2017年4月29日土曜日

不在者財産管理人名義の登記はできるのか


1. 昨年、不在者財産管理人として、名古屋法務局に、不在者所有の不動産について、不在者財産管理人名義への表示変更、保存ないし移転登記ができるかを、問い合わせたことがあります。

2. まず、不在者財産管理制度(民法25条以下)について軽く触れておきます。
 不在者、すなわち、住所や居所からいなくなり、容易に帰ってくる見込みのない者…がいて、しかも、その不在者が管理者を置かずその財産を放置していれば、不在者本人、あるいは、その利害関係人が困ることもあるでしょう。
 また、以前このブログでほんの少し触れたことがあるように、相続が発生したものの、相続人中に不在者がおり、且つ、失踪宣告の要件をみたしていない場合には、遺産分割協議ができず、やはり、困ってしまいます。
 このような場合、家庭裁判所に申し立てることにより、不在者財産管理人を選任してもらうことができれば、不在者財産管理人は、家庭裁判所の監督の下、不在者の法定代理人として、不在者所有財産の管理・保存にあたるほか、家庭裁判所の権限外行為許可を得た上で、不在者に代わって、遺産分割や不動産の売却などを行うことができます。

3. ちなみに、民法には、相続人不存在の場合における相続財産管理制度(民法951条以下)というものも用意されています
 相続が開始したものの、相続人がいなかったり、あるいは、相続人の存否が明らかでなかったりする場合、相続財産は、宙ぶらりんの状態になってしまいます。そこで、家庭裁判所は申立てにより相続財産管理人を選任し、相続財産管理人が、家庭裁判所の監督の下、相続財産を管理、清算等したり、最終的には国庫に帰属させたりすることができます。
 なお、民法上は、「相続財産管理人」と規定されており、「相続財産の管理人」は、相続人不存在の場合だけでなく、限定承認などでもでてきます(民法936条1項など)。

4. 不在者財産管理制度と相続財産管理制度は、上記の通り、似た制度のようにみえますが、異なる点の一つが、後者の相続財産管理制度において、「相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする」(民法951条)とされていることです。(相続財産の属する権利主体を擬制するための法技術。最判平11.1.21の最高裁判例解説参照)。
 そこで、相続財産管理人は、就任後、不動産については、「相続財産法人名義」への付記登記を行うことになっています。不動産登記簿上の名義は、「亡○○○相続財産」となります。ちなみに、相続財産管理人の法的地位については、諸説ありますが、相続法人を代表する機関であると解されます(『家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務』日本加除出版㈱)。 

5. 冒頭の登記に係る問い合わせは、家庭裁判所の示唆を受けて、不在者財産管理人として、行いました。
 事前に、書物や判例・裁判例をあたってみましたが、不在者財産管理人名義の登記についてふれたものは見当たりませんでした。
 それでも、家庭裁判所から示唆があったのは、それなりの理由があったからです。
 そこで、名古屋法務局にその旨問い合わせ、検討を依頼したところ、名古屋法務局の回答は、

・不在者財産管理人名義の登記の先例は、聞いたことがない。

・理論的にも、相続財産管理制度の場合には、民法951条があるが、不在者財産管理制度にはない。したがって、不在者財産管理制度の場合には、相続財産管理制度の場合のように、表示を変更する登記はできないと解釈している。

ということで、不在者財産管理人名義の登記による対応はあきらめ、別の対応を考えることになりました。

 

The Family Court may, at the request of any interested person, appoint an administrator for an "absentee" (anyone who has left one’s domicile or residence) for the administration of his/her property.
The Nagoya Legal Affairs Bureau delivered its opinion that in case an absentee has registered real property, the administrator cannot register his/her name even as supplemental registration.