2015年1月30日金曜日

雪の長浜で盆梅展の盆栽をみて考えたこと(美術の著作物、その原作品の所有者ができることなど)


1. 先日、滋賀県湖北地方の長浜に行く機会がありました。
 名古屋からだと、新幹線を利用すれば、1時間足らずで到着します。
 行ってみて、雪にびっくり…。地元の方に聞くと、琵琶湖の周辺では、一番、雪が深いとか…。
 長浜といえば、まずは、長浜城。歴史ドラマなどで度々登場します。秀吉が一国一城の主になり、それまで「今浜」とよばれていたのを「信長」の「長」をとって命名したんですよね。雪の長浜城の写真をアップします。

 
雪の長浜城
 
長浜城からの眺め


2. 長浜の慶雲館では、盆梅展が開催されていました。
 樹齢400年を超える古木もあるそうで、明治天皇の行幸啓のために建てられた趣のある建物の中に、大きな盆梅(梅の盆栽)が並ぶ様は、圧巻でした。
 盆梅展では、フォトコンテストが実施されており、盆梅の写真撮影はOKなのですが、職業柄、盆栽は著作権法上の「著作物」にあたるのだろうか…なんて、変なことを考えてしまいました。
 帰ってから、手元の書籍等を調べてみましたが、はっきりと記載されているものをみつけることはできませんでした。
 もっとも、著作権法上、「著作物」は、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義されているところ(同法211号)、盆梅展で展示されているような盆栽は、形状・線等で思想・感情を表現した美術の著作物に当たり得るのではないか…と、個人的には思います。生け花は、美術著作物として明記されていますしね…(中山信弘『著作権法』等)。
 しかし、樹齢400年を超えるとなると、誰が著作者に?という話もでてきますかね。「二人以上の者が共同して創作した著作物であつて、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないもの」と判断されれば共同著作物(同法2112号)となり得ます。でも、共同著作物となるには、一般的には、主体的な共同意思のもとに各著作者が共同して創作行為をなす必要があると解されています(共同意思説)。盆栽の場合、通常、後世の盆栽作家が事後的に改変することになるでしょうから、主体的な共同意思が認められるか疑問なしとはいえません。もし、後世の盆栽作家の事後的な改変部分に創作性が認められるものの、当初の盆栽作家との主体的な共同意思はないと判断されるならば、二次的著作物となり、著作権が重畳的に存在することになります。
 きれいな盆梅をみて、何を考えているんですかね(苦笑)。

 
盆梅展(於 慶雲館)
  → <後記>
      後日、著作権の保護期間について、触れています。
       http://www.hisaya-avenue.blogspot.jp/2015/02/blog-post_6.html

3. ところで、盆梅展に展示されているような素晴らしい盆栽が、著作権法上の「著作物」であると認められるとして、もし、お金を払って当該盆栽を購入たら、どうなるでしょうか。実は、当該盆栽の所有権を取得するだけで、当該盆栽の著作権を取得することはできません。
 ちょっと難しくなってしまいますが、所有権は、対象である物を使用・収益・処分できる権利であり(民法206条)、有体物を客体とする排他的支配権能であるところ、著作権は、無対物である著作物を客体とする排他的支配権能であり、その客体が異なることから、「著作物の保護期間内においては、所有権と著作権とは同時的に併存」(最判昭59.1.20)するのです。このように、所有権と著作権は、同時に、別個に、存在するので、普通の売買契約により取得できるのは、所有権だけとなり、著作権もほしければ、別途、著作権譲渡契約を締結する必要がある…ということになります。
 もっとも、美術の著作物の原作品の所有者は、「原作品により公に展示することができる」(同法451項)とされていますので、当該盆栽の所有者になれば、当該盆栽を盆梅展等に出品することはできます。
 また、平成21年の著作権法の改正により、美術の著作物の原作品の所有者は、原作品の譲渡等の際の「申出の用に供するため」複製と公衆送信を行うことが可能となりました(同法47条の2)。つまり、インターネットオークション等のために当該盆栽の画像をインターネット上にアップすることができます(ただし、一定の要件のもと)。ということは、原作品の所有者であっても、それ以外の場合に、著作権者の同意なく、当該盆栽の画像をアップすることはできないということになりますね…。
 細かいことを色々と考えていると、怖くなってきます。
 もっとも、美術著作物の著作者は、音楽著作物の著作者ほど恵まれていないとの指摘もあります。音楽著作物の場合、著作権等管理事業者がとてもしっかりしていますからね…。また、そもそも、美術著作物の場合、その著作者は、原作品の譲渡の対価を得るだけで終わることが多く、複製物の販売等、著作権利用の対価まで得られることが少ない…というのも、想像に難くはありません。

2015年1月26日月曜日

日本人の子供に初めてハーグ条約が適用されたとされるケース(英国の裁判所が日本への返還を命じた)で、日本に帰国後、大阪家裁の調停で、(子供が)母親の暮らす英国に戻る結果となったという記事を読んで


1. 年が明けて、バタバタとしてブログを更新できずにいたら、あっという間に、1月も残すところあと数日…(汗)。
 事務所のホームページには、何とか、「事務所通信第4号」(平成27115日号)を掲載しました…
 今回は、先月上海市静安地区の弁護士との共同セミナーで発表したテーマ「国際的二重課税回避の基本的枠組み」をメインに、投資信託の共同相続に係る近時の判例(最判平26.2.25、最判平26.12.12も、とりあげています。
 今回は、どちらも、ちょっぴりマニアックだったでしょうか。特に、前者については、枝葉にはこだわらず、何とか幹をお見せしようと頑張ってみました…。それでも、力及ばず、どうにも読みにくいかもしれませんが、新しい分野に興味を持っていただくきっかけとしただければ、大変、嬉しいです(逆に、少しでも関わりのある方には、新味のない記載となっていることと思います)。

「事務所通信第4号」はこちら(↓)


 
2.(1) ところで、今日は、以前とりあげたハーグ条約(「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」)について、少し、補足してみたいと思います。
 昨年末になってしまいましたが、日本経済新聞(平成26年12月24日朝刊)において、日本人の子供に初めて同条約が適用されたケースについて、以下のように書かれていました。
「日本人の子供初めて同条約が適用されたのは今年7月。日本人の父親が英国の裁判所に申し立て、日本人の母親と一緒に渡英した子供(当時7)に日本への返還命令が出された。日本に帰国後大阪家裁調停を行い、母親の暮らす英国に戻る結果となった。」(太字は筆者)
 これ以外の情報は得ておりませんので、詳しいことはわかりませんが、この結果は、ハーグ条約の特徴をよく示しているのではないかと思います。
 

     以前も触れました通り、ハーグ条約の大きな特徴として、返還事由が認められる限り、子の常居所地国に返還すること原則としていることがあげられます。これは、「一旦生じた不法な状態(監護権の侵害)を原状回復させた上で,子がそれまで生活を送っていた国の司法の場で,子の生活環境の関連情報両親双方の主張を十分に考慮した上で,子の監護についての判断を行うのが望ましいと考えられているから」(外務省のHPより。太字は筆者。)等と説明されています。つまり、子を連れ去られた親(Left Behind Parent, LBP)への返還を直接的に目的としているのではなくひとまず、子の常居所地国へ返還し、子の常居所地国で、親権や監護権について判断しましょうという考え方に基づいているということです。 
 なので、上記の通り、英国の裁判所で日本人の子供に初めてハーグ条約が適用されて日本への返還が命じられたケースでも、子の常居所地国たる日本において調停手続が行われ、結局、母親の暮らす英国に戻ることになったというわけです。

 
以前のブログ(↓)


 
(2) また、上記のケースは、親子とも日本人、子の常居所地国も日本ということのようですが、子の常居所地国法と、親や子の本国法が異なる場合、必ずしも、子の常居所地国の法律に基づいて、親権や監護権等が判断されるとは限りません
 法律の専門家でないと、例えば、日本の裁判所においては、日本の法律しか適用されないと思われている方がいらっしゃるかもしれません。
 しかしながら、日本ならば「法の適用に関する通則法」という法律があって、同法32条は、
「親子間の法律関係は、子の本国法が父又は母の本国法(父母の一方が死亡し、又は知れない場合にあっては、他の一方の本国法)と同一である場合には子の本国法により、その他の場合には子の常居所地法による」
と規定しています。本条により、例えば、父が日本人、母と子がA国人なら、「親子間の法律関係」には、原則として、A国法が適用されることになります。本条の「親子間の法律関係」とは、親権や監護権の帰属、内容、喪失等といった問題を指し、離婚に伴う子の親権の帰属等についても、原則として、本条の定める法律が適用されます。

 このように、国際的要素を含む私的法律関係に、どこの国の法律を適用するかを決定する(準拠法を決定する)法律を、一般に、「国際私法」とよんでいます。
 この「国際私法」が世界中で統一されていれば、どこの国で裁判が行われても、同じ国の法律が準拠法となり安心ですが、残念ながら、「国際私法」は、原則として、各国の国内法にとどまっているというのが現状です(それこそ、ハーグ国際私法会議(*)で、その国際的な統一についての努力が続けられています)。
 つまり、子が常居所地国へ返還された後、子の常居所地国の司法において親権や監護権についての判断をあおぐ際、もし、子の常居所地国法と、親や子の本国法が異なっている場合には、必ずしも、適用される法律が子の常居所地国法になるとは限りません。どの国の法律が適用されるかは、原則として、子の常居所地国の国際私法により決められる…というわけです。
 

*ハーグ国際私法会議(Hague Conference on Private International Law

1893年以来、オランダのハーグに本拠を置いて、国際私法の世界的な統一のための条約の作成作業を続けている国際機関。今回とりあげているハーグ条約(「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」)も、ハーグ国際私法会議で採択された条約の一つです。
 

⇒ <後記>
     「ハーグ条約の基礎」事務所通信第7号に載せました。
   http://www.hisaya-ave.com/tsushin7-7.html
   PDF版はこちら。
   http://www.hisaya-ave.com/jimushotsushin7/jimushotsushin7.pdf

2015年1月4日日曜日

新しい年を迎えて…


1. 新しい年、2015年を迎えました。
今年も、一つ一つの仕事に対し、誠実に取り組んでいきたいと思います。
 

2. 名古屋の元旦は、薄っすらと雪化粧しました。
写真をアップします(↓)。