃、購入した「新版現代法学入門」(加藤一郎・伊藤正巳編有斐閣双書)には、「裁判官は、まず、事件の具体的事実関係の中からそれに即した具体的に妥当な結論を見出そうと努め、つぎにそこから得られた結論を、法規からの理由づけによって正当化しようとする。その場合に、法規は決して文字そのままの固定的なものではなく、裁判官は、結論の理由づけに適合するように、解釈によって法規を操作していく。…しかし、それを判決文にあらわすときには、あたかも法規から、自動的ないしは必然的にその結論が導き出されたかのように、三段論法的な構成で叙述がなされるのがふつうである。」と書いてありました。実務につくと、裁判官ではないので想像を含みますが、なるほどなるほどと思ってしまうところがあります。伊藤滋夫教授も、「事件の筋にあった結論」とか「すわりの良い結論」があるとおっしゃっておられます。しかも、租税訴訟をみていると、「すわりの良い結論」を優先した結果、法理論や法解釈の限界をこえているのでは?と思うことがあります。
 伊藤滋夫教授は、要件事実の考え方の特徴(①要件を分析的に検討して厳密に考える、②各要件の内容をなす事実を具体的に考える、③各要件を原則・例外の形として考え、どの原則とどの例外がどのような意味で対応しているかを具体的に考える)は、実体法の解釈理論に寄与すると指摘しています。こういう基本的な態度って、やっぱり大切だよなあ…と思う今日この頃…。
 なお、「税法学」への寄稿については、世にでましたら、また、このブログでご報告します。